アーク。
『ふぅ。アークは2年ぶりか。』
2年前。
確か姫様が美味しい水が飲みたいとおっしゃられてここまで汲みに来たんだったな。
3時か。
夜通しで休憩も取らずに来たのはいいが少し速かったな。
『この時間じゃあ姫様5時間待ちだな。ついでだ、川まで水汲んでくるかな。』
川は町のすぐ側を流れている。
この川の水は世界でも何番目かに透明らしい。
川辺に行くと姫様が寝ているのかと思うほどにボーっと物思いに耽り座っていた。
何を考えているのだろうか。
腰まで伸びた青い髪。
17歳にしては幼く、それに反するように凛とした顔つき。
姫様の顔は月明かりを浴び、まるで女神のように美しい。
これで胸さえあれば無敵なのだが。
ただ瞬きによってのみ起きていることが感じられた。
『姫様。お供にあがりました。』
ビクッ。
『ゎ、驚かすなょトール。なんかよう?』
『王様から姫様を護衛せよとのお言葉です。』
『そっか、任務について父上から詳しく聞いたの?それにボクとの約束忘れちゃった〜?』
『忘れてないさ、フレイヤ。任務については王様が詮索するなだってさ。』
私とフレイヤとの約束。城の外では姫様に対し敬語を使わないこと。
なんでこんな約束したんだっけな。
無理やりだったのだけは覚えてる。
『ボクに構わず帰った方がいぃよ?死にたくないならね。』
フレイヤからは強い決意が感じられた。
そこまで重大な何かがあるんだろう。
『そう言って俺が帰ると思う?フレイヤは死んでも守るよ。』
『やっぱりバカは死なないとなおんないね。いいよ、ボクが連れてってあげる。』
『死んでも守る』って言ったら昔は頬を朱くして喜んでくれたのに。
今じゃ馬鹿呼ばわりですか。
『トールに父上からこれを預かったの。必ず身に付けろだってさ。』
フレイヤは持っていたバックから何かを取り出し、私にくれた。
『力帯メギンギョルズと篭手イルアン・グライベルですか。有難うございます。』
『すご〜〜い。そんな古そうなもののこと知ってるの?』
眼をキラキラ輝かせたフレイヤ。
『いや、ここに書いてあるからね。ほら。』
なんとご丁寧に名前が書いてあったんです。
『なんだょ。ボク危うくトールを尊敬するとこだったじゃん。』
『尊敬してくれて構わないよ?フレイヤ、それよりもうイダに行くよ。』
『ぁ、待って。ボクあんまよく寝れてなぃの。ちょっと寝てから行こ〜?』
他に供が居ないのか?
王妃が亡くなり、フレイヤは一人で寝れなくなった。
喪失への恐怖だろう。
『昨日は一人で恐くて寝れなかったのかい?よしよし、いい子いい子。』
『ぅッ、違うもん。考え事してたんだもん。トールのくせに生意気だぞ。でも…その…トールがどうしても可愛いボクと添い寝したいって言うなら…いぃよ?』
フレイヤの紅く染まった顔。
フレイヤがもし姫様でなく、ただの女性であったなら私は迷わずプロポーズしただろう。
『ふふッ。じゃあ添い寝させて貰おうかな。』
『しょうがないなぁ〜。じゃ、はやく宿に戻って寝よ。』
宿に着き、ベッドに入るなりフレイヤはすぐに夢の世界へ。
フレイヤの可愛い寝顔を見ながら、私も睡眠を取った。