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何でもない日々

2月27日

昨日の夕暮れ、公園でずいぶん長いこと泣いてしまった。家に帰るころには、空はすっかり夜の色に溶けかけていた。


玄関を開けると、母が心配そうな顔で「どこに行ってたの?」と聞いた。


私は何も答えず、ただ小さくうつむいたまま靴をそろえる。今思えば、あのときの私は少し子どもだったのかもしれない。


帰る前に涙を拭いておいてよかった。気づかれていないといいけれど。お風呂を済ませてリビングへ行くと、父がソファでテレビを見ていた。


私はそっと隣に腰を下ろす。


「お父さんは、どうやってお母さんと出会ったの?」


父は少し驚いたように笑って、テレビを消した。


「昔は同じ会社で働いてたんだよ。あのころのお母さんは、まだ本当に若くてな。」その目は、どこか遠くを見ていた。


「二か月ちょっと付き合って結婚した。まあ……俺の料理が決め手だったのかもしれないな。」冗談めかして笑いながら、父は私の頭を軽く撫でた。


「だからな、自分の得意なことを持っていなきゃだめだ。

そうすれば、ちゃんと誰かを引き寄せられる。」


「そのとき、お父さんはもうお母さんのことが好きだったの?」


私がそう聞くと、父は少しだけ考えるように目を細めた。


「愛っていうのはな、時間をかけて相手を知るうちに、少しずつ形になっていくものだ。

あのころは自分でもはっきりわからなかった。でもな、こうして同じ日々を重ねてきた。

その積み重ねが、きっと愛なんだろうな。」


私はよくわからないまま、こくりと頷いた。

しばらくテレビを見てから、二階へ上がる。

半分開いたドアを押すと、ミミはもう丸くなって、小さく喉を鳴らしていた。少しだけ日記を書いて、布団に潜り込む。


体を包み込んでも、なかなか眠れない。胸の奥が、どこかひんやりしている。ミミのように小さく丸くなってみる。それでも、温まらなかった。どれくらい経ったのかわからない。


ナイトライトをつけ、ミミを抱いて、兄の部屋の前まで歩いた。小さく二度ノックをする。返事はない。そっとドアを開けると、兄は眠っていた。


足元から静かに入り込み、いちばん奥へ体を滑らせる。布団の中は、やわらかくて、あたたかい。ゆっくり近づいて、そっと腕に触れる。規則正しい鼓動が、手のひらに伝わる。

そのまま、顔を腕に埋めた。


「……あんまり夜更かしするなよ。」


眠たげな声が、すぐそばでこぼれる。

私は小さく「うん」と答えた。


今日の空は重たく曇っている。兄が駅まで送ってくれる途中、突然大粒の雨が落ちてきた。


母があわててレインコートを差し出す。


「気をつけてね。送り終わったら、すぐ帰るのよ。」雨音に混じる母の声。


私は、兄の手を握った。そのぬくもりが、ゆっくりと手のひらに広がっていく。


ホームはもう人でいっぱいだった。長いベンチに並んで、静かに電車を待つ。


やがて冷たいアナウンスが響き、ざわめきが重なる。胸の奥が、少しだけ締めつけられる。兄は私を引き寄せ、頭を撫でた。


「向こうに着いたら、ちゃんと連絡しろよ。体に気をつけろ。」


涙が、こぼれそうになる。私はぎゅっと抱き返して、無理に笑った。


「そんなに子どもじゃないよ。」


列車が動き出す。


窓の外で、兄の姿がゆっくりと後ろへ流れていく。


やがて見えなくなったころ、静かに涙が落ちた。


心の中で、そっとつぶやく。

—— ちゃんと、がんばるから。

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