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第二話
何事もなかったように、朝が来た。
何もしなかったという事実だけが、残っていた。
数日が過ぎた。
いつもの帰り道。
夜の歩道橋。
人通りは、少ない。
足音だけが響く。
前を歩く人。
ふと、視線を上げる。
——見えた。
「消えたい」
立ち止まる。
その人は、手すりの前で止まった。
少しだけ、身を乗り出す。
風が吹く。
服が揺れる。
——止めた方がいい。
そう思う。
でも、声は出ない。
数秒。
それだけの時間。
その人は、ゆっくりと体勢を戻した。
何事もなかったみたいに、また歩き出す。
……助かったのかもしれない。
そう思った。
そう思うようにした。
その日の夜。
明日は早い。
寝ないといけない。
それだけで、十分だった。
何も考えないように、電気を消す。
布団に入る。
目を閉じる。
——明日も、また一日が始まる。
何もなかったことにして。




