余暇1:他愛のない話
俺が魔王軍に来て2週間。俺とメイの姿は魔王城下の街、キサーラにあった。魔王軍の支配領域における事実上の首都だ。
千穂の生存が確認できた今、身だしなみも整えようと考えた。今の俺は、髭を剃り魔族の市場で買ったクリーム色のゆったりとした長袖を着用している。ゲームだと村人Aみたいな恰好。
メイは、フリル付きのワンピースに、エプロンを重ねている。こちらもゲームの中の村娘の格好だ。
「暑すぎず、寒すぎずいい気候だな」
「日本と同じように、魔王領にも四季はあります。もう少し経つと、暑くなるようです。」
「ほお。しかし、キサーラの町は静かでいいね。」
俺は、一眼レフカメラを取り出し、ピントを合わせてシャッターを切る。モニターで画像を確認し、いい感じの出来になって満足する。偶然ではあるが、家から持ってきたバッグの中にこのカメラを入れてきてよかった。
「で、何でノクシエルがいるんだよ。暇なのか?」
「貴様にだけは言われたくない!毎日、街をほっつき歩いているだけではないか。」
いつも通り面倒くさいノクシエル。出会う度に面倒なお小言言いやがって。
「キサーラ治安が良すぎて、やることないんだよ。俺だってやる事があれば、きちんと仕事くらいする。」
「魔王軍の仕事は、その多くが王国軍との殺し合いです。千穂乃様が直太様にそんなことを望みますか?安全な魔王城下の警備につかせるのは当然のことです。」
「まあ、メイの言う通りか。」
もし俺に魔王の適性があったなら、きっと千穂を安全なところに匿い、彼女に代わり魔王をやっていただろう。俺が千穂を失いたくないように、千穂も俺のことを大切に思ってくれている。
「それで貴様、最後に魔王様と話したのはいつだ?」
「何言っているんだ、毎日一緒に寝ているぞ。」
「は、破廉恥な……」
お前が顔を真っ赤にするな。男の恥ずかしがる顔とか、見ていても俺にとっては何も面白くない。
「いや夫婦なんだから当然だろ、免疫つけろ。」
「う……夜は知る由もないが、昼間は一緒の姿を見ていないぞ。休息日くらい一緒にいたらどうだ。」
「え~だって、お互いの時間を大切にしたいし。束縛はするのもされるのも好きじゃない。」
俺にも千穂にも、ひとりでやりたい趣味や習慣がある。無理に一緒にいてストレスをためては本末転倒だ。
「それでも、魔王様の夫だというのか。」
「面倒くせえな。話したいときに話せればそれでよくね?」
「良いわけがないだろ、夫婦とはいついかなる時もともに生活し、ともに困難を乗り越え、愛を分かち合うものだ!」
この面倒な奴をどうしようかと頭を抱える。すると、メイが助け舟を出してくれた。
「夫婦間のコミュニケーションと個人の時間の尊重とのバランスこそ、長続きする夫婦の秘訣と考えられます。誰だって、人の目を気にせず自然体でいる時間が必要です。」
「ぐっ……そ、そういうものなのか。」
「はい、私たちが元居た世界のビッグデータを、信じてみてください。」
「ビッグデータ?よくわからんが、説得力が凄い。」
舌戦ではもはや、戦えなくなった。だが往生際の悪いノクシエル。何が何でも俺を負かしたいらしい。
「ならば、私と勝負しろ。貴様が本当に魔王様に相応しいか見極めてやる。」
「神殿で勝負してお前が負けただろ。あれをノーカンといわせないぞ。」
「ぐっ……」
そう、真剣勝負などするまでもない。召喚3日目で、俺は勇者としてノクシエルに勝っていた。あの時、千穂が来なければ、今彼の命があったかすら怪しい。
歯を食いしばって、震えるノクシエル。そこにメイの追い打ちがかかる。
「仮に千穂様が直太様に興味がなくなったところで、あなたになびくとは考えづらいのですが。」
「ゴッホゴホ、う、うるさい!何でそういう話になる?」
「おや、千穂様を直太様に取られて嫉妬しているのでしょう?」
「そんな子供じみたこと……いや子供は大好きだが、そういう幼稚な感情に振り回されるなど断じてありえん。」
何とか取り繕っているつもりのノクシエル。だが、その顔は赤く俺から見ても動揺しているのは明らかだ。
そんな彼に、メイは意味深に近寄ってきた。彼女の手がノクシエルの頬に触れる。何をする気なのだろうか。彼女の行動の意味がわかった途端、俺は、軽い頭痛を感じた。
「素直ではありませんね。その感情、私にぶつけてみるのはいかがですか?」
「ゴーレムもどきに恋愛感情を抱くなど……」
「ダメ……ですか?」
「ぐはあ!」
こいつ、誘惑してやがる。彼女はか細い声に上目遣いでノクシエルに囁く。その甘美な声に、彼の理性が揺れたのは想像に難くない。
「た、確かに背低いし、童顔。好みでいいかも……」
こいつ正気か?正直、面倒な奴ではあるが、魔王軍の仲間ではあるからな。一応忠告はしておこう。
「やめとけ、このビッチメイドは、イケメンなら見境なくなびく分別のない奴だ。この間勇者にもなびいていたし……」
「そこらで黙りましょうか、直太様。今私の手が滑ったら命はありませんよ。」
メイの腕が回転カッターに変形。俺の首を狙ってきた。だから、その血走った目やめて。俺は、必死に頷くとメイも武器を下ろしてくれた。今のもメイの地雷だったのか、迂闊な事マジで言えない。




