少しだけ昔のはなし
メインストーリーの裏側にだって生きている物語は沢山あって、けれども、そんな話を聞きたがる人間なんていない。
時偶、人気の高い脇役に焦点が当てられる事があるけど、それだけだ。名前すら出てこない、道端の石ころ同然のキャラクターに誰が目を向けると言うのだろう。
かく言う私もそんな石ころの1つだった。
少し身の上話をしよう。
私は国内有数の高位貴族、ランドオルス公爵家の令嬢として生を受けた。通常であれば何不自由ない暮らしが保証され、どんな危険からも護られる恵まれた出自だ。問題であったのは私が、私たちが双子の姉妹であった事。
この国では双子は不吉とされている。生まれてから直ぐに片方もしくは両方が殺される。人手を欲する農民ですら忌避する双子は公爵家にとって災厄でしかなかった。国の中枢を担う貴族に双子が産まれることは、国の破滅を予兆しているのではないかと不安視する声もあがった。
しかし、双子は不吉の象徴であると同時に偉大な魔法使いの代名詞でもある。双子の片割れは、もう一方の魔力を奪い取ったかのような強い力を持って生まれてくることが多いのだ。そしてもう片方は殆ど魔力を操ることができないとされている。
その魔法の才能を惜しみ、どちらを間引くべきかと当主は悩んだ。
悩んだ末、より見込みのあると思われた姉を手元に置き、もしもの可能性を考えて妹を領地の端にある別邸で使用人に育てさせる事にした。この別邸に送られた妹と言うのが私だ。
何故姉の方が見込みがあると判断されたかと言うと、髪と瞳の色が理由だという。姉の容姿は知らないが、妹の私は銀の髪に紅の瞳。父からはまさに不吉の象徴に見えた事だろう。不気味な妹よりは姉に才能があって欲しいという願望も多分に含まれていたに違いない。
そうして辺境に送られたものの、物心つく頃には使用人の多くはは最低限の世話すら放棄していて、辺鄙な所に左遷されたのはお前のせいだ、この疫病神めと毎日嫌味を言うようになっていた。彼女達に叩かれないよう、いつも身を小さくしていた。1人だけ親身になってくれた使用人もいたけれど、私は彼女に助けを求めなかったし、彼女も表立って助けてはくれなかった。
3歳になると毎日課題が与えられるようになり、起きている時間は殆どそれに当てられた。母語の書き取りから始まり、計算、歴史、貴族のあり方、兵法、医・薬学、機械学、魔法学、帝王学、ダンス、護身術、剣術、格闘術…本当にあらゆる事を。
姉のスペアとして必要な知識であったのだろう。なぜ学ばねばならないのかなどと考える暇もなく与えられたものを必死で詰め込んだ。
そうして3年と少し経ち、私は7歳になった。教師達は私に教えることが無くなったらしく、少しだけ自由な時間が増えた。私も使用人達から逃れる術を覚え、屋敷の外で過ごすようになった。教師達から嫌がらせのように与えられる大量の課題を昼過ぎまでに片付けて、夜のうちに台所からくすねておいた軽食と書庫から持ち出した数冊の本を持ってコッソリと屋敷を抜け出す。そして屋敷から少し離れた場所にある、人気のない泉のほとりに座り込んで日が暮れるまで時間を潰す。寄ってくる動物や妖精たちとゆったりと過ごす時間が私は好きだった。ずっとこんな風に過ごすのだろうかと思っていた。
しかし、そんな幻想は早々に打ち砕かれることになった。本邸からの使者がやってきたのだ。使者は言った。
「ローザお嬢様が非常に強力な魔法を発現なされた」
途中ですが一旦切ります。