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【黒煙】

「なんということ……」


 クラウディアーナは、表情を変えることなく、呆然とつぶやいた。龍皇女と、アサイラ、シルヴィア、アリアーナの四人は、夜闇に沈む『龍都』の街並みを見る。


 人家に灯っている明かりは、わずかだ。代わりに、カンテラを手にした衛兵や自発的に救護活動に加わった市民が走り回っている。


 月光に照らされて、街のあちこちから立つ黒煙が見える。『龍都』のシンボルである『龍の尖塔』はへし折れて、周囲の家屋を巻きこみながら崩落している。


 アリアーナの先導のもと、アサイラたちは、市街の周囲に設けられたテント村へと移動する。観光客であふれていた仮設宿舎は、いまや負傷者であふれている。


「龍皇女殿下。一般市民や旅行者たちは、側近龍たちそれぞれの『庭園』に避難させましたが、よろしかったでしょうか……?」


「よい判断ですわ。必要であれば、宮殿を解放するように」


 側近龍をねぎらうように一瞥したクラウディアーナは、満足げにうなずく。君主の言葉を受けて、アリアーナは恐縮したように深々と頭を下げる。


「人々の避難状況はどのようになっていますか、アリアーナ?」


「病人や老人のなかには、『龍都』に取り残された者もいて……我々も詳細を把握できいませんが、建物の崩落に巻きこまれた人も少なくないようなのですよ」


「……アリアーナ」


 主君と家臣の会話に、余所者である黒髪の青年が割ってはいる。


「『龍都』に集まっていたドラゴンたちは、どうした。セフィロトの攻撃を受けて、ただ黙っていたのか?」


「それは……実際に見ていただくのが、早いと思うのですよ」


 側近龍は、アサイラの問いかけに言いよどむ。淡い光がこぼれる幕屋の狭間を抜けて、一同は夜露にぬれ始めた草原を歩いていく。やがて、篝火の輝きが見える。


 テント村と『龍都』を背負うように、街の衛兵や魔術師、競技会に参加した冒険者、それにドラゴンたちが、防衛隊を結成し、集結している。


 しかし、彼らの士気が軒昂ということはなく、遠目からでも沈痛な空気が伝わってくる。兵員たちには、傷を負っている者も多い。


 龍皇女の姿を認めて、見張りの兵士は最敬礼をする。それでも、ほかのものたちには次元世界(パラダイム)の支配者の来訪に気づく余裕すらない。


「──ッ」


 アサイラは、眉根を寄せる。シルヴィアは、言葉に詰まる。地面にうずくまるドラゴンたちの鱗ははがれ、ひどい裂傷を負い、赤い血がにじみ出ている。


 生態系の王者であるはずの龍たちは、意気消沈し、重い気配に満ち満ちている。


「……大物龍!」


 夜の草原に、場違いに生えた岩山のような影を見つけて、黒髪の青年は駆け寄る。ひときわ巨体のドラゴン──ヴラガーンは、わずらわしそうに顔をもたげる。


『ふん……あのときの人間か……』


「なにに、やられたのか……?」


『シューシューシュー……ウェル・テクスの使っていた鉄杭……喰らう側に回れば、これほど厄介とは思わなかったぞ。このザマでは、側近龍のことも嘲えんな』


「……スティンガーミサイルか」


『オレは、あれを魔法(マギア)のたぐいだと思いこんでいたからな……まさか、あの数の歩兵どもが、当たり前に使ってくるとは予想外だったぞ……』


 暴虐龍は、自嘲気味に鼻を鳴らす。見あげるアサイラを後目に、ヴラガーンはまどろむように目を細める。閉じかけられた巨岩のごとき瞳が、見開かられる。


「『龍都』を傷つけたのもその鉄杭とやらですか、暴虐龍?」


『龍皇女……ッ!』


「重要なことですわ、暴虐龍。わたくしの質問に答えなさいな」


「それは、違うと思うのだな」


 龍皇女のヴラガーンに対する詰問に、シルヴィアが言葉を挟む。


「スティンガーは、対空ミサイル。飛ぶ相手には使えるが、地上の目標を撃つのは想定外。たぶん、ドラゴンの相手をするためだけに使ったはずだな」


『獣人の小娘か、珍しいな……ああ、ウヌの言うとおりであろうぞ』


 暴虐龍は、苦しげに巨体を身じろぎさせる。それだけで、あたりの地面が震える。


『街を襲ったのは、黒い三角形の空飛ぶ機械……オレたち龍は、あれを墜とそうと飛び立ち、阻止できぬばかりか、返り討ちにあってこの有様ぞ……』


 ヴラガーンの言葉を聞いて、シルヴィアは狼耳を伏せ、あごに手を当てて思案する。迷彩柄のジャケットを羽織る獣人娘は、いまや歴戦の兵士の瞳をしている。


「獣人の子よ。暴虐龍の話から、なにかわかりまして?」


 純白のドレスの龍皇女が、シルヴィアに問いかける。


「……こちらが指揮官だとすれば、夜明け前に再攻撃を仕掛けることくらいだな」


「なるほど……では、そなたに『龍都』の戦力の指揮を一任します」


「……ひょこッ!?」


 予想もしていなかったクラウディアーナの言葉に、シルヴィアは瞳を丸くして、反射的に耳をまっすぐうえへ立てる。


「わたくしは我が伴侶とともに、空飛ぶ機械とやらを迎え撃ちますわ。そなたは、地の敵を抑えてください……アリアーナ、彼女の補佐を」


「御意に、龍皇女殿下。それでは、えーっと……シルヴィアどの、でしたっけ。よしなに、なのですよ?」


「く、ク~ン……」


 碧眼を細め、金髪を揺らしながら、アリアーナは微笑みかける。シルヴィアは未だ戸惑いの表情を浮かべ、その頭上ではヴラガーンが不機嫌そうに鼻を鳴らした。


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