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ほんの少しだけ昔とこれからのはなし

続きです



使用人たちは歓喜した。これで領都に帰れると手を取り合って喜んだ。

訳が分からず、1人困惑する私に向かって使用人たちは聞いてもいない事情説明をしてくれた。私は呪われた双子で、姉であるローザが魔法を発現した以上必要のない存在なのだと。

私は愕然としつつも自分の処遇に納得がいった。絶望し、諦めた。私は産まれたその瞬間から誰にも望まれることなど無かったのだと。幾ら苦しみに耐えようとも報われることなどないのだと。だから、使者が私を拘束しようと動いた時も大した抵抗はしなかった。ただ目を逸らさずにじっと見つめていた。

私が手足を拘束される中、使用人の1人が泣きそうに歪んだ顔をしているのが目に留まった。たった1人、私を気にかけてくれた彼女、アリザはそれでも私に味方することはできないらしい。少しだけ笑いかけると、目を見開いて一層顔を歪めた。少なくとも彼女は私の死を惜しいと思ってくれるのだなと最後に少しだけ愉快な気持ちになれた。

その後薬品を嗅がされ、意識を奪われ、気がつくとこの場所に居る。


これが長いようで短い私の物語。

姉の裏側で葬り去られる妹の話。


私が姉の存在を知らなかったように、姉とて私の事を知らないだろうし知ろうともしないだろう。

どうやら姉は強力な魔法を扱うらしいから、将来はきっと明るいだろう。この国では魔法の能力は最重視されるし、家柄も申し分ないのだから引く手数多に違いない。

姉は両親に囲まれて幸せにしているのだろうか。瑕疵のない綺麗な世界で、素晴らしいモノだけを目にして生きていくのだろうか。それならそれでいい。どうか呪いの子の犠牲の上に成り立つ虚構だと気がつかずに生きて欲しい。

もう1人の私が幸せなら、きっと私が死ぬ意味もあるのだろうから。


そんな風にして、どれほどの間呆けていただろうか。

寒さを感じ、強張った体の痛みを感じてほんの少し現実に戻ると自分の死に場所がどんな所か気になった。上体を起こそうと腕を動かしてみて、手首の所で縛られていることに気がついた。この3年間の内にアリザから教わっていた縄抜け法を実践して難なく縄を解き、同様に縛られている足首の縄も解く。貴族の令嬢として、格闘技や剣術が本当に必要だったのだろうかと首を捻りながら、深くは考えずにアリザに感謝だけしておいた。

自由になった体を巡らせて周囲を見渡すと、どうやらここは縦長の洞窟の中らしいと分かった。父の指示なのかどうかは分からないが、あの使者は直接手を下さずにここに私を捨てていったようだ。殺せば呪われるとでも思ったのだろうか。

15メートル程上に開いた穴からは夜空が覗いている。やけに明るいから今夜は満月かもしれない。

高くに開いた穴のすぐ下にだけ、小さな白い花が数株咲いている。こんな所にも花が咲くのかと、自然の力強さが胸に響いた。


此処で死ぬのも悪くない。けれど、こんなにか弱そうな花が一生懸命に咲いているのだ。私とて諦めずに足掻くべきではないのか。裕福でなくともいい。名声などなくともいい。ただひっそりと、力強く生きていけたら。

私はもう少し生きる努力をしてみようと思った。


生き延びる為にはまず此処から出なくてはいけない。ここには水がないし、希望をくれた草花を手折って糧とするのは嫌だ。

壁をよじ登ろうと試してみるものの、ほぼ垂直で凹凸が少ないそれを登ることは出来ず、数度試して別の方法を探そうと考えを改めた。

鉤爪になりそうなものは無いか、誰かが落とした金属などはないか、鳥が立ち寄ったりはしないのか、何日なら耐えられるかと様々に考える内に空が白んで来た。

明かりに照らされていく洞窟を再び見渡すと、先ほどまでは見えなかった横穴が開いているのが分かった。恐ろしい気はしたが、ここに居ても仕方がない。私はこくりと息を呑み、奥へと進むことにした。


右手を壁に添えて、ゆっくりと歩く。明かりはない。足元に注意して慎重に。分かれ道はなかったためひたすら道なりに進んだ。

しばらく行くと明かりが見えてきた。出口かもしれないと歩調を速めるが、明かりが近づいてくると何かおかしいと感じ始める。横穴に入る前すでに陽の光は白くなっていたが、穴の先から漏れる光は青白いような淡い色で、自然の光ではなさそうだ。

私は警戒を強めつつ、影から穴の先をそっと伺った。


発光源は蛍草と呼ばれる植物だった。ダンジョンなどの比較的魔素の濃い環境に生育する植物で、壁を伝うように伸びた蔓の先にホタルの光に似た発光物が1つ2つとついている。ここまで魔物には遭遇しなかったが、この草が分布しているということはこの先に魔物がいる可能性が高いということ。魔物が暮らしているのであれば、外への出入り口があるかもしれない。危険ではあるが、他に道もないのだから行くしかない。

真っ暗な道と同じくらいの距離を歩くと急に道が途切れた。目前には、住んでいた屋敷がすっぽり入りそうなくらいの空間が広がっていたが、一歩先は急斜面になっていて一度降りれば戻って来ることは出来ないだろう。しかし戻ったところで外に出られる当てなどないのだ。少しでも確率の高い方にかけた方がいい。そうして震える足を励まし意を決して滑り降りる。

両足が地に着いた途端、私は目を見張った。さっきまで伽藍堂の岩肌が広がっていたのに、今目の前にあるのは柔らかい芝生にどっしりとした広葉樹、花が咲き乱れ蝶が舞う。終いにはウサギが1匹横切って、私は目が回りそうだった。

知識を総動員して考える。もしかしたら私は魔物の罠に嵌ってしまったのでは無いだろうか。高位の魔物は結界を張るというが、自分が中に入れた以上それは考えにくいだろう。

また閉じ込められてしまったのだろうかと私は落ち込みかけたけれども、いつまでもショボくれてはいられない。とりあえずここらの食べ物には手をつけないと決めて、洞窟の中心部へと向かうことにした。

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