余暇4:ミラとメイ
日が沈みかけ、空が赤く染まるころ。俺たちは、魔王城の地下通路を歩んでいた。
地下通路と聞けば、手掘りの洞穴みたいなものを想像する。だが、ここでは壁や床は石を敷き詰め、しっかりと舗装されている。
ある言っていった先には、小さな広間があった。等間隔に複数の扉があり、その扉一つ一つに警備のアンデットが配置されている。
「ここは何だ?」
「情報屋やミラのように王国から寝返った者、つまりは味方に引き入れたいが信用が置けない者を匿う部屋だ。」
「へえ~。」
確かにここなら、魔王城の中枢まで少し距離がある。万が一魔王軍に牙をむいても、すぐに致命傷にはならないだろう。
「ここは私が管理している。魔王様が訪れることはまずない。」
「ああ、助かる。」
千穂にとっては、命を奪われかけた相手だ。会わせるわけにはいかない。
部屋の中には、ベッドや水場、家具などがそろっている。本や観葉植物などもあり落ち着く空間だ。ここに連れてきたのは、ノクシエルがミラを捕虜ではなく、仲間として歓迎する意思の表れだろう。
「思いのほかいいところね。ありがと。」
ミラは、振り返って屈託のない笑みを浮かべた。ノクシエルは、少し顔を赤らめて、それをごまかすように言った。
「あ、ああ。快適性は保証するが、ここでは日の光が浴びることができない。入口にいるアンデッドの監視付きなら外出を許可するから、1日1度は日の光を浴びろ。」
「まるでお医者様みたいね。」
「管理者として当然のことをしたまでだ。」
「ふふ、真面目なのね。」
自然体で、会話するミラ。そこに死神と呼ばれた殺し屋の面影はない。ちょっと前まであれほど憎かったはずなのに、今ではそんな思いは全くない。
ミラはおもむろに、メイに手招きをする。メイは一礼してから、彼女と同じソファに座った。二人はそういや面識があったんだな。
「改めて、YME-231、久しぶりね。」
「それは、昔の名前です。メイとお呼びください。」
「じゃあ、メイ。どうして、黒き鳥の暗殺アンドロイドだったあなたがここに?」
「私は、千穂乃様によってプログラムを変更されました。今は千穂乃様と直太様のメイドです。」
「そう。人形みたいだったのに、随分感情豊かね。」
「ミラ様がそれ言いますか?」
「それ、どういう意味よ。」
ミラはメイをジト目で睨みつける。ミラとしては不満らしいが、正直メイと同じことを思った。
「その人形みたいだったころの昔のメイについて詳しく。」
何かノクシエルが急に聞いてきた。そんなに気になるか?どうせ大して面白い話もないだろ。そんな風に高をくくっていたが……
「無表情で聞かれたことにしか答えない。指示された命令はミスなくこなす。人間らしさはあまり感じなかったわ。ただ……」
「ただ?」
「阿久人の趣味でスクール水着とか、ゴスロリ衣装とか、着せられていて……」
「いやあああああああ」
突然、メイが顔を真っ赤にして叫び出す。これは意外と面白いことになってきたぞ。
「え?」
「ミラ様、そのコスプレの記憶はお忘れになってください、でなければ私は、あなたの頭に強烈な一撃を叩き込まねばなりません。」
メイはミラの肩を掴み、涙目で懇願する。ミラは戸惑いながらも、必死に頷くが……
「そ、そうよね、犬のコスプレで無表情でお手している写真とか、見せたくないものね。」
「ぎゃああああ!」
さらに地雷を踏んでしまったようだ。耳を塞ぎ、白目をむいて発狂している。いやあ、愉快愉快。
「ミラ、メイの恥ずかしい衣装について詳しく!」
俺をいつも虐げてきた罰としてたっぷり悶絶させてやる。あくどい笑みを浮かべ、俺は彼女に詰め寄った。
「え、えっと。」
「この調子ならまだまだあるんだろ。メイの恥ずかしい話。教えてくれよ。」
「ちょっと難しそうね……」
「え?なんでだ?あっ……」
「直太様、どうします?黙って全て忘れますか?それとも私に倒されますか。」
メイは処刑人のごとく、冷たい声で問うてきた。背中には、ガトリング砲(どっから出したかはもう突っ込まない)が突き付けられている。
「お、俺は何も見ていないし聞いていないし知らない……」
「よろしい。」
ちっ、折角弱点を掴んだと思ったのに。だが、命は惜しい。選択の余地はなかった。




