召喚当日4:回想・千穂乃との出会い
あの後も、村に湧くアンデット退治を何件か行ったのだが……メイとガルドさんが援護
し、進太郎君が美味しいところを持っていくという一連の流れが常態化していた。
「なあ、メイ。俺は今ゲームの世界にいるんだよな。」
「はい、そのようですね。」
「なのに、全く出番がないし、折角伝説の武器もらったのに銃が活躍しているし……こんなの、こんなのロマンの欠片もねえ!」
「まだロマンだのなんだの言っているんですか。」
「子供の頃からの夢が、こんな形で歪められるなんて。」
俺は、机に突っ伏して号泣した。流石のメイも、泣かれるとは思っていなかったようた。困り顔で返答する。
「そこまでショックだったとは……ですが、直太様がやるべき仕事が減ったのですよ。」
「フォローになってねえよ……ああ、もう!そうだな、仕事がなくて楽だなあ!」
「拗ねてしまいましたか。どこまでも子供っぽい人です。」
俺は立ち上がると、ささっと寝間着に着替えてベッドに入った。
「今日は寝る、ふて寝ふて寝だ。」
「そうですか。明日には機嫌直してくださいね。面倒臭いので。」
メイの奴、こんな時くらい優しい言葉かけてくれ……
もうやっていられない。俺は、頭まで布団をかぶり、眠りに落ちるのを待った。
3年前のことだ。国家直属の対テロ特殊部隊、東京都内幸町の地下に隠されたその本部。隊員の一人であった俺は、上官からある宣告を受けた。
「俺、今日から新しいバディと組むって……急ですね。」
「こっちも色々あってな。いくら、専門性の高い特殊部隊でも配置換えはある。確かに急だが、どんなバディとでもやっていけて、始めて1人前というものだ。」
「わかりました。」
俺の目の前で、椅子に腰かける顎鬚のある角刈りの男。部下として彼の人柄、優秀さはよく知っている。彼がバディを選んでくれたなら、心配はいらないだろう。
「ご期待にそえるよう精進します。それで、新しいバディというのは。」
「ああ、本来ならもう来ているはずなんだが……」
上官は、時計を見やる。決められた時間からすでに20分以上経ってしまっているらしい。随分と時間にルーズな奴だ。さて、扉がノックされ、ようやく待ち人が入ってきた。
「ごめんなさ~い、ちょっと遅れちゃいました~。」
どんな奴かと、新たなバディを見やった途端、俺は言葉を失った。風貌は普通だ。丸渕眼鏡に紺のジャケット、ポニーテール。洒落っ気はないが、結構美人だ。重要なのはそこではない。今、俺は、上官への信頼だけで油断した自分自身を全力で悔いている。
「京福君、職場でパンダカーで出社するのは止めるように言ったはずだが。」
「え~。パンダちゃん可愛いじゃないですか。」
「それから、職場内での政治運動と宗教活動も禁止だと言っているはずだ。」
「何ですか、政治・信教の自由を踏みにじるつもりですか!」
そう、そこにいたのは、遊園地などにおいてある100円玉を入れると動くパンダカーに乗った女性だった。パンダカーの後方には左右対称に2本の旗が立てかけられており、片方には『立ち上がれ、ライジングに!シャイニング党』、もう片方には『我々は神だああああ!ブハハハハ!クロトー・ダン教』と書かれている。
「私は日本国を国会からライジングでシャイニングでリアライジングな感じに守りたいですし、最上級の神の宗教、クロトー・ダン教のすばらしさを広めたいんです。」
ちょっと何言っているのかわかんない。
「あなたが直太君?」
「あ、ああ、えっとそうだけど。もしかして君が……」
「うん、今日から直太君のバディ。京福千穂乃だよ。」
俺の顔色は真っ青になった。
「隊長、ず、随分と個性的な方ですね。」
俺は声を震わせて、上官を睨んだ。
「悪いとは思っている。しかし人間としてはあれだが、優秀ではあるんだ。うまく付き合えれば、大手柄を上げられるかもしれない。」
「いや、無理ですよ」
「1年でいい。」
「無理です。」
俺がきっぱりというと、上官は静かにデスクを立った。そして、無言のまま俺の目の前まで歩いてくる。
「え、ちょっと、な、何ですか。」
戸惑う俺をよそに、上官は静かに深呼吸をする。そして、次の瞬間……
「頼む、この通りだぁ!」
うわぁ、土下座したよこの人。
「他の面子は彼女と引き合わせるなり、腰を抜かして逃げ出したり、長期休暇を申請してきたり、挙句、辞職届をかき始めたり、もう散々で。」
そりゃあ、常識のある人間なら誰だってこんな人間と仕事したがらないだろう。
でもなあ、このいい人だからなあ。ここで断ったら本気で困るんだろうな。恩もあるしなあ。
「半年、半年だけですよ。」
結局、引き受けてしまった。
ああ、どうしてあんなのがバディに……
休憩時間になり、自販機が並ぶだけの無機質なフリースペースの席に着く。スマホを開き、同僚たちのグループチャットに助言を求めたのだが……
『京福千穂乃とどうやって仕事をやればいい?』
『ハズレくじ乙。』
『見た目だけは美人だから耳塞いでればいいんじゃねえか。』
『草、まあがんばれ。』
帰ってくるのは禄でもない返信ばかり。読み上げるたびに絶望が襲ってくる。
「終わった、マジで終わった。」
「何が終わったの?」
「う、うわあ!」
「ご、ごめんね。驚かせちゃった。」
改めて、この女、やはり外面は悪くない。やや童顔気味で目がぱっちりしている。しかも親しみやすい話し方だ。むしろ最高のバディなのでは……そう思った矢先のこと。
「日本って、今のままじゃいけないと思うの。だからね、すべての健康的な男女はね、政府管理のAIが算出した最適な子供を産める組み合わせの夫婦になるべきなの。それで子供は2人産むべきっていう義務を設定。それから、生まれた子供は、政府が作った施設に預けられて18歳まで育てられるの。こうすることで子供の経済的格差、教育格差をなくすことができるの。」
「ごめん、それなんてSF?」
やっぱこいつヤバいわ。
「SFじゃないもん、シャイニング党代表、サウザンド天都氏の政治思想だよ。」
「ある意味凄いなシャイニング党。妊娠・結婚の自由やら、LGBTQへの配慮やら、世の中の流れガン無視だね。」
「そんなの気にする必要ないよ。だってあの、ビリオン壇氏も絶賛していたんだよ!」
「誰そいつ。」
「クロトー・ダン教の教祖様だよ。」
なるほど、お前らグルか。クロトー・ダン教の組織票がすべて、シャイニング党に投じられると。政教分離なんて言葉はこいつらにはないらしい。
「さあ、直太君、いや、直君!まずは一緒にセミナーに行こうよ。」
「いや、遠慮しておくよ。」
セミナー、せめて合コンとかもう少しマシな誘い文句はないのか。
「今、セミナーに参加すると、最上級の神の聖水と、この洗脳浄化装置をもれなくもらえる!」
聖水とやらを入れたボトルと、アルミホイルで作られた被りもの。胡散臭い代物を両手に携え、目をキラキラさせて語る千穂。
「聖水(意味深)……ってか、洗脳なんかされてねえよ。」
「されているよ、自分でも気が付かないうちに。毒電波によって侵されているんだよ。」
「ああ、次から次へとよく、設定思いつくな。」
誰かこいつの口を針と糸で縫い付けてくれ。
「つうか、国民全員結婚って。お前はそれでいいのか?」
「何で?」
「例えばの話だが、ある日突然、AIに俺なんかと結婚しろって言われても困るだろ?」
「ふえ?私が直君と結婚?」
「人に思想押し付けて、自分は外野のつもりか?」
「あ、えっと、その……」
千穂乃は、顔を真っ赤にさせる。
いけね、これなんかのハラスメントに該当するかも。いやまあ、この女相手なら何言っても黙認されそうな気もするが。
「まだ会ったばかりだよ。そういうのは、関係を深めて……ね?」
千穂は指をもじもじと絡ませながら、戸惑い気味にこちらを見る。その反応は止めてくれ。
「おい、こら!例え話を本気にするんじゃねえ!」
俺は、周りの目もはばからず叫んだ。こいつと結婚なんて噂が広まったら洒落にならんぞ。




