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余暇2:襲撃者

 適当に歩いていると、ひと気、いや魔族気のない路地裏に出た。一応、そんな場所でも舗装はされているので、魔王城下では、インフラは頑張っているようだ。


「こういう雰囲気も嫌いじゃないな。」


 俺は呑気に、写真を撮っていた。そんな時だった。


「メイ、危ない!」


 突然、ノクシエルがそう叫んだ。次の瞬間、彼女めがけて鎌が振り下ろされる。


 鎌が突き当たったのは魔術による 半透明の防御膜。間一髪、ノクシエルが展開してくれたようだ。だが、安心するのは速い。この鎌の1撃で防御膜にはひびが入っていたのだ。


「鎌使い、まさか?」


 俺は、嫌な予感がして、襲撃者の方を見やる。そして俺の予感が間違いでないことを確認する羽目になった。


「黒き鳥の死神、ミラ!?」


 見間違えるはずもない。黒いゴスロリ衣装、長い銀髪、紫の瞳。


 1年前、黒野阿久人の追跡に対する足止めとして現れた強敵、ミラ。千穂がビルの爆発に巻き込まれることになった原因の一つでもある。


「どうしてこいつが……」


 衝撃と混乱で、頭の中の整理がつかない。いやな動悸が止まらず、息が荒い。


 落ち着け、ここに千穂はいない。メイならやられても直せる。1年前の悪夢は再来するはずがないんだ。


 大きく深呼吸し、心を落ち着かせる。完全に冷静とまではいかないが、いくらかマシだ。


「何も不思議なことはない。千穂がこの世界に飛ばされたんだ。同じ場所にいたミラがこの世界にいないわけないよな。」 


 俺は、襲撃者を直視し、前へ出る。ビームガンを取り出し、その銃口を向けた。


「ノクシエル、メイ、手は出すな。こいつは俺が仕留める。」


「何か貴様と因縁があるのか?」


「ああ、千穂はこの女のせいで死にかけた。」


 俺は、1歩1歩ミラに向けて歩いていく。鎌の刃が俺の頭を襲う。だが、恐怖はない。ギリギリの所で体をそらし、これをかわす。


「すでに一度攻略した相手だ。恐れるに足りない。」


 危険なやり方だが、これで至近距離に迫れた。ビームガンを連射する。咄嗟に後ろに飛びのくミラ。ビームが腕をかするが、深手は避けた。


「相変わらず簡単にはいかないな。だが、これならどうだ。」


 おなじみサブウエポン、煙幕装置。ミラに投げつけ、その視界を奪う。彼女の動きを封じた。この隙をついて後ろに回り込む。


「正面からの攻撃はまぐれで防がれるかもな。だが、視界がない状態でどうやって後ろからの攻撃を防ぐ?」


 銃口が煙の中にうっすら浮かぶミラの背中を捉えた。


「取った!」


 俺は勝利を確信。引き金に手をかけた。だが、次の瞬間、ミラは俺の方を振り向いた。


「何?」


 慌てて放った1撃はあえなく回避。俺の目前に肉薄してきた。退避が間に合わない。振り上げられた鎌。やけくそでビームガンで受け止めようとする。だが、無理があった。


 振りおろされた鎌、その勢いを殺しきれない。


「しまった!」


 耐えられず、ビームガンから手を離してしまう。


 その場に倒れこみ、転がる。すぐに起き上がった。だが、ビームガンの転がっている場所まで距離ができてしまった。その位置よりミラは近い。取り戻すのは困難だ。


「マジかよ。」


 丸腰の俺に、ミラの斬撃が容赦なく繰り出される。その一振りは、致命傷には十分なもの。俺になすすべはない。


「とでも思ったか?」


 銃声。それは、腰のあたりに低く構えられていた2つ目のビームガンのものだった。ビームは鎌を弾き、彼女はすぐに後ろに飛びのく。


「予備のビームガンくらい、隠し持っているに決まっているだろ。」


 俺はそう笑ってすぐ、走り込み、一気に距離を詰める。


 鎌を構え、これに対応を試みるミラ。だが、俺は鎌の柄の部分を蹴り上げた。その勢いで高く跳躍する。


 意表をつかれバランスを崩したミラ。すかさず、ビームガンを撃ち込む。


「これで終わりに……何?!」


 仕留めたと思った。ビームは食い止められている。魔術による防御膜によって。どうやら彼女にも魔術の適性があるようだ。


「同じように攻略できると思ったかしら。」


 ミラは挑発的な笑みを浮かべた。急に表に出てきた彼女の感情。俺は一瞬戸惑ったが、すぐに平静を取り繕う。


「なんだ、しゃべれるのか。」


「必要なら、言葉も武器にするだけ。今のあなたには私の言葉が憎いでしょ?」


「こいつ!」


 最初からではなく、この段階で口を開くあたり、向こうも追い込まれている。焦らず戦えば、勝機を逃すことはない。それは理解している。


 だが、湧きあがる怒りと焦燥を抑えることはできない。


「王国は強大よ。過ちを認めて服従しなさい。」


「他の世界から勇者召喚しているような王国が強大?面白い冗談だな。」


「京福千穂乃と同じように、魔王軍のお仲間を失いたくないでしょ。」


「黙れえ!」


 俺は無我夢中でビームガンの引き金を引く。こいつを仕留めければ、また千穂乃と離れ離れになる。今度は本当に死んでしまうかもしれない。仕留めないと、何が何でも。


「千穂乃は死んでない。お前に殺されたことは一度もない。過去も、今も、未来永劫!」


「へ、へえ、しぶといわね。じゃあ、もう一度奪うまでよ。」


「させるかああ!」


 激昂した俺は、防御膜相手にビームを連射し、そのまま体当たりする。防御膜にも耐久力の限界はある。ガラスの窓のように、防御膜を突き破った。


 だが、目のまえに会ったのはミラの拳。


「鎌の斬撃を受け止められるなら、これはどう?」


 ミラはそう笑って、拳を突き出す。この攻撃は予想できなかった。腹部を直撃し、俺は後ろにぶっ飛ばされた。


「ぐっ……」


 地面に転がされる。立てなくなるほどの痛みではなかった。しかし、俺を仕留める隙を作るには十分。


 体勢を立て直せたときには、その頭上に鎌が振り上げられていた。


「くそ!」


 避け切れない。殺される。俺はこの女に負けたのか……千穂を巻き込んだ、この女に。


 俺は絶望した。

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