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第6話 羽

 翌朝の私は足がはえて羽が生えた。幸せな気分をお裾分けしたくて、妹の家に花束を持っていった。音楽の趣味が同じだった妹に「布教活動」をしようと曲を聴かせながら思い出ばなしをしていた。まだ若いのに妹はしっかりと自分の家庭を築いていて、まだ小さな甥っ子と積み木遊びをして、帰りは車で送ってもらった。


 実家にも帰り、母には不気味がられた。羽が生えたなんて言ったからだった。母は繊細な私のことを見抜き、いつも触れる文学や音楽のことを心配そうに気にしていたから、きっとこの時は相当心配だったに違いない。音楽も文学も好きで、勘の鋭い母だった。父はこの時は家にいなかったけれど、もしいたらなんと言っていただろうか。


 帰宅した私は、買いそびれていたグッズをネットで注文した。CDやDVDも注文した。


 そしてライブの余韻も冷めやらぬ中、私は過去の彼らの映像をパソコンで見ていた。


 ライブの後は、彼らの曲の歌詞がよりすんなり理解できるような気がして、曲も好きだけれど綴られている歌詞の世界に夢中になった。


 彼らの曲は、その当時の私の気分にぴったりでいて、そのとき流行っているどんな曲よりも私が聴きたい曲となったから、通勤の時も昼休みもその曲を聴いて、帰ったらほろ酔いになって聴きこみ、そのまま沈むように眠るのが習慣になった。


 ある夜には実家から持って帰ってきていたデビューアルバムを手に取り歌詞カードを見ながら、そういえば中学生の時には、このデビューアルバムの「ダイヤ」と「空」をエンドレスリピートで聞きながら眠っている時期があったな……なんて、ずっと忘れたことまで思い出すのであった。いじめのターゲットが私に向いた辛い時期に、毎夜聴いていた、辛い記憶。2曲ともに感じられた全体の浮遊感と切なさと独特のテンポと彼の歌のバランスは、深い闇にいる私にそっと手を差し伸べてから優しく寄り添い、ふわりとすくい上げてくれた。それは少しずつ、闇の濃度が薄まる方向へ少しだけふわりふわりと持ち上げてくれるもので、あたたかかった。特に「空」の最後の詞はその時の私の辛さを包み溶かすようで……傷ついた私にもふわふわと心地よかった。


 私は、大人になっていくとともに忘れていた美しい世界を取り戻したように思えた。


  幼いころに見えて眺めていたその深さには今の私は一緒に沈んでいくことが少しはできるようになっていて、深い場所で見えた景色は私にさまざまなことを思い出させてくれた。


  段ボールに詰められたグッズとCDが届いてからは、それらの歌詞カードを片手にアルバムの曲順にかけて世界に浸ることができた。そして、私も歌いはじめた。CDをかけながら歌うと、きっと難しいこの曲たちも、なんだかうまく歌える気がして、気持ちがよかった。


 DVDを見てみると、そこには私の知らない世界があった。


 「こんな広いところでやってたんだね」


 たくさんの観客で埋め尽くされた様子が映るDVDでは、特効演出の炎があやしげに上がり、彼はステージの真ん中で不思議な存在感を放っていた。









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