訓練の終わりと変わりゆく空気
「整列!」
自警団のおっさんが俺達を呼び集める。
ラフタ村の門の前に並んだ少年は総勢10人、各々手には緑に染まったずた袋を持っている。
「お前達、それでは今日の成果を確かめる。」
そう言われると少年達はずた袋を開き、切り取られたゴブリンの耳を取り出す。
生臭い匂いが辺りに広がり、また吐きそうになるが何とか抑える。
「ほう、リットはゴブ8匹か…将来有望だな」
「ありがとうございます!」
少年達のあいだに驚きと妬みと称賛が入り交じった空気が流れる。
やっぱりリットはさすがだな、同年代の中でも頭一つ抜き出ている。
他の奴らは多くても4匹が精一杯だしな。
おっさんが俺の前に立つ。
リットの時とは違う意味で、少年達のあいだには微妙に感情を含んだ空気が流れる。
ああ、俺はもちろん…
「セイは…また1匹か、まあ頑張れよ」
「ありがとうございま…うpっt」
あのすいませんが、目の前で耳をプラプラさせないでくれますかね?
そこのお前、ニヤニヤ笑ってるけどお前2匹しか討伐できてないからな…まあそれでも俺の2倍なんだが。
「いいか、一月後には成人の儀式が行われる!そうなればお前達はもう大人だ。
自警団に入ればゴブリンではなく、オークやウルフといった狂暴なモンスターを討伐する事になる!」
そう、ゴブリンというモンスターは非常に弱い...半人前のガキでも討伐できるくらいだ。
群れで襲われると大変らしいが、あいつらバカだから3匹集まるとお互いに攻撃しはじめるからな…
つまりゴブリンってのは、俺達のような半人前が経験を積むにはこれ以上無い相手って事だな。
ちなみにオークってのは二足歩行する豚というか猪というかでオスしか産まれないらしく、人間の女性を拐い子孫を増やそうとする絶倫モンスターだ。
その力は強く、危険度はゴブリンとは比較にならないらしい。
俺はまだオークに会った事はない、食った事はある。
あれは去年の成人の儀式の時だったか?最初は人と同じ様なモンスターの肉なんて気持ち悪くて食える分けないと思ったんだが、セイの記憶が早く食べろって急かしている感じがして仕方なく一口だけ食べたんだ。
気が付いたら皿は空になっていた。
モンスターを殺すことに忌避感があるくせに自分でも現金なものだとは思うが…
いや、だって美味いんだものあのお肉!
まあ、オークってのは危険で絶倫な絶品のモンスターだ。
基本的に森の中に集落というか巣を作っているらしい、原始的な武器を使う事もあるらしく出来れば出会いたくないものである。
ウルフはまだ食った事無いな...
「...それでは各々武器の手入れは怠らぬよう。では解散!」
緊張から解き放たれ、少年達のあいだに和やかな空気が漂う。
笑顔を浮かべ村へと入って行く…その手に緑の耳を持って。
ゴブリンの右耳は討伐部位といわれ、村の便利屋に納めれば小遣い程度のお金が貰える…本当に小遣い程度だが。
「なあセイ、これからどうする?」
「ん、ああ僕はこいつを納めてから家に戻るよ。まだやらなきゃいけない事もあるし…」
8匹分の耳の入ったずた袋から目をそらしつつ、俺はリットにそう答えた。