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余暇3:許す

 だが、彼女に新手からの攻撃が振り掛かる。それは、魔術によって動く2つのブーメラン。ノクシエルが得意とする攻撃だ。


「貴様が苦戦しているのはわかっている。無理をせず、私を頼れ。」


「手出しをするなといったはずだが。」


「冷静になれ!最優先すべきは抹殺ではなく、自分の安全だ。」


「くっ、勝手にしろ。」


 悔しいが、ノクシエルの言う通りだ。1年前より、ミラはさらに手強い。意地を張って死んでしまっては本末転倒。加勢を許すのもやむを得ない。


 ミラの鎌はブーメランすらも切り払う。


 だが、休む暇はない。拾っておいたビームガンと呼びのビームガン。二つの銃口から放たれるビームがミラを襲う。


 咄嗟に展開した防御膜。だが、ビームの雨に敵わず、すぐにひびだらけになっていく。


「これもおまけにくれてやろう。」


 ノクシエルはその手に、魔力を凝縮。ビームに変換し、ミラめがけて放つ。


 ノクシエルの必殺技。敵として戦うときは鬱陶しかったが、味方になる随分と頼もしい。


「くっ、これじゃあ、持たないわ……」


 限界を迎えた防御膜。ガラスのように、割れて崩れた。


「見たところ、ミラが使えるのは防御魔術だけのようだな。」


「あとは貴様一人で十分だろう。」


「……助かったよ。」


 まさかこいつに礼を言う羽目になるとはな。ノクシエルは、鼻にかけることなくゆっくりと頷いた。


 俺は決着をつけるため、ミラにゆっくりと近づいていく。


「覚悟しろ、死神。」


 これまでと違い、1発ずつ狙いを定めてビームを放つ。魔術のしようと戦闘で疲弊しているミラ。ビームを乱射して突っ込んだときより、防ぐのに苦戦している。俺はただ、正確な狙いで引き金を引くだけ。その行為が、ミラをゆっくりと確実に敵を追い詰めていく。


「ここで仕留める!」


 最後はあっけないものだった。ビームが彼女の右手と左足を貫く。


 鎌を落とし、彼女はその場に倒れこむ。


「決着はついたな。」


 俺ははやる心を抑え、彼女の頭に銃口を押し当てた。すぐには殺さない。生殺与奪の権を握ることで、ミラに自身の完全なる敗北を認めさせるためだ。


「……降参よ。まさか魔術にも対応してくるなんて。」


「最後に言い残すことはあるか。」


「命乞いをしたら、許してくれるかしら。」


「無理だな。」


 俺は逡巡の迷いもなく、即答した。こいつを生かしておく理由などない。


「わかったわ。」


 ミラは意外にも、潔かった。まあ、命乞いなど聞く気もなかったが。


「これで終わりにする。」


 そうだ、千穂のために、こいつには死んでもらう。俺は引き金を引こうとした。


 その時だった


 体を強い衝撃が襲った。ノクシエルが体当たりしてきたのだ。


「何をする!」


「この女は生かしておく。」


「ふざけるな。こいつを許すつもりなのか。」


「魔王様を殺しかけた事実は認めよう。しかし、それは彼女自身の意思なのか。」


「何?」


 ノクシエルは彼女に向き直ると、問う。


「ミラといったな。貴様、使い捨ての駒ではないのか?」


 ミラは一瞬目をそらし、複雑そうな表情を浮かべる。そしてゆっくりと頷いた。


「そうね。残念だけどその通りよ。」


「冗談じゃない。確かに千穂と戦ったのは、首領の命令だろうさ。けどな、こいつは、多くの罪なき人を殺したテロリストに属していたんだぞ。」


「そうなのか?」


「ああ、黒き鳥は、守る者もなく空っぽの大義のために、不要な破壊と殺戮を繰り返していた。魔族を守るために戦う、魔王軍とはまるで違う。」


 ここで彼女を許すことは、千穂の安全だけでなく、黒き鳥による犠牲者への冒涜になる。罪を清算させることはできないが、それでも彼女の死が、いくらかの救いになると信じている。しかし、ノクシエル納得しない。


「なるほど。だが、それすら彼女の意思でないとしたら。」


「それはどういう意味だ。」


「ミラ、貴様は幼い頃に誘拐され、組織の道具として育て上げられた?」


「よくわかったわね。」


「何だと……」


 誘拐?思わぬ単語の登場に俺は戸惑う。ミラは、目を伏せると、淡々と、だがどこか物悲しそうに語りだした。


「私はある組織の殺し屋と育てられたわ。その後、資金繰りが厳しくなった組織は私を別の組織に売り払った。それが何度か続いた。黒き鳥に入った時も、私の意思は関係なかったわ。」


 俺は言葉を失った。俺がテロリストとして、倒してきた者たちの中にも同じ境遇の者がいたのだろうか。だとしたら、俺は被害者に銃口を向けていたのか。


「ビルの崩壊に巻き込まれて、この世界に飛ばされても状況は変わらなかったわ。なぜか、私の素性は王国に割れていて、従わなければ、野垂れ死ぬしか選択肢はなかったわ。」


 選択の自由のない、理不尽と無力感。想像してしまったら、彼女を責めることなどできるだろうか。


 しかし、脳裏によぎったのは崩壊するビル。千穂と離れ離れになったあの日の後継。頭では、彼女のせいでないとわかっていても、トラウマがそれを拒否する。


「彼女はあくまで、下っ端に過ぎない。もっと言えば被害者みたいなものだ。常葉直太、貴様もわかるはずだ。」


「でもこいつは、こいつは千穂を……」


「私にだって魔王様は大切なお方だ。だが、魔王様がこのような境遇の女を殺すことを望むか。」


「うるさい。こればかりは話が違う。」


 千穂なら、確かにミラを許すだろう。彼女は優しい。だが、それが彼女のためになるのか。やさしさに付け込まれ、暗殺されてしまったら。この世の中は、恩を仇で返すような人間だって少なからずいる。 


「結果論だが魔王様は生きているのだ。ミラは仇ではない。」


「そういうことじゃないだろ!だいたい、この女を信用できない。降参した振りをして、千穂を狙うかも……」


「直太様、落ち着いてください。」


「メイ?」


 普段クールな彼女の大声に、俺は目を見開いた。彼女は、ミラと俺の間に立つ。


「私も元は、黒き鳥のアンドロイドです。」


「そうだったな。だがお前は人間とは違う。再プログラムされれば裏切る心配はない。」


「ええ、ですが、黒き鳥時代の記憶は引き継いでいます。黒き鳥時代の私と今の私は


 大きく違いますが、完全な別物ではありません。」


「でも……」


「私の知る限り、ミラ様はあまり任務に前向きではありませんでした。どちらかといえば仕方なく行っていたように見えました。」


 メイは俺の頬に触れた。穏やかな表情で俺を見つめる。


「直太様の意思に逆らうことは致しません。ただ、できる事なら、私に免じてミラ様を生かしてはいただけないでしょうか。」


 何か、俺の中にたまっていたものが浄化されていく。リラックスし、怒りや焦りが消えていった。


 俺はノクシエルの肩を掴む。


「約束しろ。この女には、千穂に指1本揺れさせるな。」


「ああ、誓おうとも。」


 彼は強いまなざしで頷いた。ミラを信用したわけじゃない。だけど、今すぐ結論を出してもきっと良い結果は得られない気がしたんだ。


「貴様の実力が惜しい。魔術も伸び代がある。魔王軍に来てくれないか?」」


「生かしてくれるならそれに縋らない理由はないわ。」


 ノクシエルは、手を差し出した。その手を掴んだミラの目には、光が浮かんでいた。


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