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しましまだったのか水玉だったのか、あの日見た を僕達はとうとう知らない

作者: 須佐アイカ

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・ある日突然家族が増えることはままあること。


/*/


 ひゅーるるるるっ、と。

 空から女の子が降ってきたら、正直困る。

 それが美少女で、さらに自称メイドとくればなおさらだ。


「どかないでえええええええっ!」

「は?」


 声に反応して足を止めたのがまずかった。

 何事かと見上げると視界いっぱいに広がるぱんつが俺の顔面にストライクし、


「ぐぇっ」

「きゃん☆」


 ずいぶんとかわいい声を上げるぱんつである。いやぱんつは人を押し倒したりはしないな、と、スロモーで流れる世界の中で思う。

 運命さんはツンデレだ。3階から飛び降りて死ぬ人間がいる一方で空から降ってきた人間の下敷きになってもどういうわけか生きていることもある。


「あいたた…失敗失敗。でもだいじょーぶ未来ちゃんはイナキャン搭載なのです!」


 イナキャンって……イナーシャルキャンセラー? 慣性中和装置?

 なんだそのびっくり超科学。


「そんなわけでぇ、こんにちは!」

「どんなわけだよこんにちは! つーか重いからどいて大至急むしろ緊急に」


 女の子に言うのもなんだが掛け値なしに重い。

 いやイナーシャルキャンセラーとか搭載とか言ってるし本当に女の子かどうか疑わしいが。


「わっごめんなさい、未来ちゃんの重量は140kgなのでした!」


 いろいろな意味で聞かなければよかった。

 男の子が女の子に抱く幻想より軽く一桁多かった。


 数字を意識すると途端に苦しくなる。見た目こんなだがセキトリが乗ってるのと同じってのは有り体に言って圧死しそう。

 三途リバーで渡し船の婆さんがこっち来んねって手招きしてるのが見えそうなところで推定少女は身を起こし、


「はじめまして! 今日からお世話になりますーっ!」


 やけに角度のいいお辞儀で見下ろされる。

 いやそこはまず俺を気遣えよ被害者なんだから、というかお世話になるってどういう事だ。最近は赤の他人がアポなしホームステイしてくるのが流行ってるのか?

 酸欠気味の頭で考える。とりあえず不審者であることには変わりない。家出少女かもしれない。となればケーサツの出番か。よし。

 110、と。


「もしもしヒットマンに狙われてますたすけ――」

「すとーっぷ、すとーっぷ!」


 言うが早いかものすごい勢いで携帯を奪われ、えいっ☆なんてふざけた掛け声とともにまっぷたつに折られた。


「なっにすんじゃわりゃーっ!?」

「基板はバッチリ無事ですショップに持っていけばデータ復旧間違いなしです!」

「……そういう問題じゃねえよ」


 大声出したせいでクラクラする。目の前が白い。

 へろへろの俺になんだかよくわからないが元気だけはいい美少女さんがびしっと指を突きつけ、


「いいですか、未来ちゃんはあなたのいとこのようなはとこのようなパパがよそに作っちゃった妹のようなドリームガールなのです! ……全部嘘ですけど」


 嘘なんかい。

 という具合に元気だけはいいんだが、さてどうしたものか。どうしようもなさそうだな。頭の具合がかわいそうな子としか思えないし。

 しょうがない、とりあえず身元を探ってダメそうなら警察に突き出そう。


「ふーあーゆー?」

「未来ちゃんです」

「うぇあーらーゆーふろむ?」

「made in Japan.」


 こちらのおなごはモノづくりに定評のある日本製か。

 って、問題はそこではなく、


「えっ、メイドイン? 」

「未来ちゃんはガイノイドなのです。しかもメイドタイプです。こう見えて一般常識はバッチリなのです!」


 いやそれはどうだろう。

 即座に否定したいところだがそれよりも今確かめるべきことは、


「お世話になりますって、なんで俺?」


 百歩どころか地平の彼方まで譲って、この妄想少女がそういう類の存在であったとしよう。メイドというのは誰かにお仕えするもので、誰かにお世話になるものではない。

 つまりは主従関係で、俺はそのようなものを結んだ覚えはなく、


「それはですね……」


 元気が取り柄のはずの自称メイドはテンプレ通りに言葉を濁し、


「わたしお腹がすきました」

「……あー、そうね俺もすいた」


 あまりに白々しい話題逸らしで怒る気にもならない。

 アンドロイドも空腹を覚えるとは初耳だ。というか食い物を経口摂取できるんだなどうやって消化とかするんだろというのが俺の感想だったのだから、俺も相当どうかしている。

 だから、


「白くてツヤツヤ……おぉこれがうどんですかなんと面妖な!」

「確かに麺には違いないが頼む追い出されるからキョロキョロすんなあと黙れ」

「わかりましたご主人様!」


 うっかり入ったうどん屋は昔気質のうちは味で勝負ですけえのといった風情の佇まいで、黙々とうどんを啜る客ばかりでシャレの通じそうにない店内に響き渡るのはキャッキャとはしゃぐ女の声で、

 さっきから店主がすげえ勢いで睨んできている。


「あんな薄い色のスープでいいんですかねみなさん健康志向なのでしょうか」

「それを今ここで口にするお前の強心臓ぶりはもう十分に堪能させてもらったよ……」

「確かに未来ちゃんの動力はマイクロ縮退炉ですけど……いつの間に!?」

「マイクロ縮退炉……?」

「安心してください、地球がどかーん! っていってお釣りがくるくらいの出力でしかないのですよ」


 うどんだけに噛み合わない会話が進行する。

 現実感がなさすぎて俺の奥歯が噛み合わない。なにこの人歩く地球破壊爆弾かよっていうか、でしかってどういうことなの。地球なくなったらみんな死ぬじゃんよ!?

 物騒極まりない会話に俺の背中をつつーっと冷たい汗が滑り落ち、


「へいお待ち」


 全く動じないのは豊富な人生経験の賜物か、俺と怪しすぎる少女の会話を単に若者の戯言と判断したのからかは定かでないが店主の仕事ぶりは実に見事なものだった。


「これがうどん……この上に乗っているのは知ってますよ海老ふりゃーですね!」

「フライじゃなくて海老天な。あとなんでそこで訛る」


 今にもわぁーとか歓声を上げそうな勢いだが、女の子はとにかくやたらと海老が好きだ。どうしてそこまで海老が好きなのかと小一時間ほど問い詰めたい。

 それはともかく興味津々な眼差しが俺の丼鉢に注がれており、


「これは野菜天だよ。野菜の天麩羅」


 海老天乗せというのはそばでもうどんでも花形だ。

 花形であるということは当然値が張る。俺のうどんには野菜天が乗っている。野菜天は健康に良いだけでなく懐にもやさしい。


「おいひぃです」


 現在進行形でもぐもぐやっているこいつのうどんの上には海老天が乗っていた。

 ああ、人生ってこんなもんだよなあ。不平等もいいところでやんの。


「先に言っとくけど給料とか払えないからな」

「だいじょうぶです未来ちゃん尽くし系ですから!」


 なにがどう大丈夫なのかは知らないが、本人がそう言うのなら問題はないのだろう。


「あ、でもこの代金はちゃんと払ってくださいね無銭飲食は犯罪ですから」

「そこまで困窮はしていない! だから店主の前で堂々と言うなよ……」


 店主はなにがおかしいのかニコニコしていらっしゃる。

 俺はごまかすように一息にうどんをすすり、


 しかしまあ。

 これはなかなか長い付き合いになりそうだ。





   (本文約3000字くらい)

 なお、三題の取得ではこちらのサイトを利用させていただきました。

(http://www.ktrmagician.com/cgi-bin/sandai_banashi/sandai_banashi.cgi)

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