回想
ある日ハング邸に一通の手紙が届く
「当主様、給仕のミサから手紙がございます」
「なんだ?読め」
「はい、これにはこのように書かれています」
「拝啓ニト・ハング様この度あなた様の御子を授かり、無事出産致しました。その子の目尻なんてあなた様にそっくりです。このことをもってあなた様の妻このミサは再び仕事に復帰致します。」
当主は衝撃を受けた、そして軽い恐怖にも似た感情すら抱いた
当主には既に妻がいた、子供もそろそろ産まれてくる。そんな時期に子供が出来たので妻にしてくれと手紙が来たのだ、動揺するのは当たり前であった。
「ミサは今どこだ、話がしたい連れてこい」
「ハッ!」
間もなくしてミサが連れてこられた
「俺にはもう妻がいる、それに子供も出来た。お前とは関係を残したくない、失せろ」
「そんな…待ってくださいそしたら私は…」
「お前のことなど知らない」
「…そうですか、あなた様がそういうことなら」
「あなた様との関係をここで騒いで回ります、そうなったらあなた様の身分だって…」
「言ったはずだ、」
当主のニトは強く低い声で言った
「お前など生きていようが生きていまいが知らないと」
当主は腰に刺してある大剣を抜いた
その動作と共に当主の息のかかった部下がミサを押さえつける
「ー!やめて!離して!私が悪かったです!許して、当主様」
身動きの取れなくなったミサを見下ろす
「哀れな女だ」
ミサはあまりにも無慈悲にそして美しく斬り殺された。
白と青の美しいカーペットには赤黒い花が咲いていた。
「残りの子を探せ」
「それが…その」
「どうした!どこにいるのだ」
「シャル様の寝室に…」
「なんだと…構わん行くぞ」
ニトとその部下はシャルの寝室へと向かった
「おい!シャルいるか」
「ええ、いますよ」
ドアが力強く開けられる
見ると子供とシャルがトランプをして遊んでいた
「その子を渡せ」
その時シャルは察した今ここでこの子を渡したらどんなことが起きるのかを
「お断りします」
「その子供がどんな存在かわかってのことか?」
「そんな…こんな年端もいかない子供を」
「いいから今すぐその子を渡せ」
当主が一歩前に出た、その時シャルが供物として置いてあった果物のナイフを手に取った。
「何をするつもりだ、そのナイフをおろしなさい」
「嫌です!私は…」
シャルは何かを覚悟したような目で強く言った
「私は!この子を自分の命に変えても育てます」
「…ふん、勝手にしろ」
イザベラはシャルによってハング家の一員としてむかいいれられたのであった
その後
ハング家に第一子レヴィアが産まれたシャルもニトもたいそう可愛がった、周りの人間も
イザベラは一人の時間が増えた、レヴィアが産まれきたために
しかし、そのことはそんなに負担にはならなかったシャルが話相手や遊び相手になってくれたからだ
そんなある日悲劇が起きたレヴィアはいつものように当主やその他の人々と一緒に散歩へ出かけていた、シャルは体が弱かったため城に残っていた
城にはほとんどひとがいなかった
「ねぇ、今日もお話聞かせてよ」
「ええ、いいわよなにがいいかしらね」
イザベラはニトがいないのを狙ってシャルへ会いに行っていた、シャルもまたそのことを楽しみにしていた。
「今日はーそうねぇ湖の花にしようかしら」
「湖の…花?」
「ええ、私が好きな話なのよ」
シャルは優しく微笑みかけ話した
「湖の側に一輪の花が咲いていました。それはとてもとても綺麗で来る人来る人その花を見て感嘆の声をあげ、讃称しました。」
「しかしある日向かいにより綺麗な花が咲き、人々はその花に興味を持たなくなってしまったのです」
「そんな!酷いわ」
「ふふ、そうね酷いわ」
シャルは話を続けた
「人々は向かいに咲いた花にそのうちより美しくならないかと手を加え始めました。」
「えっ?」
「人って貪欲ねぇ…そんなことをしてしまったせいで向かいの花は元々の形を失ってしまったの」
「…そんな」
「人々は満足できず毎日毎日美しくする」
「そんな向かいの花をみて美しい花は言ったの『羨ましい』って」
「笑っちゃうわよね…なんでこんなに…」
「泣いてるの?」
「あら、ごめんなさい…イザベラ私はあなたの母親になれたのかしら」
「…私の母親」
「ごめんなさい私の母親は…」
バタンとドアが閉まりイザベラの足音が薄れていく
「最後にこんな話でよかったのかしら…いや、最後だから…」
シャルの視界はぼやけ次第に見えなくなり体中の感覚はほとんどなくなっていた
「イザベラ…レヴィア…強く、生きて…」
どうやらドアが開いたらしいイザベラが忘れ物を取りにきたのだ
そしてイザベラがシャルの様子に気付き必死にシャルの名を呼ぶ。シャルは最後の力を振り絞りイザベラに言った
「私は…あなたのそばに…」
「やだよ!死んじゃ嫌だ!」
(あぁ、泣いてるのね、ごめんなさい…でも、お別れ…私は泣くことすら許されない体になってしまったのです。こんな母を許して。)
「私の母親は×××!」
シャルはその日息を引き取った
体は拷問を受けているくらいの苦痛のはずなのに優しく満足した顔で…