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こてつ物語8  作者: 貫雪
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 すると、目の前の男が突然、物も言わずに倒れてしまった。誰もが唖然とする中で、香は誰かに腕を引っ張られた。


「逃げるんだ! 早く!」

 そう言われて、自分を引いて走りだしたのが一樹だと、香はようやく気がついた。


「一樹さん、奥様は?」


「あの後すぐに、こてつがどこかに引っ張っていったよ。動物の本能は鋭いな。後始末は良平さんがしている。あの二人が一緒なら大丈夫だろう。おそらく誰も御子さんに指一本触れられやしない。それより、俺のナイフ、返してもらえないか? 女スリさん」


「すいません。思わず」香は一樹にナイフを渡した。


「俺からスリ取るなんて大した腕前だ。おかげでさっきはあせったよ。これからは財布程度にとどめておいてくれ」


「礼似さんの厄介事って、組がらみのかなりの面倒事みたいですね」


「その通りさ。君にもこんな無茶をしてほしくなかった。だから言ったんだ。周りに与える影響を考えて行動してくれと。これじゃ、礼似の時よりタチが悪い」


 そこに突然、バイクが現れ、立ちふさがった。


「言ってくれるわねえ。誰が香に昔話を聞かせろって言った?」

 そう言って礼似と、バイクの後ろに乗っていた土間がバイクから降りて来た。


「残念ながら、昔話はこれからさ。先に、こいつらを片付けないと」一樹が追って来た男達を指差した。


「ナイフなんかに頼って。あんた、一から鍛え直した方がいいわよ」

 そう言う礼似も鉄パイプを抱えているが。


「香、あんたこのバイクでこてつ組に戻んなさい。真っ直ぐ大谷のところに行って。もう、あっちの方が安全だから」

 礼似の言葉に、一樹が軽くほほ笑む。


「決心、着いたか」


「着けたくなくても、やるしかないみたいよ。こんなに賑やかになることだしね。人気者は辛いわ」


「なあに。俺だってさばいてやるよ。香君、早く行くんだ」


 言われて香は慌ててバイクに飛び乗った。よく訳は分からないが、とにかく組に戻れば安全らしい。これ以上迷惑はかけられない。急ごう。


 しかし、走りだしてすぐに、香の目の前にトラックが突っ込んで来た。驚いてブレーキをかける。バイクのコントロールが効かなくなる。ダメだ! 突っ込む!

 香はバイクを捨てた。それしか手がなかった。まともにぶつかるよりはマシ。横に飛んで身体が地面にたたきつけられる。頭は守ったが、全身に衝撃が走った。


「うっ……」


 身体は痛むが意識はしっかりしていた。ブレーキでかなりスピードは抑えられていたし、飛び降りる瞬間、出来る限り身体も守ったつもりだ。それでもすぐには動けない。


 後ろで礼似さん達が格闘している。礼似さんが一番襲われているようだ。苦戦しているみたい。この一件の原因は礼似さんにあるんだろう。私は礼似さんの妹分だから狙われているだけか。

 それにしてもここまでするなんて。これは礼似さんを脅すとか、私をさらうとか、そんなものじゃないみたい。


 殺す気だ。こいつら、本気で私の命を狙ってる。香の背中に冷たい汗が流れる。


 礼似さんが動けずにいる自分を気にしているのが分かる。ダメ。礼似さん、相手に集中して。動揺しないで。


「家族になったんだから」礼似さんの照れた笑顔を思い出した。





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