第5話 白
もうこのころの私は同じ音楽の趣味の友達とは繋がっていなかったから、ちょっと情報は遅かった。知ったときにはもう界隈には広まっていた、彼らオクトシアブルの再結成のニュース。たまたまネットで見かけたのだ。
しかも、ライブはもう明後日だ。
「うそだぁー。まさか! いま?」
鈴奈に連絡を取ってみた。返信は返ってくるかな。大人になってからは疎遠になってしまっていたけれど、勇気を出して連絡をしてみた。連絡が返ってきても来なくても、一人ででも参加する! 問い合わせてみたら、当日券なら入れそうだった。翌日になっても鈴奈からは連絡が返ってこなくて、まぁそんなもんか、と私はひとりで参加することに決めた。
「オクトシアブル初めてのライブだ!!」
──そう、何を隠そう私は彼らのライブに参加したことさえ、この時忘れていたのだ。
情報をつかんでから、どれだけこの日を待ちわびたことか。この日の私は浮かれていた。
「服はー。これとこれ、かな」
私が選んだ服は、えんじ色に近いバーガンディのトップスに、スカートはほのかにピンクがかったグレージュのスカートだった。
スピリチュアルでは、黒は避けたい色と教えていたから、ほんとうは黒が無難だろうなとはわかっていたのだけど、あえて外して色物にすることにした。彼らの今の写真を見ても、くすみ系のアーシーカラーを多く纏っていたから、これできっといいと納得した。
ピンクの薄手のレースカーディガンを羽織って口紅を塗り、カバンを肩からさげて靴を履く。
「いってきます」
カギを締めた。
ワクワクしていた。でもなぜかちょっとだけ怖かった。友達は出来るかな? と思ったけれど、作らないほうが無難な気がした。
会場に着いたら、久しぶりに感じる空気が広がっていた。大人になってみると、割と冷静に俯瞰できるもので、安全そうな場所で誰とも目を合わさないように立って、いかにも慣れているように装って会場までの時間をつぶした。
開場して無事に入れた私は、後ろの方の位置を陣取ると、これまた静かに存在を消すように潜んでいた。
親しみやすそうな同世代の子が左側から話しかけてくる。
「あまり慣れていないから、迷惑かけたらごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそ、迷惑かけたらごめんなさい」
そんな会話を皮切りに、どの曲が好きだとか、当時ライブに行ったことがあるかとか、最近のwebで見た情報のこととか、話は尽きない。
幕の向こうでベースの音が鳴り、身体に響いた。
あ、いよいよもうすぐだ――。
終わってみると、ライブは思っていたより平和な空間だった。
ボーカルがこっちを向いて指をさしてくるから、右隣の子と思わず顔を向き合わせてしまったりして、右隣の子も同世代くらいだったから、安心した。その子も満面の笑みで「こっち見たよねー」とギターの大きな音が鳴るなか口と手で気持ちを伝えあい盛り上がって、その後はなにもなかったかのようにお互いそれぞれひとりでライブを楽しんだ。
アンコールでは、じっと奥を見据えてくるボーカルがいて、私は目が合っている気がした。ちょっと怖くて、その目力は昔と変わっていなくて、といっても昔って私はそれほど知らなくて、口を開いた彼の言葉はなんだか懐かしさを感じさせるもので、次に何を言うのかわかったような気がして。かすかに頭の奥が少し混乱した。
少し怖くなった私は終演後は急いで会場をあとにし、早足に帰った。たどり着いた駅の通路は白く輝いていて、空間がきらめいてとても綺麗だった。怖さは消えていてただ見とれた。吸いよせられるように、何かに呼ばれるように、白い霞のなかを歩いて、通り抜けながら私は幸せを感じていた。そこにはまるで異空間が広がっているようで、私にはすべてが美しく見えた。
いま思えば、あれは天使の光であったのだろうか。




