二日目、食堂への道
突然、てんご様が「おひるだおひるだ」と言って慌てて席を立ちました。
此方にも付いて来るように言われたので、お邪魔にならないように三歩分ほど離れた後ろをついて行きます。
然れど、靴を履いて玄関を出た直ぐ先で、てんご様が此方の隣に並んで立たれます。
後ろに下がるべきでしょうか?
それも失礼で御座いましょうか?
こちの知識では判断ができませぬ。
「ねぇ、どうやってこの家に来たの?」
それも大切なことなのでしょうか?
此方にはこの玄関先に来る前のことは分からなかったので、その後のことだけを話します。
「きざし様に送り届けていただきました。このいんたーほんを押せば良いと、そう言われて去っていかれたのです」
いんたーほんを指し示す此方。
しかし、てんご様は何やら悔しそうに玄関先を睨んでおりました。
此方は何か失敗してしまったのでしょうか?
然れども、てんご様はまた歩き出されました。
此方は少し後をついて行きます。
さて、少し歩くと分かりました。
困ったことに人の世での移動は不馴れな為か、こちは歩くのが辛いようです。
とはいえ、此方は置いていかれるのが不安であり、てんご様に迷惑をかけるのも嫌で御座います。
頑張らねば…
などと気合いを入れ直していると、てんご様は歩く早さを落として下さいました。
全く迷惑だと感じている様子もなく、にこにことしておられます。
「山吹食堂はカレーライスがお勧めだよ」
てんご様がにこにことそう仰られました。
はて…
狩れ偉い巣…
では無さそうですね。
然れど、てんご様が勧めてくださるのなら何が来ようとも受け入れる心積もりはしておくべきで御座いましょう。
「お蕎麦も美味しいよ」
なんと!
今度は此方でも知っている単語でした。
「お蕎麦は食べたことがあります」
此方がそう告げると、てんご様も嬉しそうにして下さいました。
美味しいという感覚が分からないのは神威である此方と、人間であるてんご様の違いなので御座いましょうか。
然し、てんご様と共通の体験があったことがこちにはとても嬉しく、ついつい無意識に頬がゆるんでしまいます。
今ならば、偉い巣を狩ることにも全力で挑めそうだと、そう心の底より思えます。
感情とは、何とも不可解で、奥深く、刺激的なもののようで御座いますね。