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【飛翔】

「アリアーナからの『念話』ですわ。例の空飛ぶ機械とやらが現れたそうです」


 防衛隊の陣地にとどまっていたクラウディアーナが、かたわらのアサイラを見る。暗闇を篝火が照らすなか、黒髪の青年がうなずく。


「リンカどのでしたか、彼女の『龍剣』修理が間に合えば理想でしたが……」


「無いものねだりをしても、始まらないか……俺たちだけの力で、あれをしとめるぞ。ディアナどの」


「うふふふ。『どの』はいらない、と何度言わせる気ですか? 我が伴侶」


 平時と変わらぬ微笑みを浮かべた龍皇女は、陣屋の前から少しばかり開けた場所へと歩を進めていく。


「グヌ……ッ?」


 アサイラは思わずうめき、まぶたを閉じて、眼前に腕をかざす。クラウディアーナの身体が、まばゆいばかりの閃光に包まれる。


 青年がふたたび目を開くと、そこには龍皇女が身にまとっていたドレス同様に、全身から白銀の輝きを放つドラゴンがいる。


 いままで見てきた龍たちとは、明らかに異なる姿だった。背の翼は、全部で三対の六枚。たてがみは、光の筋のように夜風にたなびいている。


 大きく伸びているであろう尾だけは、根本から斬り落とされている。千年前の古傷であっても、いまだに痛々しさを覚えさせる断面だった。


『どうぞ我が伴侶、背に乗ってくださいまし。火急ゆえ、土足でかまいませんわ』


「……そうか」


 龍態のクラウディアーナの姿に気圧されながらも、アサイラは地面を一蹴りして跳躍し、白銀の上位龍(エルダードラゴン)の背に降り立つ。


 青年の体重を感じ取ると同時に、龍皇女は垂直方向に上昇する。まるで、重力など意に介さないかのような飛翔だ。


 アサイラとクラウディアーナは、一息のうちに『龍都』と丘のふもとの戦場を俯瞰できる高度までたどりつく。


──キイィィ……ィイインッ!


 耳障りな金切り音が高速で接近し、龍皇女とすれ違う。青年は一瞬だけ、月光に照らされた黒い機影を見やる。


「あれは……ステルス戦闘機、か?」


 アサイラの眉間にしわがよる。自分の知識と視覚に間違いがなければ、平坦な三角形を思わせる機体は、通常の戦闘機ではなく、ステルス機と呼ばれる類だ。


 だが、この次元世界(パラダイム)技術(テック)は、中世レベルだ。レーダーを持たない相手に、ステルス性などが必要だろうか?


『我が伴侶……わたくしの身体に、しがみついてくださいまし!』


 青年の思案を中断するように、身体が強烈な慣性に揺さぶられる。敵機がこちらを狙うように反転し、龍皇女はかわすように横に身をすべらせる。


 重い発射音を響かせながら、搭載機銃が炎を噴く。携行用のアサルトライフルよりも遙かに大きな口径の銃身から、破壊の礫がまき散らされる。


 曳光弾の輝きが、夜の帳を引き裂き、せまる。クラウディアーナは、六枚の龍翼を盾のように前面にかかげ、自らと乗り手を防御する。


 黒いステルス機が、上位龍(エルダードラゴン)の真横を通過する。クラウディアーナもまた、間合いを切ろうと高速で前進する。


 龍皇女の背に抱きつきながら、アサイラは強烈な風圧に耐えつつ、顔をあげる。


「ディアナどの……敵の真上をとることは、できるか?」


『……我が伴侶の頼みとあらば、ご覧に入れてみせましょう』


 クラウディアーナは、翼を巧みに操り、短い旋回半径で反転する。敵機もすでに、こちらを向いている。ドラゴンとステルス機が、ふたたび正面から交錯する。


 搭載機銃が、掃射される。上位龍(エルダードラゴン)相手に決定打とはならないが、無傷ともいかない。光る鱗が削りとられ、暗天に飛び散っていく。


 二重螺旋を描くような軌跡で、龍と戦闘機は幾重にも錯綜を繰り返す。青年は、ブラックアウト寸前まで追いこまれつつも、どうにか意識を死守する。


 やがて、上下が逆転した状態でクラウディアーナは、黒い機影に高度で勝る。


「ウラアァァ──ッ!」


 その一瞬を見逃さず、アサイラは龍皇女の背を蹴る。急降下するように跳躍し、戦闘機の上面へと飛び移る。


「……グヌギギギッ!」


 強烈な風圧と慣性を受けて、天面を転がりながら、上部装甲の継ぎ目に左手の指を引っかける。どうにか敵機に喰らいつき、青年はひざ立ちとなる。


 アサイラは、黒い機影を睥睨する。平面の三角形がそのまま空を滑るような奇妙なフォルム。尾翼のほかに、ウサギの耳を思わせるアンテナが二本、伸びている。


 強引に体重を支える左手の五本の指から、血がにじむ。あまり長くは、もたない。アサイラは、右手の拳を月に向かって振りあげ、渾身の力をこめる。


「ウゥ──ラアアアッ!!」


 瓦割りのような動作で、削岩機のごときパワーの拳が、黒い上面装甲へと叩きこまれる。命中した。にもかかわらず、青年は奇妙な感触を覚える。


 ステルス機の天面には、傷ひとつ負わせられていない。しかし、強固な装甲に打撃を阻まれたような感触もない。手応え自体を、まったく、感じない。


「グヌ──ッ!?」


 敵機が、張りついた邪魔者を振り払おうと、バレルロールを仕掛けてくる。高速の遠心力で、アサイラの身体が夜空に放り出される。


 自由落下する青年を、真下に回りこんだクラウディアーナの背が受け止める。


『いかがでしたか、我が伴侶?』


「妙だ。まるで霞を殴りつけたかのような……」


 無茶を強いて、ずきすきと痛む左手を抑えながら、アサイラはつぶやく。おかしなことに、鋼鉄を殴りつけたはずの右手には、まったく痛痒を感じない。


『競技会に出場した龍たちが、束になっても落とせなかったという相手。侮っていたわけではありませんが……予想以上の難敵のようですわ』


 龍皇女は、高速で滑空しつつ頭をもたげる。青年もつられて上方を見る。


 星空を背に、搭載機銃がにらみをきかせている。ステルス機の下部には、沈黙の殺意をたたえたミサイルの弾頭が、不気味に月光を反射していた。


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