禁断の果実
叶えたい夢がありますか?
また叶えたくないこともありますか?
この世界では夢を叶えてくれる不思議な果物『叶えリンゴ』という幻の果物がある。
その価格は法外でなかなか手に入るものではない。
また、手に入れることはできても、食べることに躊躇せざるをえない。
それは、『叶えリンゴ』とは全く正反対の特性を持った『叶え梨』の存在のせいだ。『叶え梨』は、一口食べれば叶えたい夢が絶対に叶わない。また見た目も『叶えリンゴ』と瓜二つで見分けることは困難である。
そして、『叶えリンゴ』と『叶え梨』の割合は98%が叶え梨残り2%しか叶えリンゴが取れないので『叶えリンゴ』が幻の果物と呼ばれるのも頷ける。
ーとある町ー
町のメイン通り人々は足早に歩いている。
その道を少し中に入れば何かしら怪しい雰囲気の店が沢山ある。
この裏道は警察でさえ黙認するいわば裏企業の天国である。
そんな店が集合する道の一角に『来福店』と言ういかにも怪しげな店がある。
「あなたの願い叶えましょう」などとありきたりな文句を歌っている。
その怪しげな店に負けないくらい怪しげな人が店を噛り付くように見ている。
この男が今回の話の主人公である。名は望である。
望は一大決心を決めて店に訪れた。
「『あなたの願い叶えましょう』なんて言ってるんだ、絶対にこの店に、禁断の果物『叶えリンゴ』があるはずだ。ーけど、 もしも偽物の『叶え梨』だったら・・・あーもうどうしよう悩むなぁ。」などと一人でわめいている。
この裏通りは『叶えリンゴ』の噂が絶えない。
「望君今日も来たんですね。」と望の数百倍は胡散臭そうな来福店の店長が店の外に出てきた。
「あ、店長さん。こんにちは。」
「こんにちは。『叶えリンゴ』を買う決心はつきましたか?」
(ここの店長明らかに胡散臭いんだよなー。)
「この前も話したとおり、『叶えリンゴ』が出る確立はたったの2%しかありません。しかし、決して諦めてはいけません。当たると思って買えば当たるかもしれません。けれど、逆に信頼しすぎるのもよくありません。ですからものごととは・・・」
店長の長話が続く。
(ここの店長話長いんだよ。でもここに本当にあるのか叶えリンゴ)
「あぁ、店長さんまた今度きます。」
「はい!いつでもいらしてください。」
そう言って望は店を後にした。
望は来福店の帰り道に考えた。
なぜあの人は自分のものにならないのか。
そもそも、望という人間は長者番付1位をとった人の一人息子だ。
小さいころから欲しい物は全て手に入った。逆に気に入らない物は全て排除してきた。
小さいころから親の仕事を継ぐのが決まっており、英才教育はもちろんスポーツというスポーツは全てトップをとっていた。
そんな小さい頃から出世街道まっしぐらの望も去年親の仕事を正式に継、今では長者番付1位は望の物となった。
そんな望がなぜ『叶えリンゴ』を必要とするか、それはある女性を惚れさせるためである。
その女性とは望の会社の受付嬢を務める加奈江である。
加奈江は人当たりがよく、明るい性格をしており、誰からも慕われていた。
そんな彼女の性格に誰もが虜になり、望もその一人であった。
しかし望が食事に誘ってもことわられ、プレゼントを渡しても突き返された。望の今までかかわってきた女性は望の乗る高級車を見るだけで目の色を変えてきた。だから望は女性はそうゆうものだと思って育ってきた。しかし加奈江は違った。だから望は『叶えリンゴ』を望のだ。
ーお昼ー
「加奈江さん今日お昼どうかな?高級なレストランを予約してね!是非とも君と行きたいんだが?」今日も望のアピールタイムが始まった。
「社長。今日は私お弁当を持参してますので。すいません。」
「加奈江さん?な、何言ってるの?レストランだよ?弁当なんて別にいいじゃない?」
「では、お昼なので失礼します。」
今日もこうして望は加奈江に振られた。こらが198回目のデートのお誘いだ。
「で、社長。どうして僕が社長と昼間からレストランに来ているんですか?」
少し不機嫌そうな顔で望と一緒に食事をとる秘書の大久保が問いかける。
「いいところに気がついたな大久保。そもそも俺には友達が少ないことに気づいたんだ。だから、会社で一番仲の良いお前とコミュニケーションを取ろうと思ってな。たまには外食も悪くないだろ?」
「とか言って社長また加奈江さんに振られただけなんじゃないんですか?」
「な、なにをバカを言ってるんだ。この俺が振られるわけないだろ?」
「だったらいいんですけどね。」
と言いながら肉に食らいつく大久保。
大久保という男は望の唯一気の置ける相手であり、望が最も信頼をしている人物である。
「で、社長次はどういった行動に出るつもりで?」
「そうだな。次はディ○ニーにでも誘おうかと思ってな!どうかな?」
(やっぱり振られたんだ。)と心で思った大久保。
「いきなりディ○ニーはハードルが高いのでは?」
「大久保はわかってないな~!女の子は誰でもディ○ニーに憧れるものだ。今に見てろよ!お前の携帯に加奈江さんとのラブラブ写真を送ってやるわ!はっはっはー。」
「それが僕との写真にならないように祈ってますよ。」
などと会話を交わしながら食事をする二人であった。
その頃加奈江は同僚と公園でお昼を食べていた。
「えーまた社長のお誘い断ったの?もったいないな~」
「だってあの人私のことなにも知らないくせにあんな猛烈アピールしてくるんだもん。少し引くわー」
「いい加奈江?相手は超お金持ちよ?何処にでも居るようなやつなら気持ち悪いかもしれないけど、社長ならむしろウェルカムじゃない?」
「いや全然?」
「あんた人生棒に振ってるわよ?あんな金持ちで顔もいい男なんてそうそう居ないわよ?」
「そうかな~?なんか違うんだよね」
「はぁーもったいない」
しばらくそのような話が続いた。
望はレストランで大久保と別れ一人歩きで会社まで帰っていた。
そうあの店に寄るためだ。
しかしそれを怪しい黒のワゴン車が見ている。
「目標には気付かれてはいない。呑気なもんだ。しばらく監視を続ける。」
と電話で誰かと話しているようだ。
しかし望は知る由もなく店に入る。
「こんにちは。」
「はいはい。いらっしゃいませー。あー望君また来てくれたんですね?『叶えリンゴ』は買う決心着きましたか?」
「はい!決心つきました!買います。」
と言いトランクを机の上に置いた。
「このなかにぴったり入っています。」
「わかりました。では確認するので少々お時間をください。」
と言われ望はしばらく店内で時間を潰した。
「お待たせしました。確かにお金はいただきました。ではこれが『叶えリンゴ』です。」
「ありがとうございます。では仕事があるので僕はこれで。」
と言い店を出ようとする望。
そこを店長が一言
「あ!望君。僕趣味で占いもやってるんですけど、これはアドバイスです。望君の身に何かおきようとしてます。なので『叶えリンゴ』はここぞという時までとっておくことをお勧めします」
「ありがとうございます。」
そう告げて望は店を後にした。
「店を出たぞ!今だ!捕まえろ」
と謎の男の声と共に黒塗りのワゴン車から数人の男が出てきて望を襲った。
「うわ!なんだお前ら!やめろ!離せよ!」
と必死に抵抗する望。
しかし、薬を嗅がされ眠りに落ちてしまい、そのまま車でラチされてしまった。
「社長!社長!起きてください。」
と加奈江の声が聞こえてくる。
(あーいい夢だなぁ。加奈江さんがでてくるなんて。)
など妄想が膨らむ。
「社長ってば起きてください。」
パチンと頬を叩かれ目を覚ます望。
「え?痛い!え?何?ここどこ?・・・てか加奈江さん?」
「私も気がついたらここにいました。ここがどこかもわかりません。」
「そっか。俺怪しい男達に襲われたとこまでは覚えてるんだけどな。」
「社長もですか?私もです。昼食を食べ終わり、同僚の友子と歩いてる時に襲われました。」
などと状況整理をしている。
幸いにも『叶えリンゴ』は右ポケットに入っている。
「ここから脱出する方法を考えよう。」
と望が言うと正面の重々しい扉が開いた。
そこには数人の男が立っている。
「おはようございます。望社長。」
その中のリーダーと思われる一人が望に声をかける。
「誰だお前は?」
「あなたを終わりに導く者、とでも名乗っておきましょうか。」
「なにふざけたこと言ってやがる」
「おやおや。威勢がいいですね。しかしこちらにはこれがあるんですよ?」
ど拳銃が目に入った。そしてもう一方の手にはスイッチのような物が見えている。
「なんだそれは?脅しのつもりか?」
「脅し?それもいいですね~。しかし残念ながらそうではありません。」
と言うと同時に引き金を引いた。
弾は望の頬をかすめて行った。
「何が望みだ?金か?」
「はっはっはー!さっきの勢いはどこに行ったのですか?」
「頼むから助けてくれなんだってする。」
「情けないですね~!あなたの社長さんは!」
と言うとリーダーと思われる男の隣に一人仮面を被った男が前に出てきた。
「彼が今回の首謀者ですよ。」
と仮面が外された。
そこに立っていたのは・・・
大久保だった。
「大久保ー!どういうことだよ!俺たち仲良くやってたじゃないか!」
「仲良く?どこがだ!お前に振り回されるのはもうごめんなんだよ!」
「大久保、頼むなんでもするから助けてくれ!な?給料だってあげてやるよ!」
「そういう上から目線が気にくわないんだよ。」
と怒号と共に望の顔を蹴り飛ばす。
「いって!」
「社長大丈夫ですか?」
と加奈江が駆け寄ってくる。
「そうだな~。社長。なんでもしてくれるって言うんならこのスイッチ押してくれない?」
と少しどこかいつもと違う雰囲気の大久保が言う。
「押したら助けてくれるのか?」
必死で藁にもすがる思いの望。
「あぁ助けてやるさ!その代わりお前の会社はボーンと爆破されるけどな!」
「な、そ、そんなことできるわけないだろ?」
「やらないならあんたが死ぬだけだ!ちなみにスイッチも押すけどな!あははは~」
(大久保のやつ完全に狂ってやがる)
「どうするんだ?スイッチ押すの?押さないの?どっちなんだよーー!!」
と言いながら望の腕を踏みつける大久保。
「スイッチは押せない」
「はっはっはー。じゃあ死ぬか?・・・ってお前何してんだよ!」
とその時大久保の目にとまったのは携帯電話で警察に電話している加奈江だった。
「加奈江ちゃーん何しちゃってくれてるの?つーかお前ら?身体チェックもろくにしてないわけ?」
「すいませんね~。どうも急いでいたのでそこまでできませんでした。」
「まぁいっか!今からどんだけ急いでも二人を殺して、会社を爆破して、逃げるだけの時間はあるし!おい銃かせ!」
「わかりましたよ。」
といい大久保に拳銃を渡すリーダー。
「まずは社長の愛しの、愛しの、加奈江ちゃんからだな~!社長の苦しむ顔も見たいし、何より余計なことをしてくれたしね~!!」
「やめろ!加奈江さんには手を出さないでくれ!頼むから。」
「うっせーな!お前は黙って死刑を見とけばいいんだよ。」
とお腹を強く蹴られる。
「うっ!や、やめろって~」
と言い加奈江と大久保の間に立ち塞がる。
「すごいね~!こんなになっても助けたいんだ!拍手ものだよ!」
(少しでもいい時間を稼ぐんだ。)
と、考え言葉を話そうと思った時だった。
「あの・・・」
「じゃあお前から死ねよ!」
銃声が響きわたる。
それと同時に崩れ落ちる望。
「キャー!!社長しっかりしてください!」
望に駆け寄る加奈江。
「じゃあ続いては、加奈江ちゃんじゃなくて、会社の爆破と行こうか?まだ生きてるんだろ社長さーん?」
(くそ、意識が遠退く。このまま死ぬのか?あ!そうだ『叶えリンゴ』があったじゃないか!)
と思い
ポケットに手を伸ばし、りんごをかじった!
(俺はもうどうなってもいい!今会社がなくなったら生活に苦しむ人も沢山いるんだ!だから会社だけは爆破しないでくれ!加奈江さんと結婚できなくたっていいからー)
と頭の中でお願いした時だった。
「私は『叶え梨』あなたのお願いは却下されました。」
と頭の中で聞こえた。
(嘘だろ?)
と心で思う望。
その時ズドーンと大きな音が聞こえ、そのあと警察のサイレンと思われる音が聞こえ意識が完全になくなった。
ー3日後ー
「誰もが知る大手会社の爆破事件それから3日たちました。今だ犯人の足取りは掴めておりません。また今回の事件は1人も死者が出なかったのが不幸中の幸いですね。」
とテレビのニュースの音が聞こえてくる。
望は目を覚ました。
右手には何か暖かい物を感じて目をやる。そこには必死で看病してくれていたのであろう加奈江が手を握りながら眠っている。
望は少し嬉しくなり「ふふ」と少し笑い加奈江を起こしたのであった。
終わり