1-2・オカモトはハヴ・ア・フレンド
執筆者No.002
「お、おはよう」
顔もまともに見られないまま、中森明菜のようなか細い声でフジさんに挨拶をした。この声量では当然届くはずもなく、フジさんは足早にオカモトの目の前を通り過ぎていった。
「オカイツー」
いきなり後ろから声をかけられた。同じクラスのアナヤがいた。
「その呼び方はやめてくれ。なぜだか気に障る」
「いいじゃないか。それより君はフジさんを前にするといきなり何もかも萎れるやつだよな」
オカモトはいつも、人目をはばからずバカみたいな陽気な声を出しながらスキップで学校にやってくる。毎度毎度“夢”にはフジさんが出てくるようなのだ。オカモトはフジさんを思いすぎている。一途な変態だ。ただ、彼の“夢”に対する考えは古風で、フジさんがオカモトを思いすぎているのだと主張する。他者の意見は一切聞き入れない。そんなオカモトからは考えられないのだが、フジさんを前にすると、彼の行動は抑制、いや、休止される。シャ イボーイの側面を見せるのだ。
「こればかりは免疫がつかない」オカモトはアナヤにそう言った。
アナヤはオカモトが高校で最初に意気投合した男。常住坐臥溌剌としていて、遠慮配慮といった言葉が自身の辞書には載っていない自由奔放なやつだった。
さらに神がかった洞察力の持ち主であり、オカモトは彼の能力を重宝している。親しくなったきっかけは彼のこの能力である。オカモトのいかがわしい心理を読み解いたのだ。アナヤと同じ路線の妄想ばかりしている心理を。今日では、どんな話題でも熱く論じ合えるような間柄になっていた。
オカモトはその日の学校を普段通りそつなくこなした。だが少し違うのは、家に帰っても自分しかいないということだ。親の束縛から開放されたオカモトは意のままに行動する。帰り道、アナヤとともに街中に出向き、時間も気にせず“夜”を満喫した。
ずいぶん夜も更けて肌寒い中、オカモトとアナヤはふと公園に立ち寄った。鬼ある所とも知らで……。
次回は1月18日(木)午後7時掲載予定です。