1-4・フジのホワイトアウト・メモリー
執筆者No.005、No.001(順に構成、文)
鬼が世界を滅ぼしても別に構わない。けど、お爺様とおばあ様の笑顔を奪うのは許さない──。
フジの記憶は白い世界から始まる。気がつけば、その白い世界にいた。何故そこに居たかは分からない。ここに来る前にどこで何をしていたかも分からない。ただ、一つわかるのは、自分の名前だけ。だが、自分の名前が分かっても、今は意味はなさない。なぜなら、この世界には彼女以外何も存在していなかったのだ。人間を始めとする生物はもちろん、建物はおろか、山、海、空までもが存在していなかった。左を見ても、右を見ても、上を見ても下を見ても無機質な白い壁が続くばかり。それはまるで、この世界に突如としてやってきた彼女を嘲笑っているようだった。彼女はしばしの間茫然自失としていたが、ただそこに突っ立っていても何も起こらないと思い、ゆっくりと歩き始めた。この白い世界の出口を探すために。
どれほどの時間歩き続けていたのだろう。いや、そもそも時間という概念が存在しているかすら怪しいこの世界ではこの表現は間違っているのかもしれない。いずれにしても、彼女が見ている景色は先程と全く同じだった。これで、歩いてきた疲労感に襲われていたのなら、まだ、歩いてきたという実感が湧いたのかもしれない。しかし、現実は疲れたという言葉から縁もない状態だった。まるで、『レ・ミゼラブル』で主人公のジャン・バルジャンが物語の冒頭で刑務所から出所したあとに味わった、この世界の全てが自分の存在をいたぶっているような、そんな絶望が彼女を覆っていた。そして、彼女は思ってしまった。
「……この世界では何をしても無駄なのか」
たった一瞬頭をよぎったこの言葉により、彼女を覆っていた絶望が彼女の心を侵し、心を麻痺させた。
今まで吐くほど白かった空間は突如として真っ黒となり、まるで世界の終焉を迎える時の色そのものだった。手を伸ばしても、見えない。自分の手なのに、認知出来ない。自分の存在を確認できない。その瞬間、彼女は知らずして叫んでいた。
「私は、誰なの!?なぜ、私はこんな所にいるの!?なんか私、悪いことでもしたの!?ねぇ、誰か、助けて、この世界から出させてよっ!」
その時、「あなや!」という声とともに眩しい閃光に目を覆われた。次の瞬間、彼女は竹林にいた。彼女の前にはおのを背負った初老と思われる男性が口をポカンと開けて立っていた。
「嬢ちゃん、君の名は……」
「……かぐや」
*
「……あのとき、お爺様に出会って居なかったのなら、今、私はどう生きていたのだろう」かぐやはあなや党とかかれた看板の上に立ちながら、独り言を呟いた。
本当にお爺様とおばあ様には感謝している。お爺様が身元の分からない、更に記憶もないかぐやをかくまってくれて、おばあ様がかぐやを我が子のように深い愛情を注いで育ててくれた。
こんなにいたれりつくせりで良いのかと思うほどに。こんな風に養って頂くだけでは申し訳ない、自分も何か手伝えることはありますか?そんなことをお爺様とおばあ様に聞いた時、2人ともとても驚いた顔をされていたのをかぐやは忘れるはずもない。元々、かぐやはそんなに欲深くは無く、多少ワガママを言ってもお爺様とおばあ様は笑顔でかぐやの願いを叶えていた。しかし、今回は必死の形相で「何にもしなくていいよ、大丈夫」とかぐやの意見を却下した。「それでも、お願いします」「かぐやちゃんは何にもしなくて大丈夫だよ」と堂々巡りが1時間程続いたが、最終的にはかぐやが土下座した事で老夫婦が折れた。そしてかぐやに驚くべき事実を伝えた。
「実はな、この世界には凶悪な鬼が存在するのだ。ワシら一族はな、古代……1500年くらい前からかのぅ……。鬼を倒すための研究を続けてきたのだ。そこでお願いがあるのだがかぐやちゃんには鬼を倒す手伝いをして欲しい。もちろん、武器を持って戦えと言うわけではないぞよ。この家に来た直後に身体検査をしたのを覚えているかい?そこでな、かぐやちゃんの歌声を鬼が嫌いな周波数と全く持って一致するんだ。今まで人工的に作った音では鬼に聞かなくてのぅ……。どうか、鬼を倒すために歌って欲しい、頼む」
もちろん、かぐやは喜んでその事を了承した。今まで何にも役にも立てなかったことにもどかしさを感じていた。少しでも、自分が役に建てるのなら何だってする、そうかぐやは決意した。
そんな過去の記憶を思いふけて、目の前の現状、そう、クラスメイトのオカモトとアナヤが鬼に襲われそうになっている状況から目を離した途端だった。
「あなや!」
「あなやーっ!」
二重の意味で聞こえてきたあなやという声ににはっと気を戻したかぐやは目の前の惨状に身動きが取れなかった。
あなやが鬼に喰われたしまったのだ。
3時間28分投稿が遅れた?気のせいだと思いますよ。ほほほ。
次回は2月8日午後7時掲載予定です。