俺の転生と幻のカレー
俺の名前は…ああ、異世界での名前はセイ。
あっちでの名前は城戸徹、どこにでもいる30代の独身貴族だった。
別に孤児だった訳でも非嫡出子でもない、特に劇的ではない人生をいたって普通に過ごしてきたはずだった。
結婚はしてなかったけど魔法使いだった訳でもないし、それなりに楽しくやってきたんだけどね…
魔法使いだったらこっちでも魔法が使えるようになっていたんだろうか?
魔法…使えるようになりたいな…
異世界転生、そうらしい。
転生っつったら女神が転生してヒーホーしたり、魔界のジュリーがサニーとヒャッハーするもんだと思ってたんだが、どうやら違うようだ。
ヒーホーには会ったことは無いが異世界だ、どこかにはいるのかもしれない…
目が覚めると俺はセイになっていた。
何でも訓練中に木剣で頭を殴られたらしく、気を失った俺は診療所…というか薬師の婆さんの家に寝かされていたらしい。
訓練だからって12のガキに木剣持たせたら駄目だと思うんだが…
異世界の訓練はキビシイ、まあモンスター殺せるようにするんだからしょうがないか。
ちなみに殴ったのはリット。
目覚めて初めて見たのは知らない天井では無く、涙を流し謝り続けるリットだった。
そして俺の頭にヤバい匂いのする謎の薬を刷り込む婆さんの顔だった。
ショックでもう一度気を失ってもしょうがないだろう。
...いまだに婆さんを見ると冷や汗が止まらないんだよ。
俺の魂が12歳のセイに入り込んでしまったのか?
それまでの記憶が無いのではなく城戸徹としての記憶とセイとしての記憶が混在している何ともカオスな状態だった。
あっちの俺は死んだのだろうか?
トラックが突っ込んで来た記憶は無いし、ジャンキーに刺された記憶も無い。
最後の記憶は、昼に食べた鶏レバートマトカレーが美味かったという何とも微妙なものだった。
ああ、カレー食いてえな…