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全ての始まりー現実世界のラスボス戦

 勇者召喚の1年前。

 とある地方都市の街角の一角。さびれた商店街のアーケードの奥に、古びた黒い雑居ビルがある。普段静かなこの場所で、この日多くの銃声が響き渡った。

 ビルの最上階、事務所の椅子に腰かけるのは、無精ひげが特徴的な黒い長髪の男。装いは黒いタキシード。その手には、ピストルが握られている。その堂々たる佇まい、まさしくラスボスに相応しい。

 このラスボスに向けて、ビームガンの銃口を向けるジャケットを着た一人の若者。いうなれば主人公こそ、この俺、常葉直太とこばなおただ。

「無駄な抵抗をやめろ。黒き鳥首領、黒野阿久人くろのあくと。お前には、内乱罪、テロ等準備罪など複数の容疑がかけられている。大人しく、来てもらおうか。」

 そう、今俺は、テロリストの逮捕しようとしている。ただし、俺は警察ではなく対テロ用に組織された特殊部隊の一員だ。

「よくぞ、この私をここまで追い込んだな。それは褒めてやろう。」

 今度の容疑者、阿久人は、この状況にも関わらず余裕の表情を崩さなかった。

「第08特殊部隊、いや、その精鋭である君に敬意を表する。だが、私にはまだやるべきことがある。ここで捕まるわけにはいかないのだよ。」

 阿久人がおもむろに指を鳴らす。直後、俺の喉元に向け、鎌が振り下ろされた。俺は寸でのところで飛びのき回避。新手に注意を向ける。鎌を持っていたのは、黒いドレスを着た少女だった。

「手下は全部倒したつもりだったんだが。」

「詰めが甘かったな。彼女は鎌使いの死神、ミラ。私が直々に鍛えた、自慢の戦士だよ。」

 長い銀髪と、あどけなさが残りつつも端正な顔立ち。美しい少女だが、その目は死人のように光がない。

 ミラは鎌を引きずり無言で近づいてくる。床に鎌の刃がこすれる度、甲高い音が鳴り響く。その威圧感は正しく死神の異名に相応しい。

「さて、どうしたもんか。」

 ミラは、床を蹴り跳躍。俺の眼前に着地し、間髪開けず斬りかかる。

「こいつ、速いぞ!」

 感嘆の声をあげながらも俺は、体をそらして何とか回避。ミラの懐に入りビームガンを撃ちこむ。だが、ビームが彼女に届くことはない。

「消えた?」

 そう、消えたように俺には見えた。それほどの速さで彼女はその場から動いたのだ。

 一度敵を見失った。見つける前に不意打ちを食らう可能性が高い。

 俺は、咄嗟に横に体を回転させる。同時に狙いも定めずビームを乱射した。死角がある以上、どこから敵が来るかわからない。ならば、全方位にビームを撃ち込めばいい。弾数にある程度余裕のあるビームガンでなければできない無茶なやり方だ。

「さあ、かかって来いっ!」

 俺の背後には、鎌を振り下ろそうとするミラ。その姿を俺の目が認めたその時、既にビームガンの銃口は彼女の体に向いていた。放たれたビームと鎌が衝突し、甲高い音が響き渡る。ミラは咄嗟に鎌でビームを防いでみせたのだ。

「流石に一筋縄じゃいかないか。だが、ビームを防いでいては素早さを生かせないな!」

 俺は、ミラに向けて、ビームを連射する。襲い掛かるビームにも、ミラは顔色一つ変えず対応。鮮やかに動く鎌がその全てを振り払う。しかし、直太の読みは正しかった。

 彼女は、その場から動く隙を失っている。

「君の素早さには敵わない。だが、手数が少ないのは問題だな。体力の消耗を考えればこちらが有利だ。」

 ミラはその素早さが厄介だった。しかし、その素早さを封じてしまえば、こちらに勝ちの目はある。だが、俺は致命的なことを見落としていた。

「なるほど。ミラすらも攻略するとは流石だ、常葉直太。ならそこで長々と戦っていてくれ。私はとんずらさせてもらおう。」

 阿久人は不敵な笑みを浮かべて、非常扉のノブに手をかけていた。

「しまった!」

 この作戦の目的は阿久人の逮捕。ミラは、下っ端に過ぎない。

「くっそ、ここまで来て!誰か、ミラを足止めしてくれないと……」

 俺は、歯を食いしばった。黒き鳥の手により数多くの命が、帰らぬものになったのだ。その指導者、阿久人を取り逃がしては、さらなる犠牲を許すことになる。だが、ミラを倒さずして振り切るのは不可能だ。

「どうすればいいんだ。」

 策に詰まったその時、あらぬ方向からの銃声。ミラは新手に警戒し、後ろに飛びのく。

「直君、お待たせ。」

「千穂!よく来てくれた。」 

 黄色いジャケットに丸眼鏡。俺のバディ、京福千穂乃けいふくちほの。やや幼く見える美女で長い黒髪をポニーテールでまとめている。任せていた雑魚狩りが済み、駆けつけてくれたようだ。

「千穂、この死神とやらを引き付けてくれ。俺は、阿久人を追う!」

「オッケーイ♪」

 彼女は、ウインクしてサムズアップしてみせた。こんな時でも、陽気な千穂に俺はついつい口角を緩ませる。

「そうだ、直君、戦いが終わったらちゃんと結婚式あげようね。」

 そう、千穂はただのバディではない。数か月前、俺と千穂は籍を入れた。千穂の場違いな会話に俺は戸惑う。これでも彼女のことはよく理解しているつもりだったのだが。

「それ今言うか?費用面の悩み、戦闘中くらい忘れていたいんだけど。大体死亡フラグだしそれ。」

「細かいことは気にしない、折角婚姻届け出したんだから式も挙げなきゃ締まらないでしょ。」

「そうだな。」

 千穂らしい物言いに俺は苦笑した。だが、それが強張った心に余裕をもたらしてくれる

「約束だよ。」

「ああ、約束だ。」


 ミラを足止めする千穂を残し、俺は阿久人を追う。

「待て、阿久人!」

 扉を開けた先には、非常階段で降りて逃げる阿久人。逃げ足は速くはないが、足場のおぼつかない階段で捕まえられる自信はない。

「私には大義がある。この歪んだ世界を力により支配する大義が!」

「知るかそんなもん。お前のせいで今を生きる大勢の人に迷惑が掛かってんだ。」

「多少の犠牲は許容されるべきだ。」

「そんなわけないだろ!どんなに優れた理想でも、それが暴力を許す理由にはならないんだよ!」

 阿久人の行く手にビームガンを撃ちこむ。だが、この程度で足を止めるほど簡単な奴ではない。

 地上に至る前、最後の踊り場に差し掛かった時、阿久人は、手すりを飛び越え地面に飛び降りた。

「地の利はこちらにある!」

 目の前を銃弾がかすめた。見ると阿久人の握るピストルの銃口が、俺を狙っている。

「めんどくせえ、逃げるなら逃げる、戦うなら戦う。中途半端に反撃するんじゃねえ!」

「逃げてばかりではつまらないだろう?」

「ふざけんな!舐めた口きいてないでとっとと捕まりやがれ。」

 これじゃあ、どっちがヤクザかわかんねえな。身をかがめ、半ば転がり落ちるように階段を下りる。弾丸は、絶えず眼前の手すりに降り注いだ。

「こっちも小道具が必要だな。」

 俺は、ポケットから発煙手りゅう弾を取り出し、これを投げ込む。煙幕でかく乱し、時間を稼ぐことにした。

「ちっ、子供騙しを!」

 阿久人のピストルは実弾式、弾数の制限がビーム式に比べ厳しい。煙の中をやみくもに無駄撃ちはできないはずだ。

「阿久人は戦闘慣れしていないとみた。素人の動きなどわかりきっている。」

 煙の中で俺は、阿久人の位置を予測。ビームガンの出力を下げると、呼吸を整え、姿勢を低くする。

「そこだ!」

 俺は、覚悟を決め、煙から飛び出した。予想は当たった。煙を抜けた途端、銃口を向ける阿久人が真正面に現れたのだから。

「当たりぃ!」

「何だと!」

 この時、勝利は確定した。驚愕する阿久人の懐に入りこみ、ビームを数発撃ちこむ。

「ぐああ!」

 反撃する暇もなく、ビームを食らった阿久人。力なく、後ろに倒れこんだ。

「おのれ、この私がこんなところで……」

 名前の通り、悪役らしい捨て台詞を吐く阿久人。俺はその胸倉をつかみ怒鳴った。

「楽に死ねると思うなよ。ビームの出力は下げておいた。お前には、生きて罪を償わせる。」

「ふっ、完敗だよ。」

 阿久人は、自らを嘲笑った。その潔さは、少し意外にも思えた。

「15時27分、黒野阿久人、お前を逮捕する。」

 何にせよ、やっと手錠をかけることができたのだ。こまでくればあとは警察に引き渡すだけ。

「やっと終わったのか。」

 俺は、ほっと胸をなでおろした。これで、これ以上罪のない犠牲者が出ることはない。だが、安心するのはまだ早かった。 

 次の瞬間、轟音が鳴り響く。ぎょっとして、俺はビルを見た。程なく、ビルのなかから、大量の煙が噴き出る。

「え?」

 そして、ビルは崩壊したのだ。一瞬のことだった。そびえたっていたビルは、骨を失ったように瞬時に崩れ去る。その時、俺は何が起こったのか理解できなかった

「何だよ、これ……」

 あの中には、まだ千穂がいた。そして、このビルの下敷きになってしまった。その事実が頭の中を駆け巡る。

「何なんだよこれ!」

 俺の叫びに、答えたのは横たわる阿久人だった。

「残念だったな。このビルは私の脱出からほどなくして、爆弾が作動するように設定していたのだ。」

「お前!」

「あの爆発では君の愛する人は助かるまい。彼女もまた、素晴らしい戦士だった。誠に残念だよ。」

 阿久人の言葉は、皮肉にも本心にも聞こえた。確かなことは一つ、この男はまた犠牲者を増やしたのだ。それも俺の最も愛する人を。

「結局は同じだったな。私の大義と君の正義。どちらも犠牲なしには成り立たなかった。」

「黙れえええ!」

 俺は阿久人の頭を力いっぱい蹴り飛ばす。だが、それで何かが解決するわけではない。崩れ落ちたビルの残骸。誰が見たってわかる。この中にいた人間が助かるはずがない。

「う、う、うああああああああ!」

 俺は狂ったように叫ぶしかなかった。

 当然、その日以来、俺の家にも職場にも千穂乃が帰ってくることはなかった。







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