表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

第8話 最終話

 翌朝、朝食会場へと向かった私は、入口にいる仲居さんに挨拶をした。申し訳なさそうに仲居さんは告げた。


 「もうラストオーダーが終わってまして」

 「あ、そうでしたか、ごめんなさい!」

 「おにぎりでもご用意しましょうか?」

 「いえ、結構です」


 今朝はもう食べられそうな気がしていたけど、部屋には昨日のおにぎりがまだあったことを思い出して、お断りした。


 部屋に戻ると、明るい部屋のなかで、私はここが日常であることに安心をした。今の地球では、物質は形を変えないという前提条件の優しさをしみじみと実感した。私は桃色の浴衣から洋服へと着替えた。えんじ色に近いバーガンディのトップスに、ピンクがかったグレージュのスカートに、ピンクのレースカーディガン。


 あ、オクトシアブルの復活ライブに来ていった服と同じだ、と気付いた。そして、私は家から余計な荷物をたくさん詰め込んでいて持ってきていたことに、そのときはじめて気付いた。それがなにであったかは、まだ言いたくはない。



 そして私の不思議な体験はここで終わったわけでは全くなくて、なんとこの時はまだ奇異のはじまりにすぎないのであった。





         ♢





 半月ほど経って、実家に帰ったときに、部屋にこもってオクトシアブルの載っている雑誌を見ていた。色々な興味深い発言が気になり、家に何冊か持って帰ることにした。


 その日は部屋の整理をするために実家に帰っていたから、クローゼットのなか、ガラクタがまとめて入っている小箱、机の引き出し、たくさん開けてみたのだけれど、思いがけない発掘がいろいろとあって、私は自分のことがわからなくなった。


 可愛い真っ白な水着と黒地に白の水玉模様の水着を入れていた紙袋のなかに、オクトシアブルのCDが2枚入っていた。なんでこんなところに。私のやることは、自分でもよくわからない。理解不能だった。


 たくさんある楽譜の中からは、さらにもう1枚のCDアルバムも見つけた。そのCDはケースが大きく割れていた。私はそんなに手荒にCDを扱うことはなかったから、不思議だった。


 ガラクタの小箱を開けたら、たくさんの写真のなかからライブチケットの束を入れたクリアケースが出てきた。


 私の10代後半は、ライブに明け暮れていたから、それはそれはたくさんあった。


 それを見ながら、あぁこれも行ったなぁとか、このカウントダウンライブは楽しかったなぁとか、このライブハウスではもみくちゃのなかで服に挟んでいたお金を落としたっけ、とか、たくさんのいろいろな思い出が蘇ってくるなかで、印字が薄くかすんで真ん中に折りじわのある1枚のチケットを見つけた。驚いた。だって全く記憶に残ってなかった彼らオクトシアブルのライブのチケットだったから。よく見たら、ライブのツアータイトルが読めたから、家に帰って検索をしてみた。当日に演奏された曲がわかった。なんと丁寧に演奏された全曲名を順に書いたセットリストをのせている人がいたのだ。16歳の私は、無事に「ダイヤ」を聴けていたようだった。全く覚えていないけれど、どんな感情で私は聴いていたんだろうか。


 そして1枚の写真を見つけた。黒いトップスを着た私と、白いTシャツに黒のトップスを重ねた鈴奈がいた。その景色は、確かにソシアレホール前で、当日のことを少しは思い出していったのだった。ロビーの景色。銀テープが舞う2秒の景色と、ステージまでの空間と距離。




     ♢

 



 そして今ここでの私は、ほんの少しだけドラムソロと、レナと腕を組んで頭を大きく振っている3秒くらいのことも、実は思い出していて、さらに記憶に追加されている。髪を美しく振り乱しながら頭を振るヘッドバンギングはまだ苦手な幼い私だったから、その時の思いまで思い出せた。ちゃんと振れているかなぁなんて雑念だらけでいて、当時の私にはもっと楽しんでおけといってやりたい。





 彼は天使だったのだろうか、


 悪魔だったのだろうか。


 それかただの人間なのだろうか。


 それはわからない。




 いいや、きっと人間ではあるのだろうけれど……





 私の命は揺らめいて、わたしの命は輝いて、私は私になれたから、感謝している。


 今の彼が幸せであることを願っている。


 

 今、あのときと同じ、綺麗な涙がひとすじ流れ落ちて、そのほのかな温もりを感じている。今は右目からその涙は流れ落ちて、その涙は少しずつ空気に溶けていくから、私は今ここで生きている意味を感じている。


 人というのは本来とても美しくて、儚いもので、その儚さはこの世を美しく潤して、いまがかけがえのない瞬間だと知らせてくれるから、美しくて……



 そして強いのだね。そして、しなやかに、ちぎれない。






      ♢






 いま私がこちらをしたためている暁は、闇と冷えた空気が優しいから、思い出しても平気です。


 あれから随分と経ちました。あなたがこの世に置いてくれていた歌声と、書き残してくれた美しいことばたちは、いくつもの困難を乗り越える私の支えとなり、あのときの私を生かしてくださいました。そしてそれはいまも私のなかで生きています。


 いま宇宙での私は、いま地球での私は、真っ暗だけど美しい夜明け前に確かに命を宿して生きています。


 ありがとう。




 そして、いまは夜が明けて眩しい光が東から降りそそいでいます。





 


      ♢






 あけぼのの


 ひまでわたしを


 つれていってね


 いずれまたこんなんがきてもへいきだよ


 れあなたいけんありがとう




 ここからはいっぱいたのしいことみよう




 かならずしあわせに


 さくらもなるから






 綴り時


 2025.12.15~17

 2025.12.18 暁からあけぼのを越えて

 2025.12.18 昼下がりのひととき





  この詞「ダイヤ」をキミに捧ぐ。



ずっと ここにいたんだね

気付いた ここにいたんだね

秘密の鍵は 其処に在った

見つけた 私のピースよ

ダイヤ胸に現れてく

Believe my love


愛した 私の過去現在

秘密の鍵は 此処に在った

ひらいた 私の世界よ

あなた 信じてみつめてゆく


私が溶けてゆけば いつの日にか

手を持ち横で 同じ景色 見つめてるの?

導いて


ダイヤ白の花開く あなたの光浴びて

ダイヤ白い花びら 羽ひろげみつめくよ


こわれてゆくあなたと おちてゆけば

くるおしいほど 求め 願い 失くしてくの

信じてる


Believe my love ひとり歩いてく

羽と足で羽ばたけ

ダイヤ白い花びら 自分だけを信じて


ダイヤ白い花びら 欠けた月で輝け

ダイヤ白い花びら 光となり導け


Believe my love


  


 追記

 うつしよで、キミが見つけた唱だから、貴方の相棒の私は力を貸しただけ。

 私の唄と、螺旋を描き、残していこう。

 待ってたよ。此処で今。


 ありがとう。戻ってきてくれて。










第一章 本編 了   次項おわりにに続く








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ