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こてつ物語8  作者: 貫雪
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 一方、ハルオは香に睨まれてしょぼくれながらも、一樹と、目の前の親子の姿に唖然とする。礼似さんはこの人を独り者だと言っていたのに、これはどういう事なんだ?一樹への視線が恨みがましい物になってしまう。


 一樹もその視線に困りながらも、その場から礼似と土間が姿を消している事に気がついた。


 礼似の奴、俺に厄介事を押しつけたまま、逃げやがったな。仕方ない。この際、恩を売っておくか。

 しかし先に、ハルオの方が一樹にかみついてしまった。


「か、一樹さん? この人は、どういうお知り合いで?」

 ハルオが女性を指差しながら、一樹を睨みつけたまま叫ぶと


「あのう、兄が何か、ご迷惑をおかけしているようですね。申し訳ありません」と、女性の方が謝って来た。


「あ、兄?」ハルオは目を丸め、香はすでに頭を抱え込んでいた。何勘違いしてんのよ。こいつ。


「妹の泉だよ。この子は甥の智也だ。泉、こっちの男性はハルオ君。女性の方は香君だ」

 一樹はようやく説明する事が出来て、ホッとした。


「すいません。兄はロクな事をしていないものですから、身の周りが騒々しいんです。巻き込んでしまって申し訳ありません」泉は丁寧に頭を下げる。


「あ、いえ、初めまして。香です。あの、むしろ、私達の方が、あなた方堅気の方を巻き込んでしまって。その、申しわけありません!」

 香は慌てて頭を下げながら、ハルオの頭を手で無理やり押し下げさせる。


 そして、泉の目が見えない事に思い当たり、ハルオを小突いて、

「申し訳ありませんでした」と、声をそろえて謝り直す。


「まあ、気にしないでください。私達は慣れてます。てっきり私、兄が若い人を巻き込んでしまったのかと思って」


「いえ、こちらこそ、一樹さんにお世話になってしまって」


 こんな調子で、それぞれが謝りあってキリがない様子に陥っていたのだが、突然

「あ! 犬だ!」

 と、智也が叫び、母親の袖口を引っ張った。



「きゃ! こてつ。どこに行くの?」由美は急にリードを激しく引き出したこてつに向かって言った。


 御子に合わせてゆっくりとしたペースで歩いていた由美を、こてつが急に引っ張り始めたのだ。由美の言葉も聞かずに、こてつはぐいぐいと由美を引いて歩く。するとショッピングセンターに入ってすぐのところで、頭を下げるハルオと香に出会う。ハルオは頭を下げた拍子にこてつに気がついた。


「こ、こてつ?」ハルオの声に、こてつは嬉しげにハルオに近づきかけた。


 すると智也がお構いなしにこてつに抱きついてしまう。こてつは驚き顔のまま固まってしまった。


 泉は何があったのか察しがついたらしく、

「こら、急に触ったら、ワンちゃんが驚くでしょう? すいません。この子、犬が好きで、すぐに触りたがるんです」

 そう言って智也の服を手さぐりで引いた。


「大丈夫ですよ。この子、結構動じない子ですから」由美は智也を引き放そうとするその手を抑える。


「こてつ、お座りは?」


 由美が問答無用な声でこてつに言うと、由美の陰に隠れかけていたこてつは、しぶしぶとその場に腰を下ろした。たいていの犬は小さな男の子が苦手なものだが、こてつも例外ではないようだ。


 智也の方はこてつが気に入ったらしく、こてつの表情が歪んでいるのにも気づかずに、しっかりとこてつにしがみついていた。


「な、何で、ふ、二人とも、お、奥様と一緒に、こ、こんなところに、い、いるんだ?」

 ハルオはもっともな質問をする。


 御子と良平は、この、訳の分からない顔ぶれを目にして、すっかり困惑していた。あーあ。やっぱり奥様は、何かに自分達を引きよせてきてしまったらしい。


 気がつくと、この八人(と、一匹)の奇妙な集団は、お互いに事情も分からないまま、自己紹介合戦を繰り広げてしまっていた。




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