第一話
関わらなければ、傷つかない。
何もしなければ、責任もない。
そう思っていた。
――あの日までは。
駅のホームで、また見えた。
あの人の頭の上に浮かぶ言葉。
「消えたい」
最初に見えたときは、驚いた。
でも今は、もう慣れた。
別に珍しくもない。
誰だって、一度くらいは思うだろうし。
――だから、無視する。
関わったって、いいことなんてない。
助けられる保証もない。
むしろ、余計に面倒になるだけだ。
電車が来る。
隣に立っている女の子。
同じように、「消えたい」が浮かんでいる。
視線を逸らす。
スマホを取り出す。
何も見ていないフリをする。
――そのとき。
ふと、昔のことを思い出した。
あのときも、同じだった。
見えていた。
でも、何もしなかった。
「まあ、大丈夫だろ」って、
勝手にそう決めつけて。
結果だけが、あとから追いついてきた。
……やめよう。
考えても意味ない。
目の前のことに集中するだけだ。
電車が、もうすぐ来る。
女の子が、一歩前に出る。
僕は――
そのまま、通り過ぎた。
夜。
テレビのニュースが流れている。
「本日夕方、○○駅で――」
聞き覚えのある駅名。
リモコンを持つ手が止まる。
画面に映る、さっきのホーム。
担架。
ざわつく人。
誰かが泣いている。
――チャンネルを変えた。
スマホを握る。
理由もなく、画面を開く。
閉じる。
また開く。
何もしていないのに、
どうしてか、手が震えていた。
あのとき、
何もしなかった自分だけが残った。




