ちゃんと食べるよ
2月25日
今日は目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。
枕元にはミミが丸くなっている。その体から、まだ兄さまの部屋の匂いがする。
もうすぐ家を離れると思うと、少しだけさみしい。
太陽は空の真ん中に高くかかっている。今日のごはんも、いつもと変わらない、いつもの食卓。
「いただきます。」
お父さんの作った料理を食べながら、
私はそっと視線だけを動かして、家族の様子を眺めた。
ごはんは少し固めで、味付けもどちらかといえば薄い。それでも今日は、なぜかいつもよりおいしく感じる。気づけば、箸が止まらなくなっていた。
「午後、妹を連れて学校の生活用品を買いに行ってくれ。」お父さんが兄さまに言う。
「あと、グミは買いすぎるなよ。またごはん食べなくなるから。」
「はいはい。あとでちゃんと精算ね。」兄さまは少し笑いながら、そう返した。
食後、買い物が終わったら、ずっと行きたかった歩行者天国にも寄ろう、と約束した。
午後の陽射しはやわらかく地面に落ち、冬の風までどこか丸くなっている。
スーパーで兄さまが真面目に買い物リストを見ているあいだ、私はカートをそっと後ろから押して、こつんと軽くぶつけた。
「兄さま……そんなにいっぱい買わないよね?」
「大袋のグミを一つ減らせば、あとは問題なし。」兄さまはリストをひらりと振ってみせる。
「……うぅ、わかった。」
買い物を車に積み込んで、ようやく歩行者天国へ向かった。
道の端には、まだお正月の爆竹の跡が残っている。兄さまの腕にそっとつかまりながら歩く。目を閉じて息を吸うと、まだ少しだけ年の匂いが残っていた。
小さな洋服屋に入ると、店員さんが明るく声をかけてくる。私は兄さまの手を引いて、店の中をあちこち見て回った。
最後に選んだのは、淡いレースの縁取りがついた白いワンピースと、小さな白いボレロ。
着替えて鏡の前に立つ。
くるっと左へ、くるっと右へ。
「これ、どうかな?」少し笑いながら振り返る。
「お嬢さん、とてもお似合いですよ。彼氏さんも喜びますね。」
「……え?」
一瞬で顔が熱くなる。思わず兄さまの腕に抱きつきそうになって、はっとして一歩下がった。うつむいたまま、指先をもじもじと絡める。
兄さまは笑いながら私の後ろに立ち、そっと肩に手を添えて、軽く頭を撫でた。
「すみません、妹なんです。」
「まあ、ごめんなさい。仲がいいのね。お兄ちゃん、本当に優しいわ。」
店を出るころには、兄さまの手に白い紙袋が揺れていた。
夜、お風呂とドライヤーを終えた部屋は、しんと静まり返っている。
こっそり紙袋を開けて、今日買ったワンピースをもう一度着てみる。何度もくるくる回ってから、ベッドに腰を下ろした。
ふと昼間の言葉を思い出して、枕に顔をうずめたまま、しばらく動けなかった。
やがて静かに服を脱ぎ、洗濯機に入れる。スーツケースをゆっくり整理して、買ったものを一つずつ収めていく。そのとき、リストにないものを見つけた。
小さなゼリーの袋と、折りたたまれたメモ。
『ちゃんとごはんを食べること。おやつだけで済ませない。』
思わず、ふっと笑ってしまう。後ろをちらっと振り返り、誰もいないのを確かめる。
胸の奥がじんわりとあたたかくなって、スーツケースのファスナーが、さっきより軽く感じた。
メモを胸に当てて、小さな声でつぶやく。
「ちゃんと食べるよ。」




