表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こてつ物語8  作者: 貫雪
12/22

12

 その頃、御子は良平の監視付きで、御子の言うところの「こてつ並み」の散歩をさせられているところだった。


 良平の視線の方が、下手な鎖やリードよりも強力だわ。そんな事を考えながら空を見上げて歩いていると、

「おい、足元にもっと注意して歩けよ。転びでもしたらどうするんだ」と、さっそくお小言が飛ぶ。


「はいはい」

 下手に逆らっても聞く耳を持たないのは分かっているので、今度は足元を見ながら歩くが、


「もう少し、景色を堪能しないと。視覚から情操が育つかもしれないだろう? 楽しそうに歩かないと」と言われる。


「どうしろっていうのよ。上見れば危ない、下見れば景色を見ていないって」思わず文句もでるが、


「ああ、そんなとんがった声を出しちゃだめだ。心を穏やかにしないと」と、良平はおろおろし始める。


 だめだこりゃ。下手な口きかない方がいいわ。かえってストレスがたまってしまう。仕方なしに無理やり作り笑いをしながら、御子は黙って歩いていた。


 これじゃ、こてつの方がきっとマシだわ。いくらあの奥様でも、こてつの視線にまでは文句をつけないだろうから。


 そんな事を考えていたのが悪かったのか、なんと道の向かいから、その、こてつの散歩をしている由美が歩いて来た。余計なこと考えなきゃよかった。奥様には罪は無いが、どういう訳かこの人、何か厄介事を引きよせる達人なのよね。御子は真底後悔する。良平も戸惑ってる気配。同じような事を考えたんだろう。


「まあ、こんにちは。ご夫婦でお散歩ですか? いいですねえ」由美はにこやかにあいさつした。


「こんにちは。ええ、まあ」

 御子も愛想笑いで返す。良平にいたっては若干腰が引けているよう。


「お腹もずいぶん大きくなったわねえ。男の子? 女の子?」


「女の子らしいです。今は結構早くに分かっちゃうんですよね」


 おかげで余計にウチの男達が大騒ぎしているんだから。やれやれ。御子は心の中で愚痴る。


「私もそろそろこの辺で折り返そうと思ってたの。ご一緒しません?」由美はにこやかに誘うが、


「い、いえ。御子がいるんで俺達はゆっくり歩くし」と、良平が言いかけた。しかし、


「私もゆっくり歩くわ。ちょっと遠回りしてきたんで、こてつも疲れ気味だしね」


 見るとこてつもいつもくるんと巻いているしっぽが、だらんと垂れさがっている。表情も確かに疲れているようだ。


「ここまでどのくらい歩いていらしたんですか?」思わず聞くと、


「そうねえ。遠回りしたし、寄り道もしたし。かれこれ七キロ位かな」


 それでこれから帰りの距離も歩くのね。相変わらずだわ、この人。御子と良平はそっと目を合わせる。


「私、そんなに歩けませんし」御子は何とか由美から逃れようとしたが、


「ここからはまっすぐ帰りますし、行きの半分くらいの距離だから、途中まででも。お喋りでも楽しみながらゆっくり歩くのも楽しいわ」


 ここまで言われたら断りにくい。実際向かう方向は一緒だ。こうなったら何事も引き寄せてこないでよー。御子は心の中で祈るようにつぶやいた。こてつも疲れた顔で、恨めしげに帰りの道を眺めている。

 こてつの方がマシとは言えないわね。この奥様と一日中付き合ってるんだから、飼い犬稼業も楽じゃなさそうだわ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ