旅立ち。
「ドンドン」
ドアを叩く音。殺気は感じない。
『どうした?』
『騎士長、夜分遅くに失礼致します。姫様がいなくなられました。』
『またか。いつもの場所にはいらっしゃらなかったのか?』
『裏庭にはいらっしゃいませんでした。そこで王様より至急来るようにとのことです。』
『分かった。すぐに行く。』
私は紅い鎧を身につけ、王の間に行く準備を整える。
外に出ると空気は澄んでおり、星々はキラキラと輝いていた。
そして、町は静まりかえり、人気は全くなかった。
『王様、ご用でございますか?』
『おぉ来たな、トール。フレイヤがいなくなった。しかも今度はいつもと事情が違うのだ。』
『それはいったいどういう意味ですか?』
姫様のことだから海が見たくなったとかだと思ったのだが。
『お前はフレイヤをどう思う?』
『どうと言われましても。姫様は優しく、また美しくございます。少し自由奔放ではありますが。』
しばしの沈黙。
『トールよ。お前の命、私に預けてはくれまいか。』
王様がこんなことをおっしゃるなんて。
我が国の王であり、騎士長の私ですら歯が立たないほど強い王様が。
『もとよりそのつもりでございます。ミョルニルに誓って。』
この鎚は王様から騎士長就任にあたり頂いたもの。
名はミョルニル。
ミョルニルは古代のものらしいのだが、なぜか私の手にこれ以上ないくらいに馴染んだ。
『これから言うことに詮索はするな。フレイヤの護衛を頼みたい。』
この任務が只の護衛でないことは王様の顔を見れば分かった。
苦心が伺える。
『それは構いませんが姫様は今何処へ?』
『フレイヤは今アークにいる。』
アークか。
馬で5時間と言ったところか。
姫様と朝までには合流したいものだな。
『そして、そのままイダに向かってくれ。』
『イダですか?』
『ああ、イダより先のことは私の兄に話を聞いてくれ。フレイヤと一緒に行けば兄のことは分かるだろう。』
先のこと?
長くなるのか?
『分かりました。では行って参ります。』
『トールよ。これを持って行け。きっとお前を護ってくれるだろう。』
王様は小さな3個の球を私にくれた。
赤・青・緑。
まるで私の旅立ちを祝福するかのように光を放っている。
それが何なのか考えることは無用。
私はとうに自分など国のために捨てたのだから。
退室の際に王様が小さく呟いた言葉は私の耳には入らなかった。
『頼んだぞ、オーディンの子、トールよ。』
お読み頂き有難うございます。なるべく早く次の話を投稿しようとは致しますが、更新は不定期ですので気長に待ってあげて下さい。あと読みやすいよう一話一話が短くしあげてます。今後もよろしくお願い致します。