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こてつ物語8  作者: 貫雪
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 由美と香の会話が止まり、しばらく黙々と歩いていると、急にこてつが立ち止まった。ピンと耳を立てている。


「こてつ? どうしたの?」由美は不思議そうに聞いているが、香は感じとっていた。後ろの御子達も勘づいている。


 良平は御子にピタリと寄り添い、一樹は由美に近付いている。嫌な気配。さっき智也が襲われた時と、同じ気配をかすかに感じる。


 礼似さん絡みか。だとすれば狙いは私、奥様じゃない。香はそう思った。


 すぐに香は全力で駆け出した。御子さんは大きなおなかを抱えているし、良平さんは御子さんを守るので精いっぱいだろう。奥様だって、私がいなければ巻き込まれることは無いはず。あとの事は一樹さんに任せられる。


 私だって自分の身ぐらい守れる。今度こそ、みんなの足は引っ張らない!


 香は後ろをちらりと振り返った。あっけに取られている由美に、一樹が何やら話しかけている。よし、これでみんなに余計な負担はかからない。

 さっき一樹さんが奥様に近付いた時に、悪いけど上着からナイフをスリ取らせてもらった。私だって丸腰でなければ、そこそこやれるんだから!


 案の定、男が自分を追いかけてきた。やっぱり狙いは私か。さっき、男は二人で襲って来た。どこかにもう一人いるかもしれない。でも、奥様の事は一樹さん達が守ってくれるだろう。私はこいつに集中すればいい。大丈夫、うまくやれる。香は自分に言い聞かせた。


 どこかに隠れて不意打ちを食らわしてやろう。そう思って香は路地の角を曲がる。


 ところがそこにはいかにも絵に書いた様なチンピラが二人、香を待ちかまえていた。振り返ると追って来た男も二人に増えている。

 しまった。さっきうまくいかなかったから、こいつらも人を増やしてきたんだ。そんなの当たり前じゃない! 私ったら馬鹿だ。甘かった!


 四対一。どうしよう? 何とかうまく逃げなくちゃ。こんなにぞろぞろ出てくるなんて礼似さん個人の問題じゃない。きっと組がらみの何かだ。奥様のところは大丈夫かしら?

 これじゃ、一樹さん達はアテにできない。こてつ組が絡んでいるなら、奥様の身だって危ない。

 男達に囲まれる。突破口を作らなくちゃ。幸いナイフもあることだし。


 しかし香は思い当たる。私、身を守るすべばかり習っていて、どうやって相手に仕掛けて行くのか、習ってない!

 向こうから仕掛けて来るのを待とうか? ううん、四人がかりじゃどうにもならない。こうなりゃヤケよ。ナイフで襲えば何とかなる!


 香は何も考えずにナイフを男の一人に振りかぶろうとした。そうすれば、相手はよけて行くだろうと単純に思っていた。

 しかし相手はよけようとしない。かえって香の方が思わずためらった。腕の動きが止まりかけた所で危うく逆にナイフを奪われそうになる。

 間一髪、香は身を翻し、脇をしめてナイフを構えなおした。腕を取られそうになった時のためにと、ハルオに教わった事が身についていた。必死でナイフを握り直す。まるですがりつくような気持。


 ハルオ。今ならあんたの気持が分かるわ。人を傷つけに行くって、命を奪おうとするのって、そんなに簡単に出来るものじゃない。たとえ殺し屋の血が私の中に流れていても、まともな神経があれば戸惑うのは当然だわ。

 そのくせ、ナイフにすがりつくしかない。たいして使えないことは分かってしまっても、すがらずにはいられない。

 こんなの度胸の問題なんかじゃない。こいつらも私が襲って来れない事を分かっているんだわ。



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