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<橋の上に佇むもの-1>


 夕暮れの喧噪の中、その橋のたもとの石段の欄干の擬宝珠の付いた柱、その下に体育座りしている男の子を、ミヤサワ君は見つめていた。その視線に男の子は気がつき、ミヤサワ君に問うた。


 「おじさんは誰?」

 「僕はミヤサワ君だよ。」

 「おじさんには僕が見えるの?」

 「ああ、僕も君と同じくこの世の者ではない存在だからね。ススム君。」

 「おじさんは僕のことを知っているの?」

 「しっているともさ。君のことをお母さんが探していたよ?」

 「お母さん….」


ススム君はミヤサワ君を見上げていた視線を落とし、膝の中に顔を埋めて小さな涙声で呟いた。

 「お母さん….」


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 今から40年前に川の向こう岸で大きな火事があった。ススム君の住んでいた町の半分が焼けた。


 その日、お父さんは夜勤でいなかった。夜の火事は恐ろしい。町が燃えている。大きな怒鳴り声と、半鐘と消防車のサイレンの音、火の燃える音の中、お母さんはまだ生まれて1年も経っていない妹を抱きかかえ、ススム君の手を引いて、町の中を逃げた。妹は怖がって、お母さんの腕の中で、身をよじって泣いていた。ススム君も泣きそうになったが、お兄ちゃんの矜持で泣かずにお母さんの手を強く握って避難した。


 「ススム! 絶対に手を離しちゃダメよ!」

お母さんが叫ぶ。

 「わかった!」

僕はお母さんの手を強く握った。


 川に掛かる細く長い人道橋の向こう側の『街』は延焼していなかった。街は繁華街であったけど、深夜過ぎには人気も無く、暗闇だった。多くの人が火を避けて橋に殺到した。橋を渡り終えた人たちは安心感と、暗い細い街の小径に躊躇したため、その歩みは遅く、人の流れは滞った。そのため橋の上ではますます人が詰まりとんでもなく混雑していた。


 「お〜い! 立ち止まるな! 進め進め!後ろが詰まっている!」

 「落ちる! 落ちる! 橋から落ちる!」

 「子供がいるんだ! 潰れちまう! 押すな!押すんじゃない!」

 「おばあちゃ〜ん!」

 「あなた〜!」

誰かが叫ぶ。怒号が飛び交う! それでも、ますます混雑してくる。人の流れが止まる。橋の上ではひとがぎゅうぎゅう詰めだ。ススム君と妹とお母さんはこの混乱に巻き込まれた。石の橋も過重で落ちそうだ。欄干が倒れそうだ。


 橋のたもとには3段ほどの石段があり、真っ暗な繁華街の小径につながっていた。ただでさえ暗くて足下が見えないその石段で将棋倒しが起こった。人がなだれるように折り重なった。その中で、ススム君はお母さんの手を離してしまった。


 「ススム!!!」

お母さんの絶叫を聞き、僕は「おかあさん!!」と叫びたかったが、人の山に押しつぶされ、息をすることもできなかった。




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