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召喚3日目8:魔族の町へ1

 

「直君、メイちゃん、折角だし外に出ようか。」


「ああ、いいかもな。」


 そう答えると、なぜか客間の窓があけ放たれた。千穂の魔術によるものだ。


 俺とメイの頭に?マークが浮かぶ。普通開けるのは窓ではなく、客間の扉であろう。千穂は、魔王の衣装に戻すと部屋のタンスから何かを取り出した。


「えっと、何をしているんだ?」


「見て見て、魔法の絨毯だよ。」


「なるほどそう来たか。」


 紫の生地に金の装飾。映画とかでよく見るタイプだ。彼女が窓の外に放り投げると、絨毯は空中で静止、宙を浮いていた。


「空飛ぶ絨毯とは、唐突にアラブ系の文化が混じってきましたね。」


「野暮な事は気にするな、メイ。この世界にも国際交易があるんだろ。」


 この世界にもシルクロードみたいなものがあるのだろうか。お勉強は好きではなかったが、この世界の歴史と地理の授業なら受けたいかも。


「さあ、2人とも行こっ!」


 絨毯は窓に横付けして待機。千穂の手招きに応じ、慎重に絨毯に足を乗せた。正直振り落とされそうで怖いが、好奇心が勝る。


「キャッ!」


「メイちゃん、大丈夫!?」


 バランスを崩したメイを千穂がキャッチする。余程ビビったのか、珍しく涙目になっている。


「今かわいい声がしたな。」


「は?何か言いましたか!」


「い、いえ何も。」


 こいつ、マジギレすると怖い。顔を間近に寄せてくるな、目を赤く光らせるな、殺意の目を向けるな。


「さあ、出発ぅ!」


 千穂が元気よくグーの手を掲げると、魔法の絨毯がうごきだす。


「うおっ!スリル満点だけど結構面白い。


「きゃあああああああああ 」


「え?」「ふぇ、誰の声?」


 聞いたこともないような甲高い悲鳴が聞こえる。千穂と顔を見合わせた。そして2人で悲鳴の主、メイに視線を向けた。


「落ちる!吹き飛ぶ!砕け散っちゃう!」


 メイは真っ青で目に涙を浮かべ、ブルブル震えていた。


「メイちゃん、ごめんね。そんなに怖かったの?」


「あ、アンドロイドが高所恐怖症なわけ……きゃあああ、落ちちゃう!」


 強がっても上手く取り繕えていない。これまで散々、ボコられてきただけにこれは愉快だ。


「いやあ、珍しいものが見れたな。ちょっとすっきりするぜ。」


「うるせえ、でゃまれ、ぶっ殺してやりゅうぅ!」


「おうおう、ついにストレートな暴言来たな。」


 メイは、目を潤ませながら上目遣いで俺を睨みつける。彼女のメイに言われても全然怖くないし、ちょっと可愛い。


「直君、メイちゃん、見て!」


 千穂が指さす先。そこにあったのは、多種多様な種が行き交う街並みだった。小屋のような建物が多く、王国に比べ発展しているとは言えない。だが、入り乱れるその様子は、王国の賑わいに負けるものではない。


「これは驚いたな。ゲームで見たこともない種族とかモンスターもいるぞ。」


「こら、モンスターって呼ばないの。」


「ああ、ごめんごめん。」


 そうだよな、ゲームでモンスターとして倒してきた相手も、同じ知的生命体なんだよな。差別とは、制度だけで解決するものではない。1人1人の意識の変化が、空気を醸成し、社会に変化を促す。


「俺自身が認識を改めないとな。」


 市場の端に降り立ち、絨毯をしまう。


「し、死ぬかと思いました。」


「よしよし、ごめんね。怖かったよね。」


 メイを抱き寄せ、落ち着かせる。随分と手のかかるアンドロイドだ。それは、人間の感情を忠実に再現しているのかもな。


「落ち着いたか?」


「はい、醜態をさらしました。もう、問題はありません。」


「そうだな、問題なら帰りも絨毯で行こうか……」


「死ね。」 


 メイは血走った眼で、俺に包丁の切っ先を向けてきた。


「冗談だから、その包丁しまえ。っていうかどっからそんな物騒なものだした。」


 慌てて千穂が、間に入った。包丁を取り上げ、魔術でどこかに転送してくれる。


「メイちゃん、落ち着いて。直君もあんまりからかっちゃダメだよ。」


「申し訳ありません。」


「さーせん、調子に乗りました。」


 場が収まると、千穂は満足そうに笑う。こういう時、彼女には頭が上がらないな。


「さあ、行こ。私についてきて!」


 千穂に先導されて、俺たちは魔族の町に繰り出した。


 最初に案内されたのは、木組みの小屋。店の呼び込みはベージュの半そでを着たゴブリン、奥にいる店主は白いシャツをパツパツに来ているオーク。見たところ精肉店のようで、ついでに肉を焼いているようだ。


「見て、ここのお肉美味しいんだよ。」


「おいおい、衛生面大丈夫か?」


「簡易的にスキャンして分析しました。成分面、衛生面ともに健康に問題がある基準には達していません。」


「とははいわれてもな。」


 科学的根拠があっても、印象は簡単には変わらない。苦い顔をしていると、ドスの利いた声が聞こえた。


「お、魔王様じゃないか。ちょっと待ってくれ。」


「こんにちは!」


 オークが、重い腰を上げて出てきたようだ。千穂が元気に挨拶する。魔王はここの領地である以上、店主が応対するのは当然なのだろう。


「後ろにいるのは見かけねえ人間だが。新入りか?」


「うん、私の旦那さんだよ。」


「マジか、魔王様の言ってた生き別れたっていう……」


「そうそう。」


「一見パッとしなくて、猫背気味で、友達少ないっていう……」


「ぷっ!」


 メイが思わず吹き出す。なんていわれようだ、俺はショックのあまり頭を抱えた。


「千穂、俺のことそんな風に思ってたのか……うっ……」


 くっそ、悔しい。涙をこらえて俺は縋るように千穂を見た。彼女は慌てて否定する。


「違うの、私は目立たないようにして実力隠している系の、孤高の戦士って言ったのに変に解釈されちゃって。」


「中二っぽく言い換えただけで、あんまり変わんねえ。」


 しょんぼりと肩を落とす俺。すると、オークが、俺の肩を叩いて豪快に笑った。


「はは、悪い悪い。けどな、これには続きがあるんだ。覚悟が決まっていて、強くて、付き合いがいい。世界で何より魔王様を愛している。俺たちはそう聞いてるぜ。」


「千穂!」


 感極まって思わず、メイを抱きしめる。


「直君のこと悪く言うわけないでしょ。元の世界でもこの世界でも一番大切な人だもん。」


「ああ、そうだったな。」


 千穂との熱い抱擁に、メイは頬を赤らめ、オークは朗らかな笑みを浮かべる。


「ええもん見せてもらったぜ。サービスだ、1つ持っていけ!」


「お、おう、ありがと。これは何だ?」


「カエルの丸焼きですね、鶏肉のような味で見た目に反して美味しいと評判です。」


 こんがりと焼けていて色合いはおいしそう。しかし、カエルのシルエットが残っていて、ちょっと抵抗を感じる。一呼吸おいてかじりついてみた。


「うん、確かに美味しいな。鶏肉?とは少し違うか。」


 骨を取り除くのが面倒だが、シルエット以外は結構いける。オークの店主にサムズアップすると、満足そうに微笑んでくれた。

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