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こてつ物語8  作者: 貫雪
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「だ、大丈夫ですか? か、香さん」ハルオに問いかけられて、香は我に帰った。


「礼似さんは? 無事なの?」飛び起きるとハルオにつかみかかって聞く。身体は大丈夫なようだ。


「な、なんか向こうも、カ、カタがついた、み、みたいですけど」


 言われて見ると、礼似達の姿はすでになく、倒れた男達の姿だけが香の目に入った。

 まあ、礼似さん達がやすやすと、やられたりする訳無いか。動揺して損した。ああ、ホッとした。


「あ、あの、俺の名前、よ、呼んでもらって、あ、ありがとうございます」

 ハルオは唐突に香に礼を言った。


「は?」


「お、俺、まだ、ア、アテにしてもらえて、い、いたんですね」


「何よ。あんた、私が呼ばなかったら、助けなかったつもり?」香が睨む。


「そ、そんなこと、な、無いです。ただ、俺、げ、幻滅されたんじゃ、な、ないかと、お、思って」


「こなかったらそれこそホントに幻滅するところだったわよ!」香はハルオを揺さぶりながら怒鳴る。


「こっちは信用してるってのに、肝心な時にトロいんだから」


「す、すいません」


「今度ぐずぐずしたら、二度とあんたをアテにしないからね!」香はそう言い放ったが、


「そ、それだけは、だ、大丈夫です」と、ハルオは即答する。


「大丈夫って、何がよ?」


 ハルオはここだけは力説しようと声を大にする。

「か、香さんが俺を信じてくれる限り、お、俺、必ず助けに来ます!」


 ふん。また、出来るかどうか分からない事、宣言して。無責任なんだから。香はそう、言おうとして、ふと考える。

 でも、さっきは確かにハルオに助けてもらった。それも絶体絶命のピンチの時にだ。ドスは握ってはいたけれど、むやみな使い方なんてしなかった。いつの間にか約束は守られてしまっている。

 むしろ私、ハルオをわざと遠ざけた。それでもハルオは間にあった。間にあってくれた。

 あの時私、なんでハルオの名前を呼んだんだろう? ハルオが近くにいるかどうかも分からなかったのに。やっぱり心のどこかでハルオの事、信頼していたのかしら? きっと助けにきてくれるって。そして、ハルオは来た。


 香が口ごもってしまったので、急に二人は無言になった。ハルオの顔が自分の額近くにある事に香は気づく。

 そっか。私、ハルオにつかみかかったまんまだった。忘れてた。離れようと顔をあげると、ハルオと目が合った。


 ハルオが真剣な顔をしている。視線を外させてくれない。見つめあったまま動けない。離しかけた手も抑えられる。


 ええ? えーっとおー。


 どうしようか? ……いいかな? いいよね? 今のハルオは命の恩人なんだし、ハルオが気にしていたのは私の顔の傷じゃなくって、信頼の方だったみたいだし。ちょっとくらい、サービスしても。うん。


 香は瞳を閉じかける。


 その時、ハルオの表情が変わった。香もすぐにピンとくる。


「土間さん」

「礼似さん」


 二人がそれぞれに口にすると、礼似と土間が物陰から現れた。


「バレちゃった? 香、あんた、ハルオに尾行習ってから、勘が良くなったわねえ」

 礼似がニヤニヤしながら言う。


「何やってるんですか! 出歯亀見たいな真似して」香が叫ぶ。


「こ、こんな近くで、ジロジロされたら、俺達でなくても、分かります!」ハルオまで怒鳴っている。


「二人とも、ちゃんと仲直りしたか気になって」礼似はしゃあしゃあと言う。


「別に喧嘩してたわけじゃありません。気にしないでください!」

 そう言って、香はハルオの手を振り払って離れて行く。


 ハルオはこれ以上怒りようがない顔で礼似と土間を睨みつけた。目に涙まで浮かべている。千載一遇のチャンスだったのに!


 ハルオの視線に耐えかねて、土間は身を小さく縮めた。ほんと、礼似が首を突っ込むと、ロクな事にならないわ。私までハルオにすっかり恨まれたじゃないの……。





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