召喚2日目1:汚らわしき魔族
勇者召喚2日目。
「何か、懐かしい夢見たな。」
俺は苦笑した。何をどうすれば、あんなヤバい女と最終的に結婚してしまうのか、自分でも不思議で仕方ない。ただ、一つだけ言えることがある。
「あいつと居られた時間は幸せだった。」
俺の視線は朝日の差し込む窓の奥、どこか遠くに向いていた。
そうそう、今俺が止まっているのは、村の宿屋。アンデット退治で村々をまわっていた結果、王城には戻る暇がなくて、急遽泊まることになった。
本来なら数日はあの豪勢な王城にいられたはずだったんだがな。残念だ。
「朝ごはんをお届けにゃあ!」
騒がしい声とともに勢いよく扉が開かれる。現れたのは、猫耳のついたショートボブの女の子。後ろには同じ顔つきだが、やや落ち着いた印象のポニーテールの猫耳少女がいる。見たところ姉妹だろう。
「ああ、ありがとう。ここ部屋に持ってきてくれる感じなんだ。」
皿の上に載っていたのは、丸いパンと目玉焼きやソーセージなど。おいしそうではあるんだけど、ちょっとお米が恋しい。手を洗おうと、立ち上がるとショートボブの方が近づいてきた。
「チップを頂戴にゃ。」
「え、ああごめん。そういう文化がないもんで。ちょっと待ってね。」
チップか、日本人にはなじみない文化だが、ここは日本ではない。素直に従うべきだろう。だが、その様子を見ていたポニーテールの方が腕を組んで言った。
「ちょっとお姉ちゃん?そういうのはダメって言われてるでしょ。」
「バレなきゃオッケーにゃ。」
「そういう問題じゃないでしょ!」
さて、困った。これあれだ。甥っ子におもちゃをねだられているんだけど、ママには内緒にしないと怒られちゃうやつだ。少し逡巡してから俺は、財布を開いた。
「いいよ、あげるよ。」
俺は2人に10フラット硬貨を1枚ずつ渡す。ちなみに1フラットが50円くらいなので、大体合わせて1000円くらいにはなろうか。
「よろしいのですか?」
ポニーテールの方が不安そうに尋ねてきた。強かな姉と違い、真面目な子のようだ。
「もらえる分はもらっとけ。」
「ありがとうございます。」
俺は優しく微笑んだ。姉妹は、嬉しそうな様子で部屋から出ていこうとする。だが、タイミング悪く扉が開かれ、宿の主人が姿を現した。
「おい、お前らその金は何だ?」
「「ひっ!」」
強面の主人は、姉妹を睨みつけると不機嫌そうにため息をついた。姉妹の顔は青ざめている。かなりキツイお仕置きが待っているのかもしれない。ばつが悪いなと思っていると、主人がこちらに避難の視線を向けてkチア。
「お客さん、困りますよ。こいつらにチップをよこすなんて。」
「ちょっとぐらい許してやってください。可愛い子たちじゃないですか。」
「可愛い?此奴らは奴隷ですよ。チップを集めて、逃走資金源にされたら堪ったもんじゃない。」
「奴隷?そうか、この子たち魔族か。」
俺はこの時、自らの迂闊さを呪った。そうだ、この世界において、獣人、エルフ、オークといった魔族は全て穢れているとされた存在。王国は、彼らを奴隷として虐げている。
「こういう汚らわしい魔族は最低限の衣食住だけ与えて、生かさず殺さずにしないと。団結して反乱なんか起こされたら堪ったものじゃない。」
主人は、姉妹からチップをひったくると、俺に押し付けた。
「これはお返しします。頼むから2度とこんなことやめてください。」
「……わかりました。」
姉妹には悪いがトラブルを起こしたくはない。従わざるを得ないだろう。主人は怯える猫耳姉妹の首根っこを掴むと、そのまま奥に引っ込んでしまった。この後、彼女らにどんな懲罰が待っているかは想像に難くない。
ゲームをやっていた頃は、この差別構造も物語に深みを与えるスパイスとして高く評価していた。しかし、こうやって目の前で見ると気持ちのいいものじゃないな。
宿屋の主人と入れ替わるように現れるメイ。困惑気味な様子だった。
「直太様、あれは明らかな差別です。
「あまり気にするな、所詮ここはゲームの中の世界なんだ。」
「しかし、やはりおかしいです。」
「そんなのは目に見えてわかることだ。だけど、俺たちに何ができるんだ?」
メイはそれ以上何も言えず、押し黙ってしまった。
差別の構造を打破するのは、単に敵を倒すことより余程難しい。現実世界の長い歴史がそれを示している。俺一人が何をやろうと無駄なことだ。見て見ぬ振りをすれば俺に不利益はない。




