僕は姫様に一目惚れ。
また……やらかした。
ノックもしないで入ろうとして、しかもぶつかって硬直状態。
しかし、そんなことすら忘れて……この人……
少女は慌てて立ち上がるや、僕の手をとる。
「お怪我は……⁉︎ えっと、ごめんなさい!」
そこでやっと僕は我にかえる。
なんてことをしてしまったんだあああああっ‼︎
王様の時と同じように土下座を披露する。
「すいませんでしたああーーっ!」
「わたしは大丈夫ですよ?アル……じゃなくて、あなたが無事ならそれで何よりです」
聖母のような眩しすぎる笑顔を向ける少女は、僕の手を取って立ち上がらせる。
ふんわりと漂うビビアナとは違った甘い香りで脳をクラクラさせる。
腰にかかるクリーム色の髪の毛は上品に編み込まれ、この人が一瞬で姫だと分かってしまうオーラを漂わせていた。
キツさの一切無い柔らかい顔立ち、光を映す翠の瞳に僕は釘付けになっていた。
……僕は、この人に一目惚れをしてしまった。
僕は、格好つけて腰を深く折り曲げ、手を胸元に持っていって優雅に礼をする。
「初めまして。今日から、姫様のお世話をさせていただく、アルフィー・ベケットです。どうぞ雑にお使いください。僕はボロ雑巾だろうと虫除けにだろうと、何にだってなってみせます」
すごくかっこいい(僕にとっては)自己紹介を決めた。
姫様は、うふふと可愛く笑って見せると、
「初めましてかぁ……へんなの。よろしく頼みますね?じゃあとりあえずわたしのお部屋に来てください」
へんなの?何かへんなこと言ったかな。
僕は促されるまま姫様の部屋へと案内された。
部屋の中に置かれた小さな1メートルほどの高さの白い丸テーブル。
椅子が二つあって、紅茶が置かれていた。
そこに腰掛けてと言われ、腰掛ける。
「少し待っててください。すぐに戻りますから」
そう言われ、待つこと3分。
たぶんお花を摘んできたのだろう。
姫様は向かいに腰掛けると、
「お待たせしました。改めて、わたしはミルフォード家の長女……とはいっても一人っ子なんですけど、この国の姫のエレナ・ミルフォードです。わたしのこと覚えていますか?」
意味深な問いかけに、僕は真剣に悩む。
会ったことなんて……あるのかな?
脳内のどこを探っても、姫様の記憶は見つからない。
「ごめんなさい。僕たちどこかで会ったことでもあるんですか?僕が王都に来たのはこれが初めてなんですけど……」
姫様はズズーンと気を落として落ち込む。
やばい、何かしたかな。
「す、すみません!もし会っていたなら……ほんとに」
「いいえ。お気になさらず。わたしたちは初対面ですよ?」
姫様は顔を上げると、笑顔で言ってきた。
気を落として見えたのは僕の気のせいだったのだろう。
姫様は紅茶を上品に啜る。
僕は言葉に詰まる……なんて言って会話を続けたらいいのだろう。
だが、姫様のほうから沈黙を破るようにして口を開く。
「わたしのことは、気軽にエレナって呼んでください」
……………………。
「いやいやいやっ。……それは気軽すぎますよ!姫様にそんな……」
この人に一目惚れしてしまってただでさえドキドキしているのに、それは心境的にかなりキツイ。
「嫌ですか?それにわたしたちは同い年ですよ?」
「そういう問題じゃないですよ……身分の差ってやつがあります」
姫様はうーん。と首を傾げて悩む。
どうしても名前で呼ばせたいらしい。
僕は呼ぶ気ないけどね。
「あなたは身分の差を気にする人ではありませんっ!王様になるって言ってるくらいですから」
「な──っ⁉︎ なんでそれ知ってるんですか!」
僕は恥ずかしくなって少し声を荒げて問い詰める。
耳まで熱い。
姫様は、ハッと口を滑らせてしまったといった様子で、もじもじすると、今度は頭にぴかん!と、電球が浮かび上がる。
「あなたのお父様から聞きましたっ」
あのじじいーーー。
ん?……父さんと姫様って認識あったっけな……?
「でもそれは僕が小さい頃の話ですし……正直小さい頃の記憶があまりないんです」
その一言で、沈黙が訪れる。
姫様は哀しそうな顔をして……しばらくすると、ゆっくと口を開いた。
「そう……ですか。ごめんなさい、しょうがないですよね」
本気で落ち込まれるとこっちもどうしたらいいか困ってしまう。
「──明日」
「はい?」
「また明日、わたしの部屋に来てください。あなたともっとお話がしたいです」
急に明るい笑顔になった姫様は、僕の手を握りながらそんなことを言って来た。
そもそも僕の仕事は姫様のお世話係。
姫様の言うことは絶対だ。
「分かりました。じゃあ明日また来ますね。あ、紅茶美味しかったです。せめて僕が片付けて部屋に戻りますよ」
「気にせずに!あとはわたしがやるので」
頑固な姫様は結局何度僕がやると言っても自分でやると言いはるので、あきらめて戻ることにした。
「では、失礼します」
姫様に扉まで見送ってもらって、僕は部屋を後にした。
「アルちゃんの、ばか……」
小声で姫様が何事か呟いていたが、僕の耳に届くことはなかった。




