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「とりあえず、ここを出ましょう。俺達、通行の邪魔になっている」
一樹がそう言って、ようやく全員が自己紹介と、ほとんど意味のない、謝りあいから我に帰った。
実際、この集団がショッピングセンターの通り道をふさいでしまい、通行人達が迷惑そうによけて歩いている。
全員が慌ててセンターを出ると、一樹が
「とにかく俺は泉達を家に送って来る。ハルオ君、みんなもいる事だし、香君はちょっと君が見ていてくれないか?」
一樹にそう言われて、ハルオは香の方を見たが、肝心の香は
「あら、ハルオは泉さん親子を送って行きなさいよ。さっきはぐずぐずしていて、何にもしなかったんだから。私は一樹さんと一緒にいる約束になってるんだからね」と、すげない態度。
こう言われると、さっきの誤解の事もあって、ばつが悪すぎる。ハルオは一層のしょぼくれ顔で、
「わ、分かってます。ちゃ、ちゃんとお二人を、お、送ってきます」と、同意してしまう。
智也は名残惜しそうな顔で、「バイバイ」と、こてつに手を振っていたが、こてつは真底ホッとした顔を見せた。
由美はハルオがとぼとぼと泉達を送る背中を見ながら、
「香さん。ハルオさんと喧嘩でもしているの?」と、聞いてきた。
「別に。あいつはいつもあんな感じなんです。頼りないったら、ありゃしない」と、香の方も仏頂面。
「香さんにとって、ハルオさんは特別なのね。ハルオさん、喜びそう」由美はにっこりしながら言う。
「特別? なんでそんな事になるんです?」香は驚いて聞いた。
「だって、香さんは誰かに頼りたいって思いそうなタイプに見えないもの。むしろ、かばわれると気に病んでしまう人かと思ったから。でも、ハルオさんには違うのね。ちゃんと頼らせてもらいたいのね」
由美はぼんやり、のんびり、しているようで、以外にスパッと確信を突くところがあるようだ。香は一瞬返答に詰まったが、
「違いますよお。だって、あいつの方から言い出したんです。私を守るんだって。なのにあいつ、さっきは何にも出来ずにぼやっとしてたのよ。約束とか、全然、守れないやつなんです!」
刃物だって、簡単には使わないって言ってたくせに。私がドスを砥いであげたら、簡単に握ってたじゃない。私に言った言葉なんか、まるで覚えていないんだわ。きっと。香は一層プリプリした顔になった。
「何があったのかは知らないけど、頼れて、誠実で、いつも気にかける人でもいてほしいの? 香さんって欲張りなのねえ。そんな約束しちゃうなんて、ハルオさんも大変」すでに由美は苦笑している。
「出来もしない約束、する方が悪いんです。出来なきゃ出来ないで、私の事はほっときゃいいのに。それなら私も、アテにしたりなんかしないんだから」
「でも、香さんも、ハルオさんが信頼できると思ったから、約束したんでしょ?そういう人が近くからいなくなったら、寂しいんじゃないかしら?」
「寂しい? そんなの私、慣れっこ……」
言いかけた言葉が止まってしまう。
以前だったらハルオがいないどころか、この世で一人になったって、結構平気かも知れないと思っていた。たぶん、本当に平気だったかも知れない。でも、今は。
こてつ組に入って、礼似さんと暮らして、いつの間にかハルオにも関わり続けてしまって。
これからもし、自分ひとりで生きることになってしまった時、私、平気でいられるんだろうか?
香はそのまま考え込んでしまい、黙ってしまう。由美は何事もなかったかのように、こてつのリードを引きながら、のんびりと散歩を楽しんでいる。あとの三人は、そんな二人と一匹の姿を後ろから追って歩いていた。