優乃
「ん…んん??」
「…起きた?」
どうやらあのまま気を失ってしまっていたようだ。どうやって運んだかは分からないが、ソファに横になっていた。
「…優乃…」
「なに??」
初対面のはずなのに、この女の子の名前を呼ぶことに何も抵抗が無かったことに驚いた。しかも、呼ばれた優乃本人も全く気にしていない様子だ。
「僕と君は…その、初対面のはずだよね。」
「…うん。そうなる…かな。」
ここで困ったような表情をされても余計にこちらが困ってしまう。状況を飲み込みたいのに、どうもスっと入ってこない。
「たしかに私と忍は初対面。でも、私はあなたを知ってるの。」
「…僕も、どうやら優乃のことを知っているみたいなんだ。これって、どういう…」
お互いに困った様子なのだが、一つずつ問題を解決しておこう。
まずは、どれからいけばいいのか。
「この場所って、なんなの?」
占いの館、と言われてしまえばそれだけなのだが一番最初の興味を引かれていた部分だ。
「ここは…私のお店。」
「お店?じゃあやっぱり占いの館っていうのは間違いないんだ。」
優乃は小さく頭を縦に振った。が、少し訂正があるのかゆっくり口を開く。
「占い…とは少し違うかも。どちらかというと未来予知の部類。」
やっぱりか、と内心で納得する。
「でも優乃のお店ってことは、優乃って…その、いくつなの?同い年以上には見えないんだけど…」
「私は忍と同じ年だよ?」
「え?じゃあ学校とかは??」
驚きの返答にすぐさま次の質問をしてしまった。しかし、その質問がすこし優乃にとってあまり聞かれたくないものだったのか、すこし顔を伏せてしまう。が、しっかりと答えてくれた。
「…行ってない。私は未来予知の力を使って生計を立てて生活してるの。」
「じゃあこの建物は…」
「あ、それはこの子の力。」
この子、と言われて優乃が指を指したのは壁に掛けかけられている古びた掛け時計だった。この子、と言われるとどうしても生きているものを想像してしまい、混乱してしまう。
「この子?時計…だよね?」
『わしをこの子呼ばわりするでない。』
「うわっ!!時計が喋った!!」
あまりの唐突な発言に思わずソファからずり落ちそうになる。一体どこから声を出しているのだろうか。
というより、頭の中に直接声が響いたような感覚だったが。
「ご、ごめんね。ウルちゃん。」
『ウルちゃんいうでない。わしはデミウルゴス。創造の神じゃ。』
「デミウルゴス…?」
やっぱりスピーカーのようなものから声が出ているわけではなく、直接頭の中に声が響いている。
いろいろと驚きなのだが、なんだかもう驚かなくなってきている自分に驚きだ。
『そうじゃボウズ。わしの力じゃ。』
「つまり、そのデミウルゴスさんの力で建物とかを…出してる?ってこと?」
『そうじゃな、簡単に言えばそんな感じじゃの。どれボウズ。ワシを抱えてみ』
言われるがまま、時計を壁から外す。どうしたらいいのか、確認しようとするがその瞬間。
「うわっ」
「きゃっ」
ふわっと落ちるような感覚を感じると同時に、建物が一瞬で消失しどうやら元の空き地の上に立っていた。
優乃の方を見ると同じように驚いた様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「ウルちゃん…消すなら教えてよ…」
『だからウルちゃんいうでない。どうじゃ?驚いたじゃろ?ほれ。』
また一瞬にして先程までいた室内に戻る。どうやら再び建物を創造したようだ。
「えっと、こんな感じでいろいろな場所を転々としてた…って感じかな?」
「す、すごいな…いろいろと。じゃあひと…二人暮らしみたいなものか。」
便利な力だなぁと染み染み思ってしまう。これなら生活するのに必要な費用なんてあまり多くは必要ないだろう。
「でも、もう移動する必要はない、かな。忍を見つけたから。」
「それって、どういう…」
沢山の疑問がまだ残っているのだが、なにやら重大な部分を確認できそうだ。
僕を見つけたからといって何があるのだろうか。
「言わなくても分かると思う。もう忍も思い出してるはずだから。」
思い出しているもなにも、出会いから何から初めてだというのにどうしたらいいのだろう。
もしかして、気絶する前に多くの情報が流れ込んできた感覚は確かにあったが、その中から探せということなのだろうか。
腕を組み、情報の整理を頭の中で行い、今欲しい情報を探す。
「………」
「思い出した?」
「…えっと思い出すというか、なんというか。」
断片的に、少しずつ情報を飲み込んでいく。
だが、どれもこれもぶっ飛んだ内容で、理解しろと言われても理解に苦しむものばかりだ。
それに、自分自身の存在が危ぶまれる内容まであることに頭が痛くなりそうだ。
「僕たちは…これから起こりうる悲劇を防ぐために…」
優乃は再びこくりと小さく頷いた。だが、僕の言おうとしたことには続きがある。
「【作られた】…ってどういうことなんだ。」