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そうか、家族。肉親と同様の存在。だから私は狙われた。
私にとって礼似さんは、もう、家族も同然。礼似さんも、そう言ってくれた。自分がどんな状況に陥っていても相手の事を気に留めずにはいられない。決してうち消す事の出来ない存在。
守られるの、足を引っ張るのなんて、そんなこと関係なかったんだ。私は礼似さんを気にせずにはいられないし、礼似さんも私を気にせずにはいられない。たがいに影響を受けずにいられない。そこに理由なんてない。
たとえこの先、別々の人生歩もうとも、私達はお互いの事を気に留め続けるんだわ。たぶん、一生。
生き延びなきゃ。礼似さんのために。たったひとりの家族のために。
トラックから男が降りて来る。すこし、頭を左右に振って、ゆっくりと歩いてくる。向こうにもそれなりの衝撃があったのだろう。
手元に光る物が見える。きっと何かの刃物を持っている。逃げなきゃとは思うのに、痛みで身体の動きが遅い。
「自分の身を守れて、初めて一人前」
前に礼似さんに言われたっけ。無謀な気持ちのままでいる事の愚かさも諭されていたのに。ゴメン、礼似さん。私、まだ半人前だった。礼似さんにせっかく気に留めてもらっていたのに。こんな風にツケを払わされるなんて。
男が近づいてくる。やっと分かったのに。自分の命がどんなに重たいか。倉田さんも教えてくれていたのに。
ダメだ。死ねない。礼似さんが悲しむ。それはもう、心が壊れるくらいに。だって私達は家族だから。 今の私なら分かる。助けて、誰か、誰か。
「ハルオー!」お願い、今度こそ、来て。
「お、遅く、な、なりました」
ハルオは来た。今度こそ。その手に香が砥いだいつものドスを手にして、男の前に立ちふさがった。
このバカ。何が「遅くなりました」よ、こんな時に。もう少しカッコつけた物の言い方出来ないの? ダメなやつ。
「なによ! この、グズ! のろま! そんな奴、さっさとノシちゃってよ!」
香は自分が泉達を送るように言いつけたことなどすっかり忘れて怒鳴った。
「す、すいませんでした。い、いま、片付けます」
ハルオも目の前に散らかったものをちょっと片付けるかのように返事をした。実際、ハルオの動きは素早い。あっという間に相手の刃物を払い落し、腹をけり上げて本当にノシてしまった。
腕が上がってるわ。初めてナイフを握って震えていたあの姿はもう無くなってる。ドスもむやみには使っていない。動きにも無駄がなかった。自信が冷静さを生んでいるみたい。
香もあまりにあっけなく相手を倒したハルオに、感心しない訳にはいかなかった。振り返って自分に近づいてくるハルオをポケっと眺めていた。