↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

転生先にスライムしか選べませんでしたが、俺が知ってるスライムと何か違う

作者: 紫のカラス
掲載日:2026/10/16

暗い空間で目を覚ました俺の前に、女神さまっぽい見た目の人が立っていた。


「あー、申し訳ないんですが、今ちょっと転生先、スライムしか選べません」


「スライム!? 主人公になれるヤツですか? 吸収して最強になるとか、人間体に化けられるとか!」


「あっ、そういう人気なやつは全部使用中です。 でも大丈夫、残ってるのは『ちょっと特殊なスライム』ですから!」


「どう特殊なんですか?」


「現地でのお楽しみです! それでは行ってらっしゃい!」


空間の底が抜け、落下の感覚とともに俺の意識は落ちていった。


◇


目を覚ますと、そこは青いフィルターがかかったような、深い森の中だった。

(お、起き上がれ…ない? 手がない? 足もない!?)

目もないはずなのに、なぜか森の中にいることがわかった。

核の部分から全方位を見ているような感覚――紛れもないスライムだった。

(まあ、案外悪くないかもな。 ぷるぷる揺れるの気持ちいいし…ん?)

自分の視界に違和感があった。

なんか、文字のようなものが浮き出ている。

体の表面に意識を集中してみる。

鏡文字で判別し辛いが、透明な体内に太字でくっきりと文字が浮かんでいた。


【今日茂1日ガンバろうねm(_ _)m (お母さんより)】


(…は?)

声を出そうとしたが、声帯がない。

その代わり、体内の文字がヌルッと切り替わった。


【エーーーッ、声出ない!?∑(゜Д゜) うがい薬か、お茶でうがいせな! (お母さんより)】


顔文字まで再現されている。

しかも、文字の形をした気泡が体の中でぷくぷくと発生し、表面に押し出されるシステムらしい。

(なんだこの体!? なんで文字が体表にポップアップする機能ついてんだ! しかもセンスが『実家のオカンのLINE』なんだが!?)

焦って体を揺らすと、文字が目まぐるしく変化した。


【女神さまに騙された?(>_<) 変なゲームしてないで、はやく寝なさい!!(お母さんより)】


【画面大きいし、文字が見やすくて1番いいです!(;;) (お母さんより)】


(………)

声は出ないが、体の表面でデカデカと自己主張してしまう。

これが『ちょっと特殊』の正体か。


◇


(こんな機能、なんとかオフにできないのか!?)

プルプル揺れながら考えていると、近くの草むらがガサガサと揺れ、人間があらわれた。

(おいおい、この体のこと何も分かってないのに、人間に遭遇とか、ついてない)


「おい、いたぞ! スライムだ!」


現れたのは、剣を構えた若い男、杖を持った少女、そして大きな斧を担いだドワーフの三人組だった。

いかにも駆け出しの冒険者パーティという風貌だ。


「よし、俺がやる! スライム一匹なら初陣にちょうどいい!」


若い剣士が意気揚々と剣を抜き、俺に向かって駆け寄ってくる。

(やばい! 殺される!?)

俺は必死で逃げようとしたが、スライムの移動速度は亀より遅い。

ずるずる、と地面を這うのがせいぜいだ。


「はぁぁぁっ! やーっ!」


かけ声と共に、剣士の刃が俺の頭上から振り下ろされた。

ズバッ!

剣は俺の体を綺麗に真っ二つに引き裂いた――はずだった。

ピポン。

俺の体内で、軽快な通知音が鳴り響いた。

そして、斬られた断面に文字が浮かび上がる。


【既読】


「…えっ?」


剣士が動きを止めた。

斬られた体は吸い寄せられるように元に戻り、表面の文字が素早く書き換わっていく。


【ちょっとお兄さん、危険だからやめなさい!(>_<) (お母さんより)】


【刃物を人に向けちゃ絶対にダメでしょ!Σ(゜д゜lll) そんな危ないこと誰に教わったの!? (お母さんより)】


【怪我したらどうするの? お母さん心配です!(ノД`)・゜・。 保険証はちゃんと財布に入ってる? (お母さんより)】


「な、なんだこのスライム!? 喋って…いや、文字で殴ってくる!?」


「しかも説教までされてるわね」


杖を持った少女が呆れた声を出す。


「ドワーフのオッサン、手を貸してくれ!」


「おうよ! 打撃ならどうだ!」


ドワーフが巨大な斧のミネで、俺を思い切りぶっ叩いた。

ドゴォッ!!

衝撃で俺の体はペシャンコにつぶれた。


【既読】


しかし、痛みは全くない。

ただゼリーが平たくなっただけだ。

そして、つぶれた俺の体から、文字の形をした固形気泡がドバッと溢れ出した。


【たくさん送ってごめんねm(_ _)m (お母さんより)】


【ご飯ちゃんと食べてるの?(^^) (お母さんより)】


【今日は寒いから温かくして寝なさいね(・_・) (お母さんより)】


【追伸:お兄ちゃんの部屋から怪しい本が出てきましたよお((((;゜Д゜))))))) (お母さんより)】


「ぐはぁっ!?」


物理的な『文字の塊』がドワーフの顔面に直撃した。

ドワーフは声を上げて尻餅をつく。


「なんだこの攻撃は!? 文字が、文字が重い!」


「このスライム、ただ者じゃないわ! 精神攻撃と物理攻撃を同時に繰り出してくる!」


少女が杖を構え、呪文を唱え始めた。


「炎よ、全てを焼き尽くせ! ファイアボール!」


大きな火の玉が飛んできて、俺の体に直撃した。

ぼかぁん!

激しい爆発音が響く。


【既読】


(熱いっ!? いや、水分が多いからか全然平気だ!)

煙が晴れると、俺は無傷でたたずんでいた。

そして、特大の文字を画面いっぱいに表示した。


【チェーンメールを回さないと不幸になる呪いで大変です!(・∀・)  (お母さんより)】


【この文章を10人に回してください、大変です!m(_ _)m (お母さんより)】


【回さないと明日お腹を壊して大変です!(>_<) (お母さんより)】


「キャーッ! なんて嫌な文章なの!?」


少女が杖に縋り付きながら悲鳴をあげる。


「攻撃が一切効かない上に、メンタルをゴリゴリ削ってくるとか…」


剣士が膝をつき、絶望的な表情で俺を見つめた。

俺も自分のスペックに引き始めていた。

攻撃されても『既読』でスルーできる。

そして反撃は、無駄に長くてうっとうしい文章の物理弾頭だ。

最強の能力なのかもしれないが、絵面は情けなさすぎる。


◇


その時だった。

地鳴りのような足音が森の奥から響いてきた。

木々がなぎ倒され、大きな影が現れる。


「ガアアアアアッ!!」


体長5メートルを超える、凶暴な『オークキング』だった。

(うわっ、絶対強いやつじゃん)

丸太のこん棒を振り回し、口からよだれを垂らしている。


「オ、オークキングだあぁぁっ!?」


冒険者三人が青ざめた。


「逃げるぞ! こんなの俺たちが勝てる相手じゃない!」


しかし腰が抜けたのか、少女が立ち上がれない。

オークキングは容赦なく丸太を振り上げ、少女に向かって振り下ろそうとした。

(あ、やばい!)

俺も逃げなきゃと、必死に体を縮めた。

すると――

ぽよんっ!

(えっ!?)

自分でもよく分からないまま、俺の体がゴムまりのように弾け飛んだ。

(ちょ待っ、何でそっちーーー!!)

オークキングが振り上げた丸太に向かって、一直線に飛んでいく。

ドゴォォォン!!

巨大な丸太が、俺に叩きつけられる。

森全体が揺れるほどの衝撃。

地面が陥没し、土煙が舞い上がった。


「「スライムーッ!」」


冒険者たちが叫ぶ。

土煙がゆっくりと晴れていく。

そこには、ぺちゃんこにつぶれた俺がいた。

オークキングは『ゲハゲハ』と下品に笑ったが、すぐに異変に気づいて固まった。

丸太の下から、ぬるりと俺が押し出されていく。


【既読】


つぶれた体は、一瞬で元のプルプルした形に戻った。

そして体内で、文字気泡が生成されていくのが分かった。

(オークキング…お前、俺の平和なスライムライフを邪魔したな?)

俺は体内のエネルギーを集中させ、文字を放出した。


【いつもお世話になっておりますm(_ _)m (お母さんより)】


【長文になってごめんね(_ _) (お母さんより)】


【この前のこと、以下の通り言いますね(^^) (お母さんより)】


【1.暴行罪のことについてです(^^) (お母さんより)】


【2.器物破損とか不快にさせられたことについてですm(_ _)m (お母さんより)】


【なので急いで示談に応えてくださいm(_ _)m (お母さんより)】


ドババババババババババババッ!!!!!

文字だ、大量の文字が、マシンガンのようにオークキングの巨体に叩きつけられた。


「グガッ!? ブニャーッ!?」


一文字一文字が、鉄球ほどの質量を持っている。

【暴行罪】が膝の皿を割り、【示談】が顔面を撃ち抜く。

文章の最後に添えられた【ペコリm(_ _)m】の顔文字が、オークキングの腹にめり込んだ。


「ガハッ!?」


オークキングは、ドシンと仰向けに倒れ伏した。

そのままピクピクと痙攣し、動かなくなった。

女神さまからもらったこの体は、どうやら『受けた衝撃が大きいほど、文章の威力が跳ね上がる』仕様らしい。

静寂が森を包み込む。

冒険者三人は、口をぽかんと開けて、俺と倒れたオークキングを交互に見つめていた。


「た、助かった、の?」


少女が恐る恐る呟く。

俺はゆっくりと冒険者たちの方へ振り向いた。

体内の文字をクリアし、丁寧に新しい文章を浮かび上がらせる。


【怪我はなかった? 大丈夫?(>_<) (お母さんより)】


【無事で本当に良かったです(^^) (お母さんより)】


【お礼は現金でも宝石でもいいよ(^^)¥ (お父ちゃんより)】


「最後の一行で台無しだよ! てかお父ちゃんって!?」


剣士が絶叫した。


「毎回『お母さんより』だったのに、突然の『お父ちゃん』!?」


少女も思わずお礼を忘れてツッコミを入れる。

ドワーフだけが、感極まった顔で俺の前に膝をついた。


「すごい、すごいぞスライム殿! その文字の重み、まさに文字通りの重圧! 我々の街に来てくれ! ギルドで大歓迎する!」


【え〜どうしようかな〜(^^) (お母さんより)】


【美味しいご飯ご馳走してくれるなら行こうかな〜(^^) (お母さんより)】


「露骨に誘導すんな!」


剣士のグチが森にこだまする。

こうして、俺のスライムとしての第二の人生(?)が始まった。

喋れない。

手足もない。

だけど、体いっぱいに表示されるうっとうしいメッセージと、やたらと重い文字攻撃を引っ提げて、俺はこの異世界をゆるく、そしてウザく生きていくことに決めたのだった。


【チャンネル登録と高評価よろしくお願いしますね(^^)v (お母さんより)】


「動画配信者みたいなこと言うな!!」


俺たちは街へと向かって歩き出した。

(俺はドワーフの兜の上にのせられて運ばれた)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。