ひゃっは~!婚約破棄っ!これで私は自由だっ!
乗りで書いたので………。手直しするかも?
貴族学院の卒業パーティーの会場で、侯爵令嬢のルドヴィカ・フィルディアスは、婚約者の王子レイアス・ファルマーテルに、罵られていた。
「ルドヴィカ……お前は何て最低の女なんだ!」
このアホ王子…突然何を言い出すのか?何を持ってして、私が最低の女なのだろう?もしや戦闘狂なのがバレたのか?くそっ!!
「あら?それはどういう事ですの?わたくしが最低…とは?」
令嬢の猫を被り、うっすらと微笑みながらレイアスに聞き返す。
「――…っ!惚ける気かっ!?」
いや、惚ける気か?って、言われたって知らんもんは知らんし。
「惚ける……とは?」
聞き返した私に、レイアスはヤレヤレというジェスチャーをした。
ああっ…もうイチイチうぜぇな、コイツ。
「スモモに、嫌がらせをしただろう?可哀想に、スモモは涙を堪え、震えながら教えてくれたんだ!言い逃れはさせないからなっ!」
スモモ…?はて、誰だ?知らんぞ?
顔にクエスチョンマークを浮かべながら、首を傾げるルドヴィカに、レイアスは惚けていると確信したのか、更に言い募って来る。
「スモモは優しく儚げで…俺が護ってやると誓ったんだっ!だからスモモに害をなす者は、力ずくで排除する……。そしてスモモに嫌がらせをした者の筆頭が、俺の婚約者の侯爵令嬢であり、それが原因で婚約破棄するとしてもっ!!」
ああ、そっか……。確認では無くて、もう決めつけてんな?んで、私が悪者前提で話を進める積もりだな?そこから私の婚約破棄に繋げようって魂胆だな?
うっしゃあっ!乗ったぁっ!!
私も貴様のような軟弱な男との結婚になぞ、興味は無かったからな?
父上の命令であり、国王陛下に泣き付かれたから婚約していただけだしな?
そこら辺の、大人の事情は……多分このアホは、分かって無いな?まぁ、もうどうでもいいが。
「あら?うふふ?それで……わたくしが嫌がらせをしていたという証拠はございますの?よもや、証拠も無く、侯爵令嬢のわたくしにその様な世迷い言を仰ってるのではございませんわよね?」
婚約破棄には乗ったが、嫌がらせをの濡れ衣は要らんぞ?お返しする。
「……はっはあっ?証拠だとっ?そっ…そんな物必要ないっ!この国の王太子である俺が、そうだと言ってるんだから、それで決まりだろ?」
あっ…やっぱり証拠は無いみたいだな?だって嫌がらせなんかやってねぇーし。
それにしても…コイツ、ここまでアホの極みみたいな発言しかしてないぞ?
今の「俺がそうだと~」の発言を聞いた周りの奴らの表情見たか?
お前の評価が、地に墜ちたぞ?だってそうだろ?公平に話を聞いて、国の国政を左右する次代の王が、こんなアホ発言をするんだからな?
独裁政権にでもする気か?まぁ、私には関係無いけどな?
「レイアス様?貴方は今、仰ってはならない事を言いましてよ?」
一応注意はしておく。王子に聞く耳は無さそうだが、周りの貴族の子弟には身を呈して、王国の未来を憂い、注進する婚約者って感じにうつるだろう…ふふふ。えっ?計算高いって?それほどでも無い。
「何がだ?俺の発言は王族の発言だぞ?言ってはならない言葉なぞ、無いっ!」
コイツ…究極のアホやん。まだ気付かないんかいっ!さっき周りにいた奴の何人かは、このパーティー会場を後にしたぞ?多分親に魔導器を使って、王子がこんなことを言ったって、報告しに言ったぞ?
後戻りは出来ないんだぞ?それに……お前の父上の陛下は腹に黒い何かを持ってるぞ、絶対。
「ふぅ……。それで?わたくしはどうすれば宜しくて?」
面倒だから纏めに入る。実に面倒だからっ!!
「ふんっ!ついに観念したか?ならばスモモに土下座して謝るがよいっ!それと、お前との婚約は破棄だ!そして俺はスモモと婚約するつもりだ!」
うおいっ!無茶ぶりが過ぎるぞ?何で私がどこの者とも知れんアバズレに土下座せにゃならんのだ?
それに私との婚約破棄はまぁ、オッケーだが、そのスモモとやらを婚約者にするのは、どう考えても無理だろ?
レイアス……お前、本当にアホだな。キングオブアホンダラの称号を贈ってやるよ…特別だぞ?
しかしこれだけは申しておこう。イラッとしたし、これが私からお前への最後の忠告だからな。
「レイアス様?アホも過ぎると、国の毒になりますわね?その様な方は、早々に王位継承権を放棄なさるのが宜しいかと存じますわ。いえ、礼には及びません…これは純然たる事実ですので!」
「なっ…何だとっ?ぶっぶぶ無礼者めがっ!!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らすレイアス。
「いえ、本当の事をお伝えしたのみ。無礼者、ですって?わたくしと貴方……どちらが無礼者なのかしら?証拠も無く、濡れ衣を着せられたわたくしと、無理矢理着せた貴方と…ね?」
普段は押さえ込んでいる、威圧感を解き放って私が詰め寄ると、レイアスは、途端に青い顔になってゴクリと唾を飲み込んだ。
ふん、これしきの威圧で黙り混むとは、本当に情けない奴だな。
そんな緊迫感をグチャグチャに引き裂く、場違いなほど甘い声音が会場に響き渡る。
「止めてぇ~☆ダメダメ~☆王子に手を出さないでぇ~☆」
あん?なんじゃい、この頭の悪そうな台詞を言うピンク頭は?
「スモモッ!?危ないから来ては駄目だと言っておいたであろうっ!」
「やぁ~ん☆レイアス様が心配でぇ~☆コッソリ影から見守っておりましたのぉ~☆」
この腐れピンク頭が、件のスモモとやらか。来ては駄目だと言われた場所に、ギラッギラの品の無いドレス姿で現れるとは……最初から乱入する気満々じゃね?
スモモとやらは、甘い声でレイアスにしなだれ掛かると、顔だけこちらに向けて、私に対してこう言い放った。
「ちょっとぉ~☆レイアス様があんなに言ったのに、まだ王子の婚約者の立場を守りたいのぉ~?早く私に謝ってくれないかしらぁ~☆今まで陰湿な嫌がらせをして、ご免なさい。そして王子を独占してご免なさいってぇ~☆」
うん、この頭が痛くなる発言…間違い無く、アバズレ確定だっ!
良かったな、レイアス!ぷぷっ…お似合いだぞ?
「ふふふ……ふふふふはははははっ!」
我慢の限界を超え、突然豪快に笑い出した私に、レイアスとスモモ、それに周りの奴らもギョッとした表情をする。
「………笑止っ!!良かろうっ!アホとアバズレが作る国なぞにこちらから願い下げじゃっ!本日の件は、私から父上と陛下にお知らせしておくっ!その婚約破棄……このルドヴィカ、承知つかまつった!!」
被っていた盛大な猫を脱ぎ去ると、私は豪快に笑いながらパーティー会場を後にした。
そしてそんな私に続くように、多くの貴族たちが一斉に会場を出ていった。
しっかりと王子に向かって侮蔑の表情を浮かべて。
その場に残ったのは、下級貴族の子弟達と、唖然とした表情のレイアスと、スモモのみであった。
****
私は取り急ぎ父上の領地である、フィルディアス領に戻り、父上に事の全てを洗いざらい吐き出した。
父上からの命令を無視して、勝手に婚約破棄を了承してしまったのだから、怒られると思っていたが、父上はニヤリと悪い笑みを浮かべると、王都に行ってくると、言い残して邸を出ていった。
父上に怒られなかったのは良かったのだが、あの悪い笑みが、一体何だったのか……?少し気になったのだが…まぁ、いっか。
久々に領地に帰ってくると、弟のファフニールが腹部にまとわりついて来る。
「姉上っ!剣術の稽古をして下さいっ!」
「ほう…ファニー…お前もこのフィルディアス家の者だな?宜しいっ!真剣を持って庭の練兵場に出ろっ!」
「はいっ!姉上っ!!」
ファフニールは嬉しそうに飛び跳ねながら、目の前を走り抜けて行った。
貴族学院に居た頃は、余り大っぴらに修行が出来なかったので、大分身体が鈍っているだろう。
それにしても、ファニーとの打ち合い……どれ程腕を上げたのか…ふはっ…打ち合うのが、今から楽しみだな?
「やあっ!とうっ!…くっ!うわぁっ!!」
「ふむ…。まだまだぁ~!ファニー!脇が甘いぞっ!たぁっ!」
ギインッ……ガギインッ!!ガギギィンッ!
剣撃の音が、広大な練兵場に響く。
稽古を開始して既に数時間が経過していた。
私たち姉弟の周りには、フィルディアス領の私兵や、領民が集まり見守っている。
昔からファニーと打ち合っていると、何故か周りに人が集まるのだ。最初の頃は慣れなくて落ち着かなかったが、今では慣れたものだ。
「行けっ!そこだぁっ!!」
「ああっ!麗しのファフニール様と、華麗なルドヴィカ様の打ち合い…素敵……」
「お二人とも、頑張って下さ~い!」
等の声援が聞こえて来て、益々やる気が満ち満ちて来る。
私は剣を上段に構えると、身長のまだ低いファニーの下からの攻撃を難なく避け、降り下ろした。
ガッ…ギィーン……。
その攻撃はファニーに受けとめられた。
以前まではこれで勝負はついていたのだが、私の腕が鈍っているのか、それとも弟の腕が上がったのか……まぁ、そのどちらもだな?
まだまだ楽しめそうだと思い、微笑みながら剣を構え直した私の眼前に、猛スピードで馬車が突っ込んで来る。
馬車には紋章が着いていて、その紋章でどこの貴族の馬車か、直ぐに分かるようになっている。
その紋章は、隣の領地メルトストーム家の紋章であった。
急停止した馬車より、無精髭の生えた大男が飛び出して来ると、ルドヴィカに向かって両腕を広げて抱き付いて来た。
「ルドッ!お帰りっ!お帰り~っ!」
「ギルか…?お前……少し見ない間に、でかくなったな?」
よしよしと、抱き付いて来た大男の背中を撫でてやる。
こいつはギル…ギルベルト・メルトストーム。ルドヴィカのふたつ上の幼馴染みであった。
昔はルドヴィカの方が身長が高く、いつもギルの頭を撫でてやっていたものだ。
この何年かで身長は、追い抜かれたが、内面の気質はそこまで変化は無いようだ。
撫でられて実に嬉しそうな表情である。
「ルド~!俺はルドが戻ってきてくれて、凄く嬉しいっ!!」
「そうか、そうか~!私もギルに会えてとっても嬉しいぞ?」
お互いにギュムギュム抱き締め合っていると、横からファニーも混ざって来る。
「僕もっ!僕も姉上が帰ってきて下さって嬉しいですっ!!」
そう言いながら私の腹部に頭を擦り付けて来る。
う~ん…我が弟も可愛いな。よしよし。
今度は三人で抱き合って居ると、またも勢い良く馬車が突っ込んで来る。
流行ってるのか?
漆黒の馬車であり、紋章を確認すべくもなく、我がフィルディアス家の馬車であった。
そしてその馬車を追って、白銀の豪奢な馬車が突っ込んで来る。
やはり…流行ってるのだろうか?
だが、その白銀の馬車の紋章を見た途端、つい条件反射的に顔を歪めてしまった。
そう、その白銀の馬車には、ファルマーテル王家の紋章が着いていたからだ。
両方の馬車のドアが同時に開く。
その馬車の中から、二人の男性が降りてきた。
「待って待って!お願いだから待ってぇ~」
「ええい、離さんかっ!!往生際の悪い奴よなっ!」
「ええ~ん!そんなに邪険にすると、余は泣くぞっ?ギャン泣きするぞ?」
「やかましいっ!良い歳した男が、こんな所で泣くなっ!そして、足を離すのだっ!!」
「じゃあ、余の話を聞いてっ!お願いだからっ!」
片方は紛れも無く、我が父上のフィルディアス侯爵であったが、もう一人の地面にゴロゴロ転がりながら父上の足に縋り付く男性は、信じられない事にこの国の現、国王陛下であり、アホ…いや、レイアスの実の父親であった。
「ふぅ…。ここでは人目が有りすぎるな…」
ザッと周りを見回した父上は、ため息を付きながらも、ヤダヤダ言いながら、ゴロゴロ転がる国王陛下をまるで荷物のように小脇に抱えると、スタスタと邸の中に消えていった。
驚きで固まっていた私たち三人が、少し経ってから後を追うと、邸の中に居た家令のセバスチャンが、恭しく父上の向かった先へと案内してくれた。
父上が向かったのは執務室であった。
中に入ると、椅子に座りながら顔を付き合わせた父上と、陛下の姿があった。
「たがら~ごめんって言ってるじゃんっ!そろそろ許して欲しいんだけど~?」
「謝るのは我にでは無く、ルドヴィカにせよっ!お主のバカ息子のせいで、他の貴族達の前で要らん恥をかいたのだからなっ!」
「あのバカ息子はねぇ…。いや、余もここまでのバカだとは思って無くてさ~?本当にごめんね、ルドヴィカ嬢~?」
軽く話し掛けながら謝ってくるが、相手は自国の国王陛下である。
流石にルドヴィカも緊張しながら、答える。
「いえ、陛下に謝って頂くのは、違うと思いますので、お気になさらずとも構いません……」
「ルドヴィカッ!こやつを調子に乗らせるような発言は控えよっ!」
はっ?調子に乗らせるような発言とは、一体?
父上が何を言っているのか分からなかったが、直ぐに理由が判明した。
「ほら~ルドヴィカ嬢もこう言ってくれてるしぃ~?もう水に流してよ~ナサナエル~!あのバカの王位継承権を剥奪したからさぁ~?ねぇ、良いでしょ~?」
陛下が、我が父上の膝の上でバタバタ足を動かしてじゃれついている。
字面だと気色悪いが、実際目の前でやられると、気色悪さの次元が違う。超越してもう、好きにしなって、感じになる。断言する。
――――……それにしてもレイアスの王位継承権を剥奪となっ!?
中々思いきったことをやってのけますな、陛下!ただの駄々っ子じゃ御座いませんね?
「チッ……。流石に手早いな?」
何故か父上が不機嫌そうに舌打ちをして、煙草に火をつける。父上っ!?陛下の御前で堂々と煙草は…良くないのでは?
心配になって陛下に視線を向けるが、全く気になさってませんでしたっ!メッチャニコニコ笑顔だ。
どんだけ懐広いんだ陛下は?
「うん、まあねぇ~。以前から密偵より報告に上がってたしね?レイアスがどこぞのアバズレにメロメロになってるって~!あっはっはっ」
「おい!その報告があった時点で、王子に何か手を打たなかったのか?」
「うん?ああ、警告はしたよ~?お前は王子なのだから弁えろって!でも、恋って反対されると余計に燃え上がるみたいで、全然言うこと聞かないの!だから…しょうがないよね~?自業自得だよ、レイアスの奴は~!あっはっはっ」
陛下は何でもない様な、それこそ今日の天気の話をするように、軽く笑いながら自分の息子の継承権を剥奪した話をしてみせた。
「まぁ…妥当な結果だな?我が娘を辱しめたのだ、打ち首にしたい所だが、腐っても王族か……?」
父上っ!?流石に陛下の目の前で、王族批判はちょっと不味いのでは無かろうか?
しかし陛下は楽しそうにニコニコと笑っている。
何を考えていらっしゃるのか……全く読めん。
「して、次の王太子はカイウス王子か?」
「うん…そうだねぇ…?カイウスか、ファルセスのどっちかかな~?どっちか出来の良い方でいっかな~って感じだよ~?」
この国のには第一王子のレイアス、第二王子のカイウス、第三王子のファルセスの、三人の王子と、二人の姫が居る。
「で、どう?ルドヴィカ嬢?カイウスか、ファルセスと新しく婚約する~?」
ニコニコ笑顔の陛下が、私に直接聞いて来るが、流石にもう王族と婚約とか、ノーセンキューだ。
しかも第二王子のカイウス殿下は、まだ10歳だしね?姉さん女房にも程があるでしょう?
「謹んで御断り申し上げますっ!!」
ピシャリと告げると、何故か陛下は物凄く嬉しそうな表情で、こう続けた。
「それなら、余の第二夫人になっ…………」
全てを言い終わらぬ内に、父上の拳骨が陛下の後頭部に直撃した。
ズゴンッ………。
痛そうな音が響く。おいおい、父上……陛下に何をするのか?もう不敬罪どころじゃ無いよ?暴行罪とか付いちゃうよ?牢屋行きだよ?
焦る私を嘲笑うかのように、平静な父上。
「痛いっ!!でも、やっぱり君の拳って最高~!」
そして何故かキャピキャピ喜ぶ陛下に、父上以外の全員がドン引きであった。
もしや陛下って……ドM?聞きたいが、肯定されても困るし……。しかしうやむやにするのも…うわあっ…どうしたら?
私の中で、しょうもない葛藤が生まれた。
そんな微妙な雰囲気の中、空気を読まない…否、読めない我が弟のファニーはサラリと聞いてしまう。
「陛下って変態さんなのですか?」
その発言に固まる私と、ギルであったが、陛下はお腹を抱えて本日一番の大笑いをし出した…床の上で。
「あっはっはっ~!流石はナサナエルの息子だよっ!余に直接そんな事を聞いてくるとは~!あっはっはっは~!」
「ファフニール……。あの様なおかしな人種とは目を合わせてはいけないぞ?」
父上は、ファニーの両目を自身の両手で塞ぐと、いまだに笑い転げて居る陛下の脛を蹴りつけた。
「あははっ…痛いっ!最高~あはははは~」
陛下のケタケタ笑う声が一息つく頃を見計らったかの様に、セバスチャンがカートを押しながら部屋に入って来た。
床の上に転がったまま、ぜぇーぜぇー言っている陛下を、チラリと見やると机の上に紅茶と、お菓子を用意して何も言わずに一礼して部屋を出て行った。
何か……心得てるって感じだ。凄いカッコイイ!流石に出来る家令は違うなっ!
笑いすぎて喉が渇いていたのか、勢い良くゴクゴクと紅茶を飲み干す陛下。
毒味とかしなくて良いのか?
勿論私たちはセバスチャンの事を信頼しているが、相手は国王陛下なのだから、陛下が飲む前に我々が飲むべきだったのでは?
しかし父上も全然気にして無い風だったし、まぁいっか。
私も喉が渇いていたので、陛下の前ですが遠慮せずに、グビグビ飲むし、お菓子のクッキーもサクサク食べる。
ぷはあっ!渇いた喉と、疲れた身体に染み渡るね、このアップルティーにハチミツクッキーは!
この部屋の全員が人心地ついた。それを見計らい、私は父上に自分の願いを口にした。
「父上、私からお願いがひとつ御座います」
「うむ?何なりと申してみよ?」
「私を隣国、サイケデリカとの戦場に行かせて下さいませっ!」
「…………理由を聞かせなさい」
「理由……ですか?」
私は少し考えてから、口を開いた。
「私がこの王家の剣との異名を持つ、フィルディアス侯爵家の血を引くから…でしょうか?それともこれでは理由にはなりませんか?」
「…………まぁ我にも、その感覚が無かったとは言えんな……。確かに我が一族は戦闘大好きだし、影で戦闘狂民族とか言われておるが、女のお前までもがなぁ?」
「はい。今までは王子の婚約者であったため、我慢して参りましたが、婚約が破棄になったのです、この好機に動かないほど、鈍ってはおりません!」
私のその言葉を聞いた父上は、短くため息を吐き出すと、私の頭を撫でながら、こう言った。
「ふぅっ…。今まで良く持った方か…。我としては、可愛い一人娘に危険な戦場になぞ出て欲しくは無いのだが、本人の初めてのお願いが、それだからな…。しょうがない………許す!存分に敵兵を屠って来るがよいっ!!ただしっ!決して死ぬなよ?」
キャッホーイ!やったぁ~!父上の許可がでたよっ!
喜び過ぎて浮かれた私は、隣に座っていたギルに抱き付いてしまう。
すると、ギルも抱き返してくれながらも、意を決した表情でこう言った。
「侯爵閣下っ!俺も、俺もルドと一緒にサイケデリカへ赴きますっ!」
「ん?何故だ?ギルは戦が好きでは無いであろう?」
そう、ギルは平和な場所でのんびり過ごしている方がお似合いだ。
「その…あの……。ルドを護りたいんですっ!」
ギルは顔を真っ赤にして、ルドヴィカを抱き締めている腕にグッと力を入れた。
「はっは~ん?」
それまで黙っていた陛下が、ギルをまるで値踏みをするようにシロジロ見る。
「惚れた女が戦場に行くんだ、そりゃあ心配で行きたくもなるよな~?」
ふえっ?ほっ…惚れた女………?えっ?ギルに惚れた女の人が居たの?
何か……面白く無いな。どこの誰だよおいっ!
気になったのでギルにだけ聞こえるように、彼の耳元に顔を近付けて聞いてみる。
「ちょっと!いつの間にそんなに好きな女が出来た?初耳だよっ!私とギルの間に隠し事は無しだって約束したでしょう?どういう事か説明して!」
「えっ…?ええっ…?今の会話の流れで気付かないの?こっ…この態勢で……?」
ギルの顔色は赤くなったり、青くなったりしている。
そんな状況の中、ファニーがまたもやズバッと言って来る。
「姉上って……鈍感?」
どうやら話している内に、声が大きくなってしまい、隣に座っていたファニーに、話の内容が聞こえてしまったみたいだ。
「ど…鈍感?私が?不味いな…戦場だと命取りだ!鍛え直さねばなるまいっ!」
神経を研ぎ澄ませて置かねば、どこから敵の矢が飛んでくるかも察知できなくなりそうだ。
それはゆゆしき問題だ。
私は一から鍛え直すべく、庭にある練兵場に向かって走り出したのであった。
ルドヴィカが走り去ったその部屋では、ギルが残った者達に慰められていた。
「ギル……姉上……あんなんだけど、良いの?」
「うん…まあ…そんな所も好きだし……」
ファニーからは、問い掛けられた。
「ギルベルト…そうであったか…。あの粗忽者に惚れておったのか…すまぬことをしたな……」
「いえ…そんな…侯爵閣下のお決めになられた事に、俺なんかが異は唱えられませんし……」
侯爵は、不憫なギルに娘の分まで頭を下げて詫びた。
「あっはっはっ……あっはっはっはっはっ………」
「もう…そんなに笑わないで下さい!!」
国王陛下には、爆笑されたのであった。
今後この二人はどうなるのか?
それは、誰にもわからないのであった。
登場人物達の簡単なその後?
ルドヴィカ→戦場で狂乱の女帝っていう、中二っぽい二つ名をつけらる。
その傍らには無精髭の男がいつも一緒に行動しているとか、いないとか。
ギルベルト→上記参照。まぁ、いずれ結婚とかするんじゃないかな?かな?
ファフニール→ギルベルトに同情して、あれこれと二人の間を取り持つが、ことごとく失敗に終わる。
そのせいで、自身の婚期が遅れる。御愁傷様。
侯爵閣下ナサナエル→今日も今日とて、王を殴ったり蹴ったりして、仕事をさせている。
実は結構苦労人。
国王陛下→ドM疑惑の変人。
国政は一応色々考えてる。かなりの合理主義者。実の息子でも簡単に切り捨てる事が出来る冷徹な一面も併せ持つ。ナサナエルの事は親友だと思っている。
アホ王子こと、レイアス→父親の国王に簡単に切り捨てられて、茫然自失。結局は愛していたスモモにも、棄てられる。ある意味可哀想な奴。
スモモ→アバズレビッチ。レイアスが王位継承権を剥奪された瞬間に、レイアスをポイした強かな悪女。今度狙うは、8歳下のカイウス殿下みたいです。懲りていない……てか、懲りるつもりは毛頭ない。
カイウス→アバズレビッチに追いかけ回される不幸な少年。そのせいで女性恐怖症に陥る。
セバスチャン→変化はみられず。
って、所でしょうかね?
また違う話で会えたら会いましょう?ここまでお読み頂き有り難う御座いま~す!バイバーイ!!