表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

ちゃんと食べるよ

2月25日

今日は目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。

枕元にはミミが丸くなっている。その体から、まだ兄さまの部屋の匂いがする。


もうすぐ家を離れると思うと、少しだけさみしい。


太陽は空の真ん中に高くかかっている。今日のごはんも、いつもと変わらない、いつもの食卓。


「いただきます。」


お父さんの作った料理を食べながら、

私はそっと視線だけを動かして、家族の様子を眺めた。


ごはんは少し固めで、味付けもどちらかといえば薄い。それでも今日は、なぜかいつもよりおいしく感じる。気づけば、箸が止まらなくなっていた。


「午後、妹を連れて学校の生活用品を買いに行ってくれ。」お父さんが兄さまに言う。


「あと、グミは買いすぎるなよ。またごはん食べなくなるから。」


「はいはい。あとでちゃんと精算ね。」兄さまは少し笑いながら、そう返した。


食後、買い物が終わったら、ずっと行きたかった歩行者天国にも寄ろう、と約束した。


午後の陽射しはやわらかく地面に落ち、冬の風までどこか丸くなっている。


スーパーで兄さまが真面目に買い物リストを見ているあいだ、私はカートをそっと後ろから押して、こつんと軽くぶつけた。


「兄さま……そんなにいっぱい買わないよね?」


「大袋のグミを一つ減らせば、あとは問題なし。」兄さまはリストをひらりと振ってみせる。


「……うぅ、わかった。」


買い物を車に積み込んで、ようやく歩行者天国へ向かった。


道の端には、まだお正月の爆竹の跡が残っている。兄さまの腕にそっとつかまりながら歩く。目を閉じて息を吸うと、まだ少しだけ年の匂いが残っていた。


小さな洋服屋に入ると、店員さんが明るく声をかけてくる。私は兄さまの手を引いて、店の中をあちこち見て回った。


最後に選んだのは、淡いレースの縁取りがついた白いワンピースと、小さな白いボレロ。

着替えて鏡の前に立つ。


くるっと左へ、くるっと右へ。

「これ、どうかな?」少し笑いながら振り返る。


「お嬢さん、とてもお似合いですよ。彼氏さんも喜びますね。」


「……え?」


一瞬で顔が熱くなる。思わず兄さまの腕に抱きつきそうになって、はっとして一歩下がった。うつむいたまま、指先をもじもじと絡める。


兄さまは笑いながら私の後ろに立ち、そっと肩に手を添えて、軽く頭を撫でた。


「すみません、妹なんです。」


「まあ、ごめんなさい。仲がいいのね。お兄ちゃん、本当に優しいわ。」


店を出るころには、兄さまの手に白い紙袋が揺れていた。


夜、お風呂とドライヤーを終えた部屋は、しんと静まり返っている。


こっそり紙袋を開けて、今日買ったワンピースをもう一度着てみる。何度もくるくる回ってから、ベッドに腰を下ろした。


ふと昼間の言葉を思い出して、枕に顔をうずめたまま、しばらく動けなかった。


やがて静かに服を脱ぎ、洗濯機に入れる。スーツケースをゆっくり整理して、買ったものを一つずつ収めていく。そのとき、リストにないものを見つけた。


小さなゼリーの袋と、折りたたまれたメモ。


『ちゃんとごはんを食べること。おやつだけで済ませない。』


思わず、ふっと笑ってしまう。後ろをちらっと振り返り、誰もいないのを確かめる。


胸の奥がじんわりとあたたかくなって、スーツケースのファスナーが、さっきより軽く感じた。


メモを胸に当てて、小さな声でつぶやく。


「ちゃんと食べるよ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ