小さな約束
2月23日
月がこっそり私の時間を盗んでいったみたい。
気づけば、もう朝だった。
お父さんとお母さんは帰る支度をしている。
山の向こうから顔を出したばかりの、赤く染まった太陽を見つめながら。私はそっと願いごとをした。
来年も、またこんな日の出に会えますように。
車の中は冷房が効いていて、少しひんやりしている。タイヤの下で道が少しずつ消えていき、窓の外の木々は風に押されるみたいに後ろへ流れていく。
後部座席から振り返ると、村のそばのあの大きな山も、だんだん小さくなって、見えなくなってしまった。
席に座り直しても、やっぱり少し寒くて、そっと兄さまのほうへ寄る。気づいたみたいに、兄さまが言った。
「母さん、冷房ちょっと弱くして。」
私は彼の肩に、そっと頭をあずける。窓の外の景色はスライドみたいにどんどん流れて、目が少しだけじんとした。
兄さまの腕に軽く触れたまま、いつの間にか眠ってしまった。優しく肩を叩かれて目を覚ますと、もう空は暗くなりかけていた。
兄さまに抱えられて車を降りる。ぼんやりした目で見た景色は、懐かしいのに、少しだけよそよそしい。でも、この空だけは、あの古い家の上に広がっていた空と同じくらいきれいだった。
「ほんとに甘やかしすぎよ。」
お母さんは少し呆れたみたいに言う。私は慌てて兄さまの腕から降りて、頭をかきながら笑った。
「私が寝ぼけてただけだよ。兄さんのせいじゃないから。」お母さんは困ったように首を振った。
夜、お風呂を済ませてから、そっと兄さまの部屋へ行く。広くはないけれど、小さな暖炉みたいにあたたかい部屋。
兄さまは布団をかぶってベッドに座り、ゲームをしている。私は静かに隣に寄って、この一回が終わるのを待った。
「兄さま、もうすぐ学校が始まるね。休みって、ほんとに早いなあ。」肩にもたれながら、小さな声で言う。
「私が学校にいるあいだ……兄さま、少しくらいは思い出してくれる?」
「私がいないとき、ミミのこと、ちゃんと見ててね。」
「兄さま……」
それ以上の言葉は、うまく出てこなかった。窓の外では風がごうごうと鳴っている。
兄さまは私の頭をそっと撫でて、布団を少しだけこちらへ引き寄せてくれた。それから、やわらかく笑って言う。
「そんなこと、心配しなくていいよ。俺の部屋のドア、いつも開いてるだろ?」
ミミは、やさしくてかわいい猫です。




