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二日目、かれえらいす


 てんご様が「かれえだかれえだ」と喜んでおられます。

 なるほど。

 この褐色の汚泥は、枯れ枝を煮詰めた汁なのやもしれませぬ。

 おそらくは香木を使ったもので御座いましょう。

 そうでなければ、これ程に強い匂いにはならぬはずで御座います。

 狩れ偉い巣だと思っていたのは此方こちの勘違いで、枯れ枝に(まつ)わる食事なのでしょう。


「いただきます!」


 てんご様の金属製のさじが勢いよく走り出し、白くふっくらとした粒々と、褐色の汚泥が如き煮汁を一纏めにして掬い上げます。

 なんと、それをそのまま口の中へと放り込み…!

 ああっ!

 まだ湯気が濛濛もうもうと立ち上ぼり、熱気も冷めやらぬというのに!

 なんとも豪快で、これほどに苛酷な食事が人の世の常なのば…


 これは、此方こちにはまだ早いのではないでしょうか?

 難度が高過ぎに御座います。


 されど、此方こちの前にも立派に一皿盛られて御座いますれば、此処で挑まぬのも失礼が極まるというもの…

「冷める前に食べなよ」

 てんご様が此方こちに食事することを促します。

 熱きものは冷めていく。

 それは当然の理で御座いましょう。

 そして、冷めればこの食事の儀は失敗ということが今の台詞より理解できました。


 山吹様…

 店長様…

 此方こちを信じて貴重な枯れ枝の煮汁を捧げて下さったに違いなく…

 此処が此方こちの死地になれども…

 一つ、覚悟を決めましょう。


「いただきます!」


 此方こちは眩しく輝く匙を掴みます。

「これですくい、召するのですね。人の食事は初めてなので緊張します」

 金属製故の特性なのか、匙のひんやりとした感触が今は頼もしく!


 此方こちは掬い!

 此方こちみ!

 此方こちは掬い!

 此方こちみ!

 一心不乱に!

 ただひたすらに!

 熱く、またそれだけではない刺激が口腔内で暴れまわり…

 それでも、此処で屈するわけには…!

 ああ、てんご様が残念なものを見る目で此方こちを眺めておられます!

 此方こちの食事がそれほど無残なのでしょう…

 なんとも情けなく…

 

「ゆっくり食べて良いんだよ」


 なんと!?

 人の基準に至らぬ此方こちを気遣ってのことでしょうか。

 此方こちは、口内に残っている煮汁をまずは呑み込むことに尽くします。

 それをゆっくりと待っていて下さるてんご様…

 なんとも申し訳無い心持ちで御座います。


「人の食事が、このような熱い料理をこのように激しく頂く、難度の高い儀式だとは思わず。未熟で至らぬこちへの配慮、感謝します」

 あのままでは此方こちは折角の煮汁を吹き出していたやもしれません。

「自分のペースで食べたら良いよ。食べ方も決まってないからね。ぼくも、普通に自分の食べ方で食べてるだけだよ」


 それは、考えてもみないことでした。

 此方こちは己のぺえすという物は持っていないのでこの匙を使わせて頂こうと思いますが、それでも食べ方も決まっていないとは…

「そのような自由な、、いえ、それが人としての在り方なれば…」


 先ほどの高難度の食事がてんご様の達人技であったというだけで、此方こち此方こちにあった難度の食事をすれば良いということなのでしょう。


 少し、心が落ち着きました。

 てんご様のおかげで御座います。


 今度は無理のない量の掬い、ゆるりと食します。

 ふむ。

 熱く、刺激的ではあれど、枯れ枝の煮汁とは思えぬほどに濃厚な味わいで御座います。

 白き粒々は噛むほどに味わい深くなり、煮汁と交われど、交わる程にその存在感を増していきます。

 少し食べ方を変えるだけで、これはなんとも美味が極まり…


「大変、美味しくございますね」


 此方こちが何気無く言った一言で、てんご様がにっこりと笑いました。

 その笑顔を見ていると、かれえらいすを殊更に美味しいと感じるのが何とも不思議で御座います。


 そして、此方こちは無事に人の世での初の食事を平らげたので御座いました。



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