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第三話
何もなかったように、朝が来た。
何も考えないようにすることにも、慣れてきていた。
駅に向かう。
人の流れに紛れる。
いつも通りの朝。
何も変わらない。
——はずだった。
ふと、視線を上げる。
前を歩く人。
「消えたい」
横を通り過ぎる人。
「消えたい」
立ち止まっている人。
「消えたい」
思わず、目を逸らす。
違う。
こんなに多かったはずがない。
呼吸が、浅くなる。
視線を落とす。
足元だけを見る。
でも、
避けきれない。
視界の端に、入ってくる。
いくつも。
何度も。
「消えたい」
「消えたい」
「消えたい」
立ち止まる。
周りは、普通に歩いている。
誰も気づいていない。
……僕だけだ。
そう思った瞬間、
急に、怖くなった。
見てはいけないものを、見ている気がした。
逃げるように、歩き出す。
何も見ない。
何も考えない。
それだけに集中する。
——見なければいい。
そうすれば、
何もなかったことになる。
……そう思った瞬間、
誰かと、目が合った。




