遭遇
木々の揺れる音と焚き火のパチパチという音の中
その化け物は突然と現れた
「ヒッ!」
僕は驚き、思わず声が出てしまった
なんだあの化け物は。一体何だんだ
人のカタチをしているが、あれは絶対に人間じゃない
服は身につけておらず骨と皮しかないような小柄の身体で
僕の手の3倍程ある手と指を持ち、指先には鋭い爪が見える。
そして顔は憎悪にまみれていて、尚且つ醜く笑みを浮かべている。
こんな生物は僕は見たことがない。
ただ、知っているといえばヨーロッパの民話で出てくる
”ゴブリン”という生き物にそっくりだ。
あいつは警戒しながらガニ股で近づいてくる
「来るなっ!」
僕はすかさず立ち上がりそう叫んだ。
化け物は僕の声で一瞬怯んだが、僕の目を見つめながら
これをチャンスとばかりに口角を上げ笑ったのが見えた。
「なんなんだよ! お前はっ!」
目を見ながらカメラケースの掴み後ろに下がる。
化け物が手を振り上げるのを見て、僕は後ろを振り向き全力で走り出した!
「一体どこなんだよ!ここはっ! 」
痛む右足を我慢して全力で木と木の間を走り抜ける
化け物はガサガサと落ち葉を踏みながら後ろをついてくる
「くそうっ!僕が一体何をしたっていうんだ!!」
目が覚めたらびしょ濡れで全身打撲で、お腹も空いて、
どこだかわからない上に
わけの分からない化け物に追いかけられて。
一体僕が何をしたというんだ。
人を殺した天罰なのか?
僕はこんなことをするために死んだわけじゃない
あんな奴に殺されてたまるか!!
夕刻の森の中を走りながらカメラケースからナイフを取り出す。
化け物はまだ追いかけてきている。
目的は何かは分からないが、あの目は決して友好的なものではない。
向こうはきっと僕を殺すつもりだ。
そっちがそのつもりなら、と
僕は決心する。あの化け物と対峙することを。
僕は更にスピードを上げ、大きな木の後ろに隠れた
「はぁ…はぁ…」
出来るだけ息を潜める。ナイフを皮の保護カバーから取り出し左手に持つ。
ドックドックと心臓の音がうるさい
ガサガサと音がする
化け物が近づいてきた。
隠れるところを見られてないと信じたい。
「グゲゲ…」
木のすぐ後ろで声がした。
やっぱり逃げることは出来ないようだ…。
音はもう僕のすぐそこから聴こえる。
僕は、目の前にあった小石を掴み化け物が先ほどまで居た場所まで投げ込んだ。
’バスッ’っと音がしただけだったがそれで十分だった。
化け物が振り返った瞬間に、僕はごめんなさいと心の中で謝って
後ろからその首元にナイフを突き立てた。
「グ…」
蚊の鳴くような声と共に化け物は前のめりに倒れる。
化け物を殺した。
僕は数歩下がり、さっきまで隠れていた木にもたれ掛かった。
汗が止まらないが、半袖で走ったせいか身体は冷えている。
せめて上着を1枚だけでも持ってくるべきだった。
「ハァ…ハァ……痛い…なぁ…」
右の足首が物凄く熱く、感覚がない。
心臓は未だドクドクと大きな音を発している。
「疲れた。…一体こいつはなんだったんだ」
僕は先程息を止めた化け物をじっとみる
そいつに小石を投げ込むがピクリとも動かない。
「ゴブリン?オーク?なのか?」
小柄でやせ細り、大きな尖った耳を持ち、そして醜い。
本や映画でみたことがあるそれと特徴が一致している。
ここは、ファンタジーの世界なのか?
僕は馬鹿らしいとも感じながら真剣に考える。
その時だった。
「!! いたっ!」
ヒュンっという音と共に左腕にチクっとする痛みを感じた。
そこには、先ほどと同じ化け物が2匹
目の前に居た。
「うあ… あ… う…」
突然のことで声もでなかった
僕は咄嗟に持っていたナイフを振り上げようとするが
思っていたより手に力が入らない
ナイフは僕の手から離れて、化け物の足元に落ちた。
しまった! よりによってナイフを落とすなんて!
恐怖から後悔に変わる。
化け物はナイフを拾いニタァと笑った。
両手でカメラケースを抱きしめるように持ち、僕はまた全力で走りだす。
「ハァ!ハァ! つ…捕まったら死ぬ!」
叫びをあげる身体を無視して走る!
先ほど引っ掻かれた左腕からは血が肘へと流れ続ける
後ろからは化け物の鳴き声が聴こえる。
どこか、どこかに隠れるところはないのか!
必死でキョロキョロと見渡すが、ずっと同じ景色で木ばかりだ。
そして今度は2匹に追い掛けられているから安易な場所には隠れられない!
僕はひたすらに走り続けた。
全身が悲鳴を上げながらも、走った。
右足の感覚はもうない、裂かれた左腕もどうなっているかわからない。
とにかく僕は走った。
そして、ついに、僕は転んでしまった。
どしゃぁ!
という音と共に僕は地面に叩きつけられる。
カメラケースは少し前方の方に投げ飛ばされてしまった。
少し離れた後ろの方からゆっくりと、着実に2匹の化け物が近づいてくる。
僕は、死ぬのを悟った。
「ふふ、、、こ、こんなとこで、死にたく、なかったなぁ…」
震える身体で這いつくばり、カメラの元へとほふくする。
前方でガサっという音が聴こえた気がした
顔を上げてみると赤茶色の毛に包まれた、2足歩行する狼がいた。
僕には気づいているみたいだが化け物をじっと見ている様だ
「ウェアウルフだ…綺麗だな…殺されるならこっちがいいなぁ…」
左腕からは今も血が流れ出してる。
葉っぱの匂いがして、地面が暖かくて気持ちいい。
もう、疲れた。眠たい。
カメラケースを掴んで仰向けになる。
霞む視界で化け物2匹とウェアウルフが戦っているのがわかった。
優勢なのはウェアウルフの様だ。
こんな綺麗な狼に食われるなら本望か、
そんなことを思った僕は、その瞬間、気を失った。
…
…
…トンットットットン
…チンッ、コトコト、コトコト。
いい匂いがする
目を開けると、小さな蒼い瞳が僕をのぞき込んでいた。