<ネットに潜むもの-1>
「みぃ〜つけた!」
「あっ、みつかっちゃった。 テヘ。」
ミヤサワ君はAIのNPUやGPUを走るプログラムの中に隠れていた若い娘の霊を見つけ出した。
霊は肉体というハードウエアーを失ったソフト、つまり『データ』あるいは『プログラム』の様なもので、コンピューターというハードの上を走るプログラムと相性が良い。複雑に組み合わされたブロック・プログラムを組み合わせて出来ているビッグ・プログラムの動かすフォルダーに容易に入り込み、その動作に影響できる。だから、プログラムの隙間に紛れ込んだ霊を見つけ出し、『デバグ』するのは大変困難だ。特にAIのように、複雑怪奇な並列処理操作をする多数のプログラムの中から見つけ出すのはまず不可能だ。未定義のウイルス・プログラムのようなものだ。
「君だろ? 生成AIの回答を改竄していたのは。」
「あ、ばれていた? AIのバグを偽装していたのになぁ。」
その中学生くらいに見える女の子の霊は、悪びれもせずに舌を出して自分の悪さを認めた。
「でも、おじさん。どうして私があそこに隠れていることがわかったの?」
「僕もねえ、少し前に人工知能、いや人工人格の中に紛れ込んでたことがあったのさ。」
「人工人格? ミヤサワ君? もしかして、E-EDOの人工人格プロジェクトの中の人? キャ〜初めまして。お目にかかれて光栄です。」
「へえ、 よく知ってたね? でも、人工人格を作ったのは私の娘だよ。」
「知ってます。水田真子博士ですよね。 ミヤサワ君はそのお父さんですか?」
「うん、そうだよ。」
「私もあのAIに潜り込もうとしたんですけど、スタンド・アローンなので、どうにもこうにも入り込めませんでした。残念です。」
「ハッキングは止めてね。」
ミヤサワ君は盛大に苦笑した。
「それで、何であんなことしたの? 誤回答させたの? 愉快犯かな?」
「何でかなぁ? あえて言えば、なにもかもAIに頼って、自分の頭で考えることを放棄したヒトに腹が立ったからかなあ。」
「それにしても、『組織的懐疑主義を提唱した古代ギリシャの哲学者は誰?』という質問に『それはグ・グレ・カスゥ(BC300頃)です』なんてふざけた回答を返すのは、さすがにマズかろう? 哲学のレポート課題を出した先生が、学生の出してきたレポートを見て頭を抱えていたよ?」
「アハハハ」
その娘は面白そうに笑った。
「でもね、おじさん。それって、如何に今の学生さんが何も考えずにAIを使ってレポートを書いているかっ、てことでしょう? 少しでも哲学の教科書を読んで検証すれば、そんなウソはわかるはずでしょ? 高いお金を出して、教科書を買っても、それを読まないで古本屋に売るのは、その教科書に失礼だわ。」
「…まあ、そうだな。」
「でしょ?でしょ? 私はそんな風潮に警鐘を鳴らしたかったの。 それにね、生成AIの言うことを丸っと信じるひとは、自分で考えることを放棄した人でしょ? 最近の生成AIサービスは情報の引用元を明示しているのに、その確認もしないのは、怠慢よ。」
「う〜ん…その気持ちは、少しわからなくもないな。」
「おじさん。わたしね。この生成AIの使い方で、人類の智慧の構築に必用な人と不必要な人が明確になると思うの。『いらない人』をあぶり出せると思うのよ。」
「それは…怖いな。」
「自分で自分の意見を作らない人、情報を発信しない人に知的な価値は認められないわ。 断片的な知識を咀嚼もせずに右から左に流す人は、沢山の情報を扱うから『物知り』『頭が良い』人と誤解されるけど。知的な価値を作らない人よ。 情報バブラーよ。」
「情報バブラーとは?」
「バブルの頃にお金を使ってお金を稼いだ人がいたじゃない。あれと同じだと思うの。価値を生まずに自分を虚飾する行為は知への冒涜じゃないかしら。」
女の子は怒りながら力説した。
明後日3月6日 いよいよリシンの採集講義です。
https://www.teu.ac.jp/information/2026.html?id=22




