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「アホか? お前」
電話の主が返した返事は、この一言だった。
「なによ、昔なじみにそのいい草は。もう、香には言い聞かせてあるの。訳あってあんたと行動するようにって。いいじゃない。若い娘とデートさせてあげるって、言ってんだから。悪い話じゃないでしょ? 一樹」
礼似の言葉に一樹は頭を抱えた。わざわざ電話をかけて来るから何かと思えば。
「十分悪い話だ。その娘いくつだって?」
「二十一」
「勘弁してくれ。まるで親子みたいな年齢差じゃないか。俺、ロリコンじゃないぞ」
「いいじゃない。別に手出ししろって言ってる訳じゃないんだから」
「当たり前だ。お前に女の用意をしてもらうほど、落ちぶれてない。つまりは俺にあて馬役になって、その娘の子守をしろって事だろう?」
「あら、よく分かってんじゃない。手出しできないんだから、そう言う事になるわね」
「冗談じゃない。よそを当たってくれ」
「それがダメなのよ。香はこっちの男を嫌ってるから組の者を使ったんじゃ、説得力がないの。あんたは一応、一旦足を洗ってるし、どこかの組織に関わっている訳でもないし」
そんなへ理屈で振り回されてはたまらない。一樹はそう思って言い返す。
「俺だって堅気じゃない。第一、なんで俺がお前のそんな遊びに付き合わなくちゃならないんだ?」
「私が暇だから」
礼似はさらっと言いきった。
「お、お前なあ」
「なぜだか、こてつ会長が私を仲居の仕事から外したのよね。会長の事だから何か考えがあるんだと思うんだけど。組の上層部の人間とも接触を断っておくように言われてる。この所組も平穏だし、土間は組長の仕事にかかりきり、御子は実質休業状態。おかげで、暇で、暇で」
一樹は礼似の話をうんざりしながら聞いていた。そういや、こいつは昔からこうだった。
「とにかく断る! あて馬なら堅気の男を自分で用意しろ!」
一樹はそう怒鳴って一方的に通話を切った。
「何よ。ケチ」
礼似は切れた電話に文句を言った。堅気の男を用意するなんて、面倒だからあんたに頼んだんじゃないの。だいたい普通の堅気じゃ、香に丸めこまれのがオチだろうし。
そう思いながら礼似は携帯を自室のベッドの上に放り投げようとした。が、その時着信音が鳴った。
気が変わったのかしら? 一瞬そう思ったが、電話の相手はこてつ会長だった。
「私用電話は短めにしてくれないか? 連絡がつかないのは困る」
「すいません。あんまり、暇だったもんで」礼似は厭味ったらしく返した。
「悪いがちょっと話がある。電話では駄目だ。明日、私の部屋に来てほしい」
「私、一人で、ですか?」
これは珍しい。最近、会長からお呼びがかかる時は、土間や御子と一緒に呼び出される事が多いのに。 私個人に話しなんて、いったいなんだろう? 礼似は首をひねった。