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第3話 変容


 私は時折おきる耳鳴りと眩暈に悩まされたまま、夏を迎えていた。


 耳鳴りは消えたり復活したりを何度も繰り返して、耳鼻科へは半年ほどの間に3回はお世話になった。


「いやー、過労かストレスですねぇ。今の仕事、辞めれない? いや、やめれないよねー」


 頭をぐるぐると回されたり、また小部屋での聴音検査をしたり、やっぱり耳鼻科というのは落ち着かないもので、できたらあまり来たくはない場所だった。救いだったのは、待合室から見える小さな中庭があったことと、家から近かったことと、先生との相性は良好だったことで、その時の先生の明るい言葉使いは私の心に優しく残った。


 もう既に何度も仕事を辞めようかとは思っていたのだけれど、なかなか勇気は出なかった。せっかく就けた、いい仕事だと思っていた。扱うのは好きな商品だったこともあり、やりがいも感じていたし、周りは素敵な人が多くて人と人が尊重し合う雰囲気も好きだった。苦手な人付き合いも少なくて済み、なにより待遇は結構よかったということもあった。



 そしてこのころは、街がいきなり光って見えたりした。もしこれが映画ならば、まるでタイムスリップしたりして知らない街並みに飛ばされた時に使われそうな画像処理を現実に見る感覚、そんな景色のなか不思議な感情とともに佇んだ。白い光が降り注ぐ中、ストップモーションで動く街並みであった。


 まるで、私は消えてしまうんじゃないかと、本気で思った。大泣きして、大好きな人に別れの挨拶をした。その夜は、大好きなカレーを食べた。まだ泣きやまないままに、それを食べ始めて、たくさんのスパークリングワインをぐいぐい飲んで、もう後悔はないやと、勇気を出して眠りについた。


 朝は普通に起きたから、拍子抜けして、平和な明るい朝を迎えて私が目覚めたことには、とてもびっくりした。



 その5日前の7月25日の夜中には幽体離脱をしていた。身体が揺れて、ポンと外れて、ふわんと浮いて。その時の私は繋がっているコードがあることを知っていて、それが外れてしまわないかと、とっても気になりながら浮かんでいたことを覚えている。その夢には、大事な人たちも出てきていて、下で見上げてみんなが喜んでいた。


 幽体離脱は、去年の12月にもしていたから、実はこれが人生2回目だった。


 初めての幽体離脱は、ぽん、と飛び出し、ぐわん、と天井に引き寄せられて、そうしたらすぐに身体に戻った。その間は、とにかく怖くて、1回目の幽体離脱は不気味で怖いものでしかなかった。


 1回目の幽体離脱の何日か前には、夢か目覚めているのかわからない不思議な世界で、男の人の大きな声で「早く!!」と呼ばれた。それは、切迫感のある声で、明らかに私に向かって叫んでいた。聴いたことがある気がするけれど、誰だかはわからなかった。


 初めての幽体離脱の日は、冬至の日だったことを、よく覚えている。



 その初めての幽体離脱の半年ほど前の6月には、仕事で仲良くなった年下の友人と大きな格式のある神社にお参りにも行っていた。その時には身の回りに不思議なことは、まだ何もなかった。そしてこの時の仕事に変わる前だった。


 神社をお参りしたとき、一礼をすると、ひらりと強めの風が吹いた。左上にいる神職の方が、遠くからこちらを見ていることが視界に入って、なぜかその風景は印象的で目に焼き付いている。


 梅雨どきだけど、雨は降らなくて、2泊3日で2か所の温泉宿に泊まりながら、温泉露天風呂や海鮮やお酒を楽しんで、旅と気の合う友人との交流をゆっくり楽しんだ。


 その翌月には早速運命がうごき出した。このときに就いていた仕事を、まずは副業として何回か単発で引き受けることになり、その数ヶ月後に正式に働くことに決まって、報酬は倍ぐらいになったのだった。そして、この不思議な夏へと至るのであった。


 今思えば、この1年と2カ月の期間は身体の仕組みを変化させて整えるための準備の期間で、水面下では着々と何かが進んでいたのだろうなと思う。
















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