表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
pinE  作者: 高松ノベライズ計画実行委員会
7/7

1-5・クローズ・トゥ・ユー

執筆者No.007


※*間の歌詞は引用・訳詞は創作。

オカモトは目を疑った。なんとアナヤが目の前で鬼に食われてしまったのだ。

 気づくとアナヤを食べていない方の鬼が自分の方に向かってきた。逃げようとするが、腰が抜けて体が動かない。まるで顔が濡れたアンパンマンのように。喰われる、と思った瞬間、あの甲高い音が鳴り響いた。すると自分を食おうとしていた鬼が倒れ、意識を失った。ふと目をやると、フジが鬼をにらみつけている。フジがこれをやったということを認識するまでにオカモトはいくらか時間がかかった。しかし今の状況ではそのことを受け入れるしかない。

  一番慌てふためいていたのは仲間をやられたもう1匹の鬼だった。倒れた仲間の脈がなく、呼吸をしていないことを確認すると、鬼はオカモトに向かって「あなたは119番を!」フジに向かって「あなたはAEDを!」と叫んだ。しかしそんなことを鬼に言われたってやるはずがない。フジは容赦なくもう1匹の鬼も倒してしまった。

 フジは懐から短刀を取り出し、死んだ鬼のお腹を切り裂いた。すると、鬼のおなかの中からアナヤが出てきた。

 「あー、びっくりした。でも鬼のおなかの中はアダルティーな本もあったりして結構楽しかったなあ」と彼は気楽な感じでそう言った。オカモトは心の底から安心した。よかった。

 「オカモトくん」

 不意にささやかれ少し驚きながらうしろをふりかえるとフジがいた。

 「話があるの。ついてきて」

 彼女はそう言うとオカモトの手を取って走り出した。その場に取り残されたアナヤは二人を追うことをしなかった。ただ走っていく二人の後ろ姿を見つめていた。

 フジは公園を出て近くの寺の境内まで来るとオカモトの方を振り返った。

 「もう、あなたも薄々気づいてるかもしれないけど、わたしは普通の女の子じゃないの」

 彼女はまるで金魚すくいをするかのようにていねいに話をした。

 「わたしはね、鬼を寄せ付けない特殊な能力を持っているの」

 そう言われてもオカモトはさほど驚きはしなかった。先ほどの公園での出来事のときから

だいたいそんなものじゃないかと思っていた。

 彼女は続けた。

 「わたしは実はね、月からやってきたのよ」

これにはオカモトも驚いた。

 「何を言っているんだい。そんなわけないだろう」彼は自分に言い聞かせるように言った。「おとぎ話じゃないんだから」

 「いいえ、わたしは月から来たの。本当よ。

それにね、名前だってフジじゃないの。本当の名前はかぐやよ」

 オカモトは何も言えなかった。彼女の目は嘘を含んではいなかった。

  彼女はなおも話し続けた。

 「でも言いたいってことっていうのはそんなことじゃない。わたしがあなたに伝えたいことっていうのはね、つまり、その、わたしは今夜月に帰らなければならないの……」

 オカモトは唖然とした。あまりにも急で衝撃的な告白だった。

 「待ってよ。じゃあもう今夜で君と会うのは最後だっていうことなのかい?」

 「ええ...でも安心して。もうわたしの能力で世界中の鬼は全て退治しておいたから」

 彼女がそう答えたあと、完全な沈黙が二人を包んだ。いかなるものもそこに入り込むことはできなかった。その暗く重たい沈黙に包まれた二人の世界はあらゆるものを拒絶していた。まるで油が水を寄せ付けないように。

 どれくらいそのまま時間が流れただろうか。

 オカモトがようやく口を開いた。

 「僕はね...中学校の頃から君が好きだったんだ」オカモトはまるで卵を置くときのようにそっと続けた。「君は知らなかったかもしれないけどね。僕は君のことが大好きだったんだよ」

 オカモトとかぐやは目を合わせたまま瞬き一つせずにいた。まるで時間が止まっているかのようだった。

 「わたしもね」とかぐやが言った。「あなたのこと好きだったのよ。ずっと前から」

 彼女の声はとても静かだった。

 「本当かい?」とオカモトが訪ねる。

 「ええ、本当よ」

 「知らなかったよ」

 「言えなかったのよ」

 風が鋭く二人の間をすり抜けていく。そして満月は二人を凛として照らしていた。

 「僕は君ともっと一緒にいたいし、離れたくない。ここに残ってはくれないのか?」オカモトは子供がおもちゃをねだるようにそう言った。

 「わたしだってあなたと一緒にいたいわ。でもわたしは月に帰らなければならない。これは仕方のないことなの。決められたことなの」

 オカモトはもう何も言うことはできなかった。彼はただ、自分の視界がにじんでいくのを感じていた。

 「最後に、あなたにわたしの歌声を聴いてほしい。目をつむって。あなたに歌を贈るわ」

 彼女はそう言って歌い始めた。


*


Why do birds suddenly appear

Every time you are near?

Just like me, they long to be

Close to you


──どうして小鳥たちはあなたが近くに来るといつも現れるの?

たぶん小鳥たちもあなたのそばにいたいのね、わたしと同じように──


Why do stars fall down from the sky

Every time you walk by?

Just like me, they long to be

Close to you


──どうして星たちはあなたがそばを通ると降って来るの?

たぶん星たちもあなたのそばにいたいのね、わたしと同じように──


On the day that you were born the angels got together

And decided to create a dream come true

So they sprinkled moon dust in your hair of gold and starlight in your eyes of blue


──あなたが生まれた日には天使たちがみんな集まって夢を叶えようって決めたのよ

だからあなたの髪には月のかけらを振りまいて金色に、瞳には星の光をちりばめて青色にしたの──


That is why all the girls in town

Follow you all around

Just like me, they long to be

Close to you


──どうして町の女の子はみんなあなたを追いかけるのかしら?

たぶんあなたのそばにいたいのね、わたしと同じように──


*


 かぐやはカーペンターズの「They long to be

close to you」を歌った。自分で言う割には全然上手くなかった。カラオケで歌えば70点台前半というところだろう。

 オカモトが聴き終え目を開けると彼女はもうそこにはいなくなっていた。肌を突き刺すほど冷たい風が次から次へと吹き抜ける。月はもう雲に隠れてぼんやりとしか見えなかった。でもオカモトはいつまでもその月を見つていた。


*


 数日後、彼はかぐやが次へ行ってしまったストレスによりハゲてしまった。


 そして、育毛剤を使用するようになった。

今回で第1章終了です。

次回は2月15日午後7時掲載予定です……が、もしかしたら一週開けるかも。

また投稿時間を守らなかった?時差ボケだと思いましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ