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約束の夜は流星群と共に

 夜は真っ暗な方がいい。街灯とか建物から漏れる光とか、夜を明るくすものはない方がいい。無機質な白光が明々と街を照らすよりも、月夜や星降る空みたいな、自然が生み出す闇の中でじっと息を潜める方がずっと素敵なんだ。

 確かに闇夜に浸ると孤独を感じて、怖くなって、逃げ出したくなる。どこでもいいから、誰かがいて、光があって、暖かな場所に助けを求めたくなる。夜の暗闇は自分がいかに小さな存在なのかを、いかに自然の前では脆弱な存在なのかを顕著に現すから。周りの夜は自分に忍び寄って、闇の中へと誘いこもうとするから。

 でも、そんな闇夜でも、見上げた夜空には煌めく星々と優しく光る月がある。例え雲がかかって、何も見えなくて、本当の本当に真っ暗になったとしても、その上には変わらず穏やかな夜空がある。僕らを優しく照らしてくれる夜空があるんだ。

 そしてそれはきっと同じ。どこで誰が何をしてても、決して変わらないいつもの夜空。見上げたそこにある、こことどこかを繋ぐ大きな大きな窓。ここにいる僕たちはどこかの誰かと繋がっているんだ。

 そんなことに気がついたなら、夜はとても優しくなる。

 町の街灯が消え始めてから数分後、僕はようやく自宅に帰ってきた。雲一つない夜空で開かれる星たちの芸術をより美しく眺めるために、町内の家々に最後の確認をとっていたんだ。

 午後十時から二十分までの間、町中の明かりという明かりを全て消す。

 そんな一見馬鹿馬鹿しくて無謀な願いは、度重なる住民への説明と自治体への要請でなんとか実現した。一番大変だったのは、街灯を消してもらうことだったけ。役所に行って、何度も行って、署名なんかも持って行った。町人のおよそ八割。分厚い紙の束を持って行って、何とか消してもらうことになった。前代未聞だったんだって。当たり前だよね。でも、美しい流星群を見ませんか、最高の流星群を見ませんかって呼び掛け続けたこの一ヶ月。いつしか僕の願いは町民に届いてたみたいなんだ。

 二階に上がって窓から外の様子を見た。一つまた一つと家の明かりが、路地の街灯の光が消えていく。真っ黒に、でも仄かに蒼白く染まりつつある町並みは、月明かりに照らされながら静寂に包まれていた。

 そうして、全ての明かりが息を潜めた時。空にかかる半月だけが蒼白く照らし出さす町並みには、住民たちの談笑だけが小さく響いて、やがてその声すらも淡く空気に溶けていってた。時間の感覚すら溶けていきそうな光景が、静かに広がっていたんだ。

「始まったぞ!」

 何処からともなくそんな声が聞こえた。見れば、月から離れた場所に一筋の白線が刻まれている。そして、言葉の通り、その一つを皮切りに次々と星々が夜空を滑り始めた。僕はそんな光景を、近くにあったベッドに腰をかけて眺めていた。外からは感嘆の呟きや、感激の声がぽつぽつと聞こえてくる。

 君もこの空を見てるのかな?

 知らない誰かが、知ってるあの人が、同じ空を違う場所で見ている。誰かは笑っているのかもしれない。あの人が泣いているのかもしれない。でも、みんなが同じ空を見てる。

 独りじゃない、そうなんだよね?

 流れる流星群を、もう会えないあの人との約束の流星群を眺めながら、僕はそっと微笑んだ。

 僕は元気でやってるよ?

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